東京進出。それは東京以外の都市や地方を拠点とするバンドにとって大きな目標のひとつであり、激変の音楽シーンと言えども変わらないバンドの伝統のようなもの。地元のライブハウスで少しずつ動員を増やし、そのお客さんのエールを受けて東京のライブハウスに立つ。大阪の堺で活動する男女混成3人組ARKSもまたそうやって夢への階段を登るバンドだ。6月17日。下北沢シェルターで開催した初ワンマンライブ。「ここからが始まりだと思います」と言ったボーカル吉田明日香（Vo・G）の強い眼差しが印象的だった。

　今年3月9日にリリースした初の全国流通盤ミニアルバム『Image』のリリースツアーとして開催された今回の東阪ワンマン。SEが流れ出すと、メンバー3人が拍手でステージに迎え入れられた。小柄な女性ボーカル明日香が中央に立ち、その右翼を支えるのがベース“おっちょ”こと落合祐葉（Ba・Cho）。リーダーの池辺涼真（Dr）がふたりを後ろから見守る。1曲目は「私はあなたを卒業する」だった。『Image』のリードトラックでもあるこの曲は歌い手として自分の想いをストレートに表すことが苦手だった明日香が初めて真っ直ぐに想いを書くことできた成長の証となったナンバー。ARKS初ワンマンのオープニングを飾るのに相応しい1曲だった。

　ARKSが鳴らす音楽はチャットモンチーに影響を受けたボーカル明日香のキュートな歌声と、男ふたりのリズム隊がボトムを支えるシンプルで明快なギターロックだ。明日香のクリアな歌声はライブでもはっきりと歌詞を聴きとることができて安心感がある。《私は私であなたはあなた》と自分らしい明日への一歩を模索する「you」をはじめ、この日は『Image』を主軸としたライブだったが、新曲が数多く披露されたのも印象的だった。心と体のチグハグなバランスに悶々とする自分への決別ソング「わがままに変われ、私」、マイナー調でダークな3拍子で聴かせた「月が照らす夜の中」など、全15曲のうち半分近くが新曲。「新曲ばかりやったから緊張する（笑）」と明日香は言ったが、それは急成長するバンドのいまを切り取って音楽にすることを大事にするARKSらしいライブだった。

　初のワンマンライブということで、MCもこれまでより長めに用意してきていた。一人ひとりメンバー紹介をした明日香が「照れてまうな（笑）」とはにかんだのをはじめ、おっちょは、明日香の呼び方を“明日香ちゃん”から“明日香”と呼び捨てにしたいと話したり、ドラムの涼真は曲の前振りで「いけますかー！？」と叫んでみたり、ここぞとばかりにやりたいことを発表する一生懸命な様子が初々しかった。

　バンドにとって大切な楽曲が次々に披露された終盤はその演奏も次第にエモーショナルに熱を帯びていった。思い出が詰まった神戸の景色に自身の想いを重ねて活写した「キラキラした街」のあと、明日香はMCで1年前に初めて東京でライブを行なった会場も下北沢シェルターであったことを振り返った。「車で8時間かけて東京に来て、こうやって観にきてくれる人がいることが嬉しいです。この3人で辞めずにバンドをやってて良かった。ここからがスタートだと思っています」と。そしてもっと大きなステージに行きたいと語ると、「さよなら三角、夢見た四角」と「忘れもの」、最後に「魔法にかかったまま」を披露。バンドを続けるなかで抱いてきた複雑な想いを描いた3曲を丁寧に歌い上げて初ワンマンを締めくくった。

　アンコールでも新曲ラッシュの勢いは止まらなかった。涼真が叩き出すマーチングドラムにのせてゆったりと届けた新曲「誰も知らない夜」は、《私がいる意味をここに刻みたい》と歌う、明日香の強い意志を綴ったナンバーだった。ARKSのライブは決して激しく体を動かして見るようなものではない。だが集まったお客さん一人ひとりが、その誤魔化しのない真摯な歌に耳を傾けていた。

　終演後リーダーの涼真に感想を訊くと、多少の悔しさを滲ませながらも、「ここから本当に始まりだと思ってます」と、ステージで明日香が言っていたことと同じ想いを口にした。一歩一歩着実に夢を実現していくARKSをこれからも見守っていきたい。

【取材・文：秦 理絵】
【撮影：橋本塁(SOUND SHOOTER)】