東阪で開催されたtricotの結成5周年記念ライブ「お客様感謝デー」の東京公演。感情、演奏、観客、オール爆裂!
tricot | 2015.10.05
2015年9月1日、tricotが5周年記念ライブを開催した。中嶋イッキュウ(Vo&G)、キダ モティフォ(G&Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(B&Cho)の3人がバンドを結成したのは、2010年9月1日。それから5年間、彼女たちはきわめて独創的なスタイル――変拍子を自在に取り込んだ予測不能の楽曲展開、繊細にして鋭利な歌、そして、感情を爆裂させるステージング――を追求し、国内はもちろん、海外のメディア(イギリスのNME.COM、アメリカのRolling Stone.comなど)にも注目される存在に。この日のライブは、まさに5年間の集大成と呼ぶにふさわしい、過剰で濃密な内容となった。
フロアの照明が落されると、ドラムのキック、歪んだベースを用いたSE、そして<なにから はじめよう/どこまで つづけよう>という言葉が聴こえてくる。メンバーが登場し、大きな歓声を受けながら俯いてチューニング。呼吸を整えると、オープニングナンバー「G.N.S」が鳴らされる。この曲は2010年9月30日、京都MOJOでの初ライブでも演奏されたナンバーだ。エッジが立ちまくったフレーズを融合し、一瞬一瞬カタチを変えていくサウンド。そして、現実と幻想の間で揺れ動く感情をシンプルに描いた歌。バンド結成当初から彼女たちは、自分たちの音楽の方向性をしっかりと見据えていた――静寂と爆音が交互に訪れるこの曲を体感して、そのことをはっきりと確信した。
「代官山UNIT、イケますか。しっかり体に、しっかり体に染み付けて帰ってください」(中嶋)という最初のMCのあとは最新アルバム『A N D』の収録曲「色の無い水槽」。凄まじいスピードで突き進むビートに導かれるように「オイ!オイ!」という声が上がり、早くもモッシュが起きる。どこか官能的な匂いを持ったメロディ、メンバーのコーラスワークも印象的。どんな爆音の中であっても、真っ直ぐに歌が突き刺さってくるこの感覚もまた、tricotのライブの魅了だろう。
「“5周年お客様感謝デー”にお越しいただき、誠にありがとうございます! いつもよりかなりチケット代がんばりました(一般1500円。学生500円)。チケット安いからということで、初めて来た方も多いと思うんですよ。でも、tricotの曲って難しいじゃないですか。気分よく手拍子してたらいきなり……(曲の展開が変わる)とか。そこは好きに自由に楽しんでください! 音楽っていいなって思ってくれれば、それでいいので」(キダ)という挨拶の後は「Noradrenaline」「食卓」といった新曲(最新アルバム『A N D』収録曲)から「アナメイン」「夢見がちな少女、舞い上がる、空へ」などの定番曲まで、新旧のナンバーを織り交ぜたステージが続く。いまさら言うまでもないが“Aメロ、Bメロ、サビ”という既存のフォーマットに沿った曲はひとつもない。意外な場所でブレイクしたり、複数のリズムが同時に鳴らされポリリズム的な雰囲気になったり、とにかく想像を超えた展開が続くのだ。それは刻一刻と変化していく人間の感情のよう。ポストパンク、ニューウェイブから先鋭的なジャズまで、tricotの音楽には様々な要素が含まれていると思うが、おそらく本人たちはまったく意識していない。3人のメンバーがそれぞれの感性と技術をぶつけ合い、感情の赴くままに音楽を生み出しているのだと思う。tricotの音楽が自然に身体に馴染むのは、本人たちに作為的なところがなく、どこまでも自由に音楽を奏でているからだろう。緊張感と集中力をキープしつつ、ときおり笑顔を交えながら演奏を続けるメンバー(当然、全員めちゃくちゃ上手い!)、そして、変拍子と不協和音が混じった楽曲で盛り上がりまくるオーディエンスを観ていると、改めてそう思う。
中盤のMCでは、中嶋がチケット代を抑えた意図について改めて言及。「学生500円にしたのは、最近、バンドを知ることをフェスとかで終わらせてる人も多いと思うんです」「でも、ワンマンでしか感じられないものがあって、それを知らずに終わるのはかわいそうと思ったんです。出会うことで人生が変わることもあるかもしれないし、そういうきっかけをtricotが与えられたらいいなと」という言葉からは、自分たちのバンドに対する矜持と、音楽を消費するのではなくしっかりと向き合ってほしいという願いが強く伝わってきた。
