SHISHAMOが昨年に続き野外ライブ「SHISHAMO NO YAON!!!」を開催した。今年は日比谷野外大音楽堂2days。「夜空編」（7月16日／土 18時開演）「青空編」（7月17日／日　14時半開演）を題し、それぞれのシチュエーションに合ったライブを披露、SHISHAMOの幅広い音楽性が体感できる内容となった。

　7月17日、午後14時。数日前の天気予報では雨模様だったのだが、この日は薄曇り。ときどき真夏を思わせる日差しが差し込む絶好の野外ライブ日和となった。木を使ったステージ美術もこのシチュエーションによく似合っている。

　前日の18時から行われた「夜空編」では、「君と夏フェス」「熱帯夜」など夏のシングル曲はもちろん、宮崎朝子（Gt&Vo）がピアノを弾き、初のピアノアンサンブル「あの子のバラード」「昼夜逆転」を演奏した。 夏の夜の野外にぴったりのムードで、“歌をじっくりと聴いてほしい”というメンバーの意志が感じられるライブだった。

　14時半を10分ほど過ぎた頃「青空編」がスタート。客席後方から登場したメンバーは観客の歓声と拍手に囲まれながら、会場の真ん中に設置されたセンターステージへ。最初のナンバーは「花」。宮崎はアコースティックギター、吉川美冴貴（Dr）はカホン、松岡彩（Ba）は グロッケンを担当するアンプラグド・スタイルの演奏だ。さらに“君のことは愛しているけど、あの子のことは裏切れない”