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中田裕二、シンガーとしての自分を全うし、率直な想いを伝えた全国ツアーファイナル

中田裕二 | 2016.04.29

 「TOUR16"LIBERTY"」最終公演となった4月17日の中野サンプラザ。中田裕二にとって最も忘れがたいライヴになったのではないだろうか。  13日に新シングル「ただひとつの太陽」をリリースし、その好評を得て彼の誕生日である17日に迎えたツアーファイナルであった。ところが14日夜に彼の故郷である熊本は震度7の激震に襲われた。余震と思われた16日のマグニチュード7.3の地震が”本震”とされた激しい地震が続いていた最中である。中田がどんな思いでいるのか想像もつかないところだが、そんな状況にもかかわらず、この夜の彼は十分すぎるほどにシンガーとしての自分を全うし、同時に率直な思いを伝え、この日の彼にしかできないライヴをやったのだった。
 白いスーツで登場した彼は、最新アルバム『LIBERTY』の1曲目でもある「WOMAN」からスタート。オーディエンスにハンドクラップやコーラスを促し、続いてタンバリンを振りながら「リボルバー」を歌い終わると、明るい調子で語りかけた。 「地元が大変なことになってまして、皆さんも心配されているかと思いますけど、今日はお願いがあります。目一杯楽しんで、終わった後たっぷり募金をしていただければと思います」

 温かい拍手が客席から送られると中田はステージを進めていった。ゴージャスなアレンジで聴かせる「KILL YOUR SMILE」、哀愁漂うメロディとドロップビートがシンクロする「en nui」に観客が聞き入る。すると空気をほぐすように演奏に乗って話し出した。彼がソロになる前にやっていたバンド椿屋四重奏での最後のツアーでの東京公演が、この中野サンプラザだったことを踏まえて、「5年ぶり。あの日のことは今もはっきり思い出せません」と笑いを誘い、「皆さん笑顔見せてください」と呼びかけて奥野真哉のピアノが跳ねる「SO SO GOOD」へ。その流れに乗って朝倉真司のパーカッションがグルーヴする「誘惑」で客席の空気をほぐした。
「せっかく席つきなんで座ってください。次の曲は、ガチのボサ歌謡、作りました」  そう言って歌った「とまどい」はシットリしたヴォーカルで惹きつけ、「春雷」「MUSK」と濃厚な歌を聴かせていく。ボサノバを始めラテン風味を加えた演奏は中田の歌を彼らしい色合いに染め、情感豊かに歌った「朝焼けの彼方に」からファンキーな「ヴィーナス」、ロック色濃い「ROUNDABOUT」と、彼の描く今様アダルト・オリエンテッドな歌が広い会場に染み渡っていった。そのサウンドに、ここに揃ったメンバーは最適だ。前述の二人の他には平泉光司(ギター)小松シゲル(ドラム)隅倉弘至(ベース)。硬派なロックからソウルフルなサウンドまでこなす百戦錬磨が揃っている。この面々との演奏が作り出した流れに乗って、椿屋四重奏時代の楽曲「NIGHTLIFE」を紹介すると歓声が上がった。いつのまにか客席は総立ちで、「UNDO」「LOVERS SECRET」と絶好調のバンドとともに中田も自在に声を発して熱気を高めていった。バンド紹介を曲の中に織り込んだ「月の恋人たち」では、観客と「ク・マ・モ・ト」とコール&レスポンス。その一体感をバネに「STONEFLOWER」を熱唱して本編を終えた。

 やはり様々な思いを心に重ねながら歌っていたのだろう。アンコールに応えて一人でステージに現れた中田は、張り詰めていた気持ちが途切れたのか「久々の中野サンプラザ、みんな来てくれて本当にありがとうございます」と話し始めたものの声を詰まらせ、両手で顔を覆った。しばらくの沈黙の後「歌います」とアコースティックギターを弾きながら歌った「ひかりのまち」。これは5年前の東日本大震災直後に、椿屋四重奏の結成の地であった仙台をはじめとする被災地への思いを込めて作った曲だ。配信曲だったが、CDとしてようやく最新シングル「ただひとつの太陽」の初回限定盤に収録されたばかりだ。その曲を今は故郷の熊本と周辺の人たちに向けて歌う彼の集中力は素晴らしいものだった。歌い終わり、深く頭をさげると、 「熊本も大分も、みなさん焦らなくていいんで、ここからすごい時間がかかると思うんで、落ち着いたら遊びに行ったりとか。募金に協力していただけると嬉しいです」  言い終わると後ろを向いて再び嗚咽をこらえるように一息いれ、 「メンバー呼んで何曲かやりたいと思います。シングルが最近出まして。聴いてくれますか?『ただひとつの太陽』という歌です」  やるぞ!と自分に気合をいれると位置についたメンバーと力強く聴かせた『ただひとつの太陽』、今日初めて歌うと紹介した60年代風のカップリング曲「夜をこえろ」と新曲を続けて最後まで攻める。ソロとなって初のホールツアー、5年ぶりの中野サンプラザ、故郷への思い、全てを込めて彼は歌っていた。最後を飾ったのは「MIDNIGHT FLYER」。メンバーと手を取りステージ前方に並んだ彼は鳴り止まない拍手に深々と頭を垂れた。

 この夜の募金が熊本県に義援金として寄付されたことがホームページで報告されている。

【取材・文:今井智子】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 中田裕二

リリース情報

ただひとつの太陽(初回限定盤)

ただひとつの太陽(初回限定盤)

2016年04月13日

テイチクエンタテインメント

1. ただひとつの太陽
2. 夜をこえろ
3. ひかりのまち
4. BUG
5. イニシアチブ
6. モーション
7. Steady
8. ROUNDABOUT

お知らせ

■ライブ情報

”中田裕二のジャジー・エクスペリエンス”
2016/07/27(水) 大阪 Billboard Live OSAKA
2016/07/28(木) 名古屋 ブルーノート
2016/08/07(日) 福岡 イムズホール
2016/08/14(日) 東京 Billboard Live TOKYO
2016/08/23(火) 仙台 Rensa
2016/08/25(木) 横浜 赤レンガ倉庫1号館3Fホール
2016/08/28(日) 札幌 PENNY LANE 24

”中田裕二の謡うロマン街道”
2016/06/11(土) 山形 酒田港座
2016/07/02(土) 盛岡 内丸教会
2016/07/03(日) 秋田 THE CAT WALK
2016/08/04(木) 神戸 旧グッゲンハイム邸
2016/08/06(土) 鹿児島 キャパルボホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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