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クリープハイプ、”一つじゃつまらないから、せめて二つくらいやろう”総集編、日比谷野外音楽堂レポート!!

クリープハイプ | 2015.05.27

 上空を雲が覆っている。今にも降り出しそうな空の下、日比谷野音には前編・後編に分かれた全国ツアー“一つじゃつまらないから、せめて二つくらいやろう”の総集編をひと目見ようと、オーディエンスが詰めかけていた。そして、最後まで雨をギリギリ持ちこたえたこの野外ライブは、“総集編”の名にふさわしい、素晴らしい内容になったのだった。

 セットリストは、ホールを回った後編の曲を土台にして、ライブハウスを回った前編の曲が加えられている。さらには今回のツアーでは演奏されなかった「グレーマンのせいにする」などの代表曲が追加 されていて、まさに総集編。ただその真価は、セットリストではなく、ライブハウスでのエネルギッシュなパフォーマンスと、ホールでの歌を聴かせる演奏の両方の良さが、絶妙にミックスされた完成度の高さにあった。

 オープニングは「HE IS MINE」。後編のホール・ツアーでも1曲目に置かれて、開演そうそうに「セックスしよう」と全員で叫ぶという、教育上非常によろしくない“お約束”のある曲だ。尾崎世界観はそのセリフを叫ばせる前に、「皆さん、唐突ですが、明るいうちにこれをやりたかったんですよ。一緒に悪いことしましょう」と、イタズラっぽく笑いながら言った。おそらくこの叫びは、近くの国会議事堂にまで届いたに違いない。

「雨、大丈夫ですね。雨予報だったのに、皆さんのお陰です」と尾崎。演奏はライブハウス並みにハードなのに、印象はホール並みに落ち着いている。特に小泉拓のリズムの安定感が抜群だ。

 今回のツアーの成果をはっきり感じたのは、「本当」からの3曲だった。「本当」のイントロの尾崎のアコギを中心にした小川幸慈とのアンサンブルが、とても美しい。終わってアコギをジャラーンと鳴らし、「ちょうど暗くなってきて、あの人が来るのにピッタリな空模様だと思います」と尾崎は空を見上げ、「グレーマンのせいにする」が始まる。後編では長谷川カオナシのボーカルが驚くほどの成長を遂げた。尾崎とダブル・ボーカルで歌われるこの歌は、ツアーではやっていな かったので、長谷川の成長が本物だったことを如実に物語ることになった。続く「傷つける」も、ツアーでは歌わなかった曲。♪後悔の日々が~♪と歌う尾崎の声が、本当に切ない。この曲がこのライブ前半のピークであり、本編最後のMCの重要な伏線になっていたのだった。

 ツアーを経て、演奏が最も変化したのは「憂、燦々」だった。全体のリズムの取り方が非常に大きくなったせいで、テンポが遅くなったように感じられる。この変化はバンドにとって非常にいいことで、野音のような大きな会場で歌をいちばん後ろの観客まで届かせるのに必要な表現方法なのだ。クリープハイプは、それを手に入れた。だからサビの尾崎の速い言葉が細部まではっきり聴こえ、「憂、燦々」という曲の魅力の全貌が伝わってきた。

 その変化は名曲「左耳」でさらに深まった。これまで聴いた「左耳」の中でもいちばん美しく、僕は思わず息を呑んだ。それはオーディエンスも同じだったようで、「左耳」が終わると大きな拍手と歓声が上がった。

 歌でもう一つ驚かされたのは、長谷川の歌う「火まつり」 だった。サビの♪その冷たい火祭りに僕もまぜてよ♪という部分を、歌の“山場”らしく、必ず声をひっくり返して歌うのだ。長谷川が今回のツアーで彼独自のボーカル・スタイルを確立したと、この歌で納得できて嬉しかった。

 エネルギッシュさと繊細さを両立させてライブは進み、いよいよ本編最後のMCが始まった。

「天気予報の雨マークを見て、『なんでだよ、他のバンドの時に降ればいいのに』と思ってました。なんで音楽を選んで、ボーカルを選んで、このメンバーを選んだんだろう。俺は運が悪いのかなと、今まで思ってきました。だけど、全部ひっくるめて、今はよかったなと思ってます。選んだものは間違ってなかったと思ってます。だってこんなにたくさんのお客さんがクリープハイプを選んで、ここに居てくれる。これからはお互い、よかったなと思えるようにしていきましょう。恥ずかしいこと、悔しいこと、悲しいことを詰め込んだ曲を最後に歌います」と尾崎は言って、「ねがいり」を歌い始めた。

 僕は縁に恵まれて、クリープハイプの恥ずかしい時期、悔しい時期、悲しい時期、後悔にまみれた時期を見て来た。だから尾崎がこの大切な日に付いていた雨マークを、どんな思いで見ていたのか想像ができた。ライブの前半で尾崎がそのことを言い、途中で雨がほんの少し降ってきたとき、胸が締め付けられた。だが、尾崎は、クリープハイプは、長いツアーをやり抜いた自分たちの姿を、このライブで堂々と見せつけた。悲しさや悔しさがクリープハイプの原動力であることは間違いない。だが、そうした運命に立ち向かう姿が、多くのオーディエンスを惹きつけてやまないのも確かなことだ。

 アンコールの最後の歌は、今の尾崎の魂を赤裸々に描く「二十九、三十」だった。文句なく、素晴らしかった。僕はこれまでこの歌を聴くたびに、強烈なデジャヴに襲われてきた。この日、野音でこの歌 を聴いて、その謎が解けた。僕は30年以上も前に、この野音で偉大なシンガー泉谷しげるの「春夏秋冬」という歌を聴いたことがあった。♪季節のない街に生まれ 風のない丘に育ち 夢のない家を出て 愛のない人にあう♪ という歌詞は、どこかでクリープハイプにつながっている。その頃の泉谷は、ことあるごとに人に、世の中に、音楽に噛みついていた。その姿は、僕の心を強烈に揺さぶった。そして今、僕の目の前に尾崎がいる。そういうことだったのだ。<.p>

 もう一度言おう。素晴らしい総集編だった。

【取材・文:平山雄一】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル クリープハイプ

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お知らせ

■ライブ情報

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