濃厚な夜へと誘うGLIM SPANKYのコンセプト・ワンマンライブ 「Velvet Theater 2016」
GLIM SPANKY | 2016.07.22
新曲「怒りをくれよ」が映画「ONE PEACE FILM GOLD」主題歌になり、注目を集めているGLIM SPANKYが、「Velvet Theater 2016」を行った。鶯谷の東京キネマ倶楽部を舞台に繰り広げる、幻想的な夜のカーニバルだ。彼らならではのディープなサイケデリアを描き出すこのコンセプト・ライヴは昨年5月に続く2回目になるが、前回よりも更に濃厚な夜へと我々をいざなう、手応えのあるライヴになった。
彼らのライヴでは定番SEになっているSteeleye Spanの曲が流れる中、涼やかな白いワンピース姿の松尾レミ(Vo,G)とシックなボウタイ・シャツを着た亀本寛貴(G)がバンドに続いて登場、松尾がワンピースの裾をつまんで挨拶し、この夜のタイトルにもなっている「ヴェルヴェットシアター」からスタート。白ワンピースに映える赤のリッケンバッカーを弾きながら歌う、松尾の落ち着いた声にバンド・サウンドが重なり、ダイナミックに広がっていく。内省の深みとキュートな響きを兼ね備えた松尾のヴォーカルは、たちまちのうちに喧騒を豊かな静寂に塗り替えた。そしてポエトリー・リーディングから始まる、真夜中にしか現れない街に向かう男を歌ったタイトル未定曲に、亀本の太いギターが気持ちを高揚させ中盤のセッションがちょっとしたカオスを生むナンバー「MIDNIGHT CIRCUS」を続けて、この夜の空気に染め上げた。ふと気づくと、ステージの右上方に月が浮かんでいた。
中盤で松尾が説明したところによれば、GLIM SPANKYという彼らのバンド名は、(グリム童話に通じる)GLIMが表す幻想的なサイケデリック、アシッド・フォークやトラッド・ミュージックを感じさせるもの、(平手打ちを意味する)SPANKYは攻撃的な音楽のジャンルを表している。この「Velvet Theater 2016」はその“GLIM”をフューチャーしたライヴだ。冒頭3曲はまさにそのための曲だったし、前半は言葉を挟んだら魔法が解けてしまうかのように、松尾は「ありがとう」というのもそこそこに、「焦燥」「踊りに行こうぜ」とフ1stフルアルバム『SUNRISE JOURNEY』の曲を続けてオーディエンスの気持ちを捉えていった。そこにあったのは明快なコンセプトがあればこその緊張感と言えるだろう。
そこに新鮮な高揚感が加わったのは、この夜にはまだリリースされていない2ndフルアルバム『Next One』に収録される新曲だった。新たな旅立ちを歌う「grand port」ではシンガロングが起こり、「NIGHT LAN DOT」はバンドと共に得意のサイケデリアを描き出して魅了する。松尾の”GLIM"心に大きな影響を与えた稲垣足穂、その系譜にあるあがた森魚といった先達へのオマージュでもあるこの曲はライヴでは何度も演奏されてきたが、彼らの新たなアンセムのひとつになりそうだ。そして「夜明けのフォーク」「サンライズジャーニー」とお馴染みの曲へと自然に繋がっていったのも、彼らが作り出す楽曲には確かな芯があることを伺わせた。それはインディーズ時代からの曲「Gypsy」から新曲「いざメキシコへ」へと、キレのいい演奏で続いたのも然り。向き合ってギターを弾く松尾と亀本に大きな歓声と拍手が送られたのは当然だろう。
この夜に特別な空気があったもうひとつの理由は、abemaTVでネット生中継がされていたことだ。目の前のオーディエンスだけでなくネットを通じて見ている多くの人たちのことも考えて、松尾たちはこのライヴを考えていたに違いない。楽曲ひとつひとつを丁寧かつダイナミックに伝えている。今年に入ってキーボードが加わったサポート・バンドとの演奏も、曲から曲へとドラマチックに繋いだり、メリハリをつけて進んでいったりと、スペシャルな流れを作っていた。その中でひときわ特別だったのは、『Next One』収録の「闇に目を凝らせば」に参加しているチェリスト四家卯大が、この1曲のために登場したことだ。映画『少女』の主題歌でもあるこの曲は、この夜の最重要曲だ。おおらかで伸びやかな松尾の歌と穏やかなバンド・サウンドに、チェロが加わり亀本のギターと怪しく絡み合うと、まさに闇の中で目を凝らすような浮遊感が生まれた。松尾たちの繊細な気持ちが曲を一層魅力的にしていたことはいうまでもない。
演奏だけでなく松尾のMCも自分たちのことや楽曲のことを的確に伝えるものにブラッシュアップされていて、MCというよりは全体の流れの中で自然に届く言葉となっていた。その言葉で伝えたのは、自分たちのルーツや音楽への思いだ。中学で初めてバンドを組んだ時に父親に勧められて見た音楽ドキュメンタリー『Woodstock』のDVDに触発され、「希望と夢に満ち溢れ何かを改革しようとしているアメリカの若者たちの気持ちを歌にした」と言って歌ったのは「ミュージック・フリーク」。ハモンド・オルガン風のキーボードがレトロ風味を加えたブルージーなこの曲には、60~70年代のフォーク・ロックを連想させるテイストと今の時代に生きるGLIM SPANKYの息吹が混じり合う。そしてカントリータッチの旅立ちソング「WONDER ALONE」で加速すると、「リアル鬼ごっこ」ではオーディエンスのコールで更に熱気を増し、この夜の最高潮を迎えた。 一息入れた松尾が自分の好きな文学や絵画などで築いてきた”GLIM"な世界観について話して迎えた本編のラスト・ソングは「大人になったら」。自分の中の本当に大切なものは大人になっても薄れない。そんな彼女の信念が伝わる歌になっていた。
