米津玄師、初の全国10公演、最終日をレポート
米津玄師 | 2015.05.14
昨年の初ライブから10ヶ月(14本目)、今回は全国7カ所10公演となった「米津玄師 2015 TOUR / 花ゆり落ちる」の最終日を渋谷TSUTAYA O-EASTで迎えた米津は、このツアーで得たものを全て伝える力強いライヴでツアーを締めくくった。
明るい歓声に迎えられて登場した米津とサポートメンバーの面々(中島宏:G 須藤優:B 堀正輝:Dr)は、アルバム『YANKEE』でセルフ・カヴァーしたハチ名義曲「ドーナツホール」からスタート。ステージ後方を彩った歯車状のアニメーションが、米津とバンドのメンバーの白いシャツの上に映り込むプロジェクション・マッピング風の演出で沸かせ、「パンダヒーロー」「沙上の夢喰い少女」「演劇テレプシコーラ」と、同じくハチ名義の人気曲を歌って行く。”ハチ”名義で公開されて来たこれらのボカロ曲を新たなバンド・アレンジで彼自身がステージで歌うと、米津が曲に新たな命を吹き込んでいるように思えた。 「ありがとう、今日は楽しんで下さい」と挨拶した後は、1stアルバム『diorama』からスケール感を出した「恋と病熱」、キレのある演奏で沸かせた「vivi」、ハンドマイクで歌って驚かせた「駄菓子屋商売」とテンポのいい曲を続け、起伏に富んだ歌の「トイパトリオット」、歌うオーディエンスと一体になった「ゴーゴー幽霊船」と人気曲で畳み込むとフロアは手拍子とステップに揺れた。これらの曲は前回のツアーでも演奏していたが、今回はリリースした時系列順のセットで、自分の足跡を辿って見せると言うテーマがあるようだ。そして2ndアルバム『YANKEE』収録曲へ進んで行く。
「次は美味しいものの曲です」と紹介した「メランコリーキッチン」から、幻想的な映像の中でドラマチックに歌った「アイネクライネ」は、それ以前の曲と成り立ちが違うことを実感させる演奏となり、「速い曲をやります、ついてこれますか!」と何度も繰り返してロックっぽく煽った「リビングデッド・ユース」で一気にフロアの温度を上げた。オーディエンスの高揚感を受けて、「花に嵐」は、生音だけで演奏した曲で、バンドらしいスケール感が痛快だった。そこから「マトリョシカ」が小気味のいい喧噪へと突入させたのもバンドでのライヴならではと言えるだろう。途中ドラムだけをバックに米津が歌ってオーディエンスを引き込み,後半は更にテンポアップしてフロアを興奮の坩堝に叩き込んだ。
本編最後の曲を前に、「今まではライヴをやる必要性を感じていなかった。音楽は個人的なもので人前でやる必要はないと思っていた」と語り始め、ライブを行う必要性を人一倍考えた身として「楽しめばいい。皆毎日が楽しいことばかりじゃないだろうから、不安とか恐怖を一時でも遠ざけられる空間を作れたらいいなと思う」、そして以前暮らしたことのある大阪の街を再訪したことを踏まえて「自分が昔住んでいたアパートのベランダに知らない洗濯物がかかっていたり、昔通っていた学校に今は一人も知っている友達がいなかったり。過ごしていた景色は、一瞬にして過去に変わってしまう。だから今日集まって一緒の時間を過ごしたことが、何十年後までその日を生きる糧になればいいと思います。そういう1日を作れることが幸せでしょうがないです。どうもありがとう」と、丁寧に自分の思いを話し終えると、最新シングル曲「Flowerwall」を穏やかに始めた。おおらかなメロディをしっかりと歌う米津の声は、まさに目の前に壁だけれど美しく柔らかい、花の壁を描き出しているようだった。
アンコールは、「Flowerwall」のカップリング曲「懺悔の街」から、『YANKEE』収録の「WOODEN DOLL 」、そしてハチ曲「ワンダーランドと羊の歌」の3曲。自身の歴史を輪のように繋いだ18曲を演奏し終えると、1人ステージに残った米津は「ライヴツアー『花ゆり落ちる』10公演これにて終了です。本当にありがとうございました。また近いうちに会いましょう」と頭を下げた。確かにライヴを楽しみツアーを楽しんでいた。MCで言ったように、個人的な楽しみであり人前で演奏する必要はないと思っていた”ハチ”の曲に、彼は改めて米津玄師のものとして息吹を与え、『YANKEE』と同列に存在させたのだ。そしてこれからは未来に向けて歩調を合わせて行くのだろう。笑顔でステージを後にした彼は一回り大きな存在になっているように感じられた。次に会う時はもっと驚かされるに違いない。
【取材・文:今井智子】
【撮影:中野敬久】
リリース情報
セットリスト
米津玄師 2015 TOUR / 花ゆり落ちる
2015.4.28@TSUTAYA O-EAST
- ドーナツホール
- パンダヒーロー
- 沙上の夢喰い少女
- 演劇テレプシコーラ
- 恋と病熱
- vivi
- 駄菓子屋商売
- トイパトリオット
- ゴーゴー幽霊船
- メランコリーキッチン
- アイネクライネ
- リビングデッド・ユース
- 花に嵐
- マトリョシカ
- Flowerwall
- 懺悔の街
- WOODEN DOLL
- ワンダーランドと羊の歌
お知らせ
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015
2015/08/02(日)国営ひたち海浜公園
MONSTER baSH 2015
2015/08/22(土)国営讃岐まんのう公園
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。