ヒロミがボーカルを取る耽美的ミディアムチューン「ダイバー」、中嶋の小学校時代の思い出が反映された楽曲を披露した後、ライブは後半へ。研ぎ澄まされたギターのイントロで大歓声が巻き起こり、<プランクトンにおかされた感情 おぼれて消えた>という大合唱が生まれた「爆裂パニエさん」、キダがサンバホイッスルを吹き、観客とのコール・レスポンスを楽しんだ「庭」、ヒロミがフロアに向かってダイブした「99.974℃」、そして、中嶋がハンドマイクを持って観客に接近し、<ただ、耳鳴り、だけが悲鳴を、あげていた>と叫んだ「MATSURI」。感情剥き出しのコミュニケーション、そこから生まれる狂乱とともにライブ本編は終了した。
アンコールで中嶋は「5年続けてこられて良かったと思います。出会いとか別れとかを無駄にしたくないので、中途半端に音を鳴らすなら辞めたほうがいいなと思っていて。ずっと好きでいて欲しいと思うけど、やっぱりそれは難しいから……ここで出会えてホントに良かったです。ありがとうございました」とコメント。そして、ラストは5年前に初めて3人で合わせたという「laststep」。人魚姫をモチーフにした切なくも美しいこの曲によって、記念碑的ライブは幕を閉じた。
この後は初の北米ツアー、そして、まだ行ったことのない都道府県を回るツアーへと進む。新ドラマー募集の結果を含めて、新たな動きが始まっているtricot。5周年を経て、彼女たちの音楽がどんな進化を果たすのか、しっかりと目撃していきたいと思う。
【取材・文:森朋之】
【撮影:ohagi】
リリース情報
セットリスト
tricot 5周年お客様感謝デー
2015.9.1@代官山UNIT
- G.N.S
- 色の無い水槽
- 飛べ
- おもてなし
- Noradrenaline
- 食卓
- アナメイン
- pool side
- POOL
- 夢見がちな少女、舞い上がる、空へ
- おちゃんせんすぅす
- E
- ぱい~ん
- C&C
- CGPP
- ダイバー
- after school
- おやすみ
- 爆裂パニエさん
- 庭
- 99.974℃
- MATSURI
- 御尻爆弾(期待外れにも程GIRL)
- Break
- Laststep
tricot 5周年お客様感謝デー
2015.9.30@心斎橋JANUS
- G.N.S
- 色の無い水槽
- 飛べ
- おもてなし
- Noradrenaline
- 食卓
- アナメイン
- pool side
- POOL
- 夢見がちな少女、舞い上がる、空へ
- おちゃんせんすぅす
- E
- ぱい~ん
- 消える
- ダイバー
- CGPP
- slowline
- おやすみ
- 爆裂パニエさん
- 庭
- 99.974℃
- MATSURI
- 御尻爆弾(期待外れにも程GIRL)
- Break
- Laststep
お知らせ
tricot ”YATTOKOSA” tour ~日本初場所~
2015/11/13(金)山形 Session w. ジラフポット
2015/11/14(土)秋田 LIVE SPOT2000 w. ジラフポット、and more
2015/11/15(日)青森 SUNSHINE w. ジラフポット、and more
2015/11/21(土)富山 SOUL POWER w. SpecialThanks、the peggies
2015/11/22(日)福井 CHOP w. SpecialThanks、the peggies
2015/11/27(金)山梨・甲府 KAZOO HALL w. シナリオアート
2015/11/29(日)群馬・高崎 SUNBURST w. シナリオアート
2015/12/4(金)岐阜 yanagase ants w. Brian the Sun
2015/12/5(土)三重・四日市 CHAOS w. Brian the Sun
2016/2/5(金)鳥取・米子 AZTiC laughs w. ドラマチックアラスカ、told
2016/2/7(日)島根・出雲 APOLLO w. ドラマチックアラスカ、told
2016/2/11(木祝)佐賀 GEILS w. DENIMS
2016/2/12(金)長崎 DRUM Be-7 w. DENIMS
2016/2/13(土)鹿児島 SR HALL w. DENIMS
2016/2/14(日)宮崎 SR BOX w. DENIMS
2016/2/20(土)奈良 NEVERLAND w. ドミコ、the peggies
2016/2/21(日)和歌山 CLUB GATE w. ドミコ、the peggies
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。