ネット中継が終わったアンコールでは、解放されたように亀本もMCをし、「怒りをくれよ」「ロルカ」を演奏。その後に松尾が最近凝っているという使い捨てフィルムカメラでオーディエンスと共に記念撮影をして、「「Velvet Theater 2016」は幕を閉じた。 アンコールで亀本が言ったように、全18曲のうち、ライヴでは演奏してきたが音源化されていないもの、またこの夜には発売前のアルバム『Next One』の収録曲が半分近くという大胆な構成は、松尾が「やりたいんだからいいんだよ」と押し通したのだそうだ。それはこの夜のコンセプトが明快にあり、それに沿った構成だったということだ。すなわちGLIM SPANKYというバンドの芯のひとつをしっかりと捉えたものである。だからこそ初めて聴く曲を満杯のオーディエンスは瞬時に捉え、腕を振り声をあげたのだ。純粋にロックを愛し、音楽の力を信じて曲を作り歌い演奏するGLIM SPANKYの思いがオーディエンスに伝わり共鳴し、素晴らしい時間を作り出した。 彼らにはもう一つ”SPANKY”な顔がある。次に彼らが目指すのは、そちらもたっぷり盛り込んで全国12カ所を回る「Next One TOUR 2016」、そしてツアーファイナルの新木場STUDIO COASTだ。
【取材・文:今井 智子】
【撮影:KAMIIISAKA HAJIME】
リリース情報
Next One(初回限定盤(CD+DVD))
2016年07月20日
ユニバーサル ミュージック
2. 怒りをくれよ (7月23日(土)公開 映画『ONE PIECE FILM GOLD』 主題歌)
3. 闇に目を凝らせば
4. grand port
5. 時代のヒーロー(福田雄一監督Amazonオリジナルドラマ『宇宙の仕事』主題歌)
6. 話をしよう(高橋留美子原作 NHK Eテレアニメ「境界のRINNE」第2シリーズエンディングテーマ)
7. NIGHT LAN DOT
8. いざメキシコへ
9. 風に唄えば
10. ワイルド・サイドを行け
お知らせ
『Next One TOUR 2016』
2016/09/22(祝・木) 長野 CLUB JUNK BOX
2016/09/24(土) 京都磔磔
2016/09/25(日) 高松TOONICE
2016/09/30(金) 福岡the voodoo lounge
2016/10/01(土) 岡山ペパーランド
2016/10/06(木) 金沢vanvan V4
2016/10/07(金) 新潟CLUB RIVERST
2016/10/10(祝・月) 札幌BESSIE HALL
2016/10/14(金) 仙台MACANA
2016/10/16(日) 広島CAVE-BE
2016/10/22(土) 梅田umeda AKASO
2016/10/28(金) 名古屋BOTTOM LINE
2016/10/30(日) 新木場STUDIO COAST
SHE’S Major Debut Single 「Morning Glow」 RELEASE TOUR 〜The Everglow -chapter.1-〜
2016/07/28(木) 梅田CLUB QUATTRO
テレビ朝日・六本木ヒルズ夏祭り SUMMER STATION
2016/08/08(月) コカ・コーラ SUMMER STATION LIVEアリーナ(六本木ヒルズアリーナ)
TREASURE05X 2016 〜TRIPLE AUTHORITY 1st DAY〜
2016/08/13(土) E.L.L./ell.FITS ALL/ell.SIZE
※出演会場・タイムテーブルは後日発表
LIQUIDROOM 12th ANNIVERSARY THE BAWDIES × GLIM SPANKY
2016/08/16(火) 恵比寿LIQUIDROOM
音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2016
2016/08/18(木) 神奈川県鎌倉市由比ガ浜海岸
SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2016
2016/08/27(土) 山梨県 山中湖交流プラザ きらら
WORLD HAPPINESS 2016
2016/08/28(日) 夢の島公園陸上競技場
Slow LIVE’16 in 池上本門寺
2016/09/03(土) 東京都大田区 「池上本門寺」 野外特設ステージ
24th Sunset Live 2016 -Love & Unity-
2016/09/04(日) 芥屋海水浴場・キャンプ場 特設ステージ
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。