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挫・人間、熱気と悲鳴に包まれた憧れの新宿ロフトワンマン!

挫・人間 | 2015.12.09

 挫・人間が念願の新宿LOFTでのワンマンライブを行なった。開演を待つあいだ、隣に立っていたお客さんが「挫・人間の“挫”は何の挫だろう?」と話していたが、何を隠そう、その意味するところは“挫折”の挫だ。初恋の相手にフラれ、コミュ障ゆえに引きこもりで、バンドを組めば脱退したドラムの後任がなかなか見つからない。そこで溜め込んだ鬱屈を音楽にぶつけることで、かろうじて明日へと食いつなぐ彼らのライブは、バンドが唯一生きられる場所=ライブハウスの一瞬を全力で謳歌するハイテンションなものだった。

 『スター・ウォーズ』のテーマソングをSEに、下川リオ(Vo・G)、アベマコト (B)、夏目創太(G)と、サポートドラマーを務める爆弾ジョニーのタイチサンダーがステージに登場した。4人がメロディーパイプを振り回して決めポーズ。いきなりフロアを湧かせた怒涛のチャイニーズロック「オー!チャイナ!」を皮切りに、《タマミちゃんがひとを殺して遊んでる》と放送禁止ギリギリの歌詞を連呼する「タマミちゃん」へ。オープニングから全開のパフォーマンスで飛ばしまくる。コミカルな動きを見せながら独特の歌唱をする下川をはじめ、米海軍セーラージャケットを着たアベのクールなベースに、空回り気味のギャグを連発する夏目のやんちゃなギタープレイ。強烈な個性を放つメンバーが曲ごとに見せる表情がいちいち楽しくて目が離せない。一方、4人による卓越した演奏力はスリリングだ。

 「こにゃにゃちは!新宿ロフトっていう憧れのライブハウスでワンマンができてうれしいです!」と、下川。サポートドラムのタイチサンダーへの過剰なラブコールを送り、ドラムソロを煽ると、疾走感溢れる「念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ~」ではハンドマイクでステージを所狭しと暴れまわった。バンドの存在意義を問いかける「セルアウト禅問答」からは、爆弾ジョニーからふたり目の助っ人、ドラマチック☆安田がキーボードで参戦。曲が進むにつれて、フロアの熱気は加速するばかりだ。

 10曲を終えたところで、下川がジョークで「あと2曲で終わります」と言うと、「えー!?」とお客さん。それに対して、「愛情を確かめたくて、突き放すクセがあるんですね(笑)」と言うから、下川リオという人物は憎めない。この日は、8月26日にリリースした挫・人間の2ndアルバム『テレポート・ミュージック』のレコ発ライブということで、アルバムからの楽曲が中心に披露されたが、なかでも異色の世界観を見せたのが「十月の月」だった。タイチサンダーがエレドラを叩き、アベはiPadの鍵盤アプリを弾くという変則的なフォーメーション。そこで、下川が抑えめのボーカルで淡々と歌い、エフェクトをかけた夏目のエモーショナルなギターが昂揚感を掻き立てる。この曲のイメージは、コールター・オブ・ザ・ディーパーズとは、インタビューでの下川の談。暴走気味のギターロックで押し切るだけではない、挫・人間のふくよかな表現力が垣間見られた名演だった。

 続く、シティポップっぽい趣の「可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた」(タイトルが長い!)では、タイチサンダーがフロアで踊り出し、下川が「俺もそこに行きたい!」と合流。ライブも終盤にきて、会場にはとても自由にライブを楽しむムードができあがっていた。ちょっと危ないブラコン・ポップソング「お兄ちゃんだいすき」から、下ネタ大爆発の「ちんちん大臣」へ。下川が夏目の髪を舐めたり、くちびるにキスをしたりと、過激で変態的なパフォーマンスが続き、フロアからは女子たちの歓喜の悲鳴が響きわたった。

 本編ラストを飾る「天国」という曲の前に、下川は語りかけた。「天国とはおそらく死んだらいく場所だと思う。でも、この世は地獄なんです。そんな地獄のなかで、ライブハウスは規模の小さい天国だと思う」と。そして、「僕が言うのも何ですが……」と前置きをして、「死ぬな、という曲です」と紹介したミディアムバラード「天国」へと繋いだ。ライブハウスの低い天井に明滅する照明、痺れるようなギターリフと、胸にじゅんとくるメロディ。感情を爆発させる4人の演奏は、挫・人間がロックを必要とした理由そのものだった。

 アンコールの「下川 VS 世間」では、ラッパー風の衣装に着替えて登場したメンバー。タイトル通り世間と下川のラップバトル的な構成の1曲だけに、“世間の声”をゲストコーラスに迎えた佐藤玲とアベが担当。それにひとりで対抗する下川、という構図にフロアは大盛り上がりだ。そして、下川が「初恋の相手にフラれると身体に溜まる毒になるんです。その初恋の亡霊を、除霊するために歌います!」と熱く訴えかけて、ラストナンバー「下川最強伝説」へと突入した。ステージの横に設置していたマネキンの首を愛おしそうに抱いて「大好きだー!」と叫ぶ下川。思い切り突き上げたこぶしが、天井にぶつかるオチにもめげず、「ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!」と何度も感謝を伝えてきた。下川リオという男の感情表現は、最後まで痛快なまでにトゥーマッチだった。

【取材・文:秦理絵】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 挫・人間

リリース情報

テレポート・ミュージック

テレポート・ミュージック

2015年08月26日

redrec / sputniklab inc.

1:念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ
2:セルアウト禅問答
3: 土曜日の俺はちょっと違う(Memory Ver.)
4:オー!チャイナ!
5:可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた
6:十月の月
7:下川 VS 世間
8:もう四日もしてない
9:過呼吸です。
10:今までお世話になりました
11:ロンググッドバイ
12:下川最強伝説
13:お兄ちゃんだぁいすき

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お知らせ

■ライブ情報

奇天烈大発火!!
2015/12/16(水)新宿 紅布
出演:挫・人間、GOMESS、アンナスナック

本棚のモヨコTOUR2015冬『とっても!大団円ツアー』
2015/12/19(土)札幌 COLONY
出演:本棚のモヨコ、挫・人間

RAD CREATION presentsでらロックフェスティバル2016 powered by @FM
2016/02/06(土)、07(日)名古屋栄・新栄のライブハウス10会場以上

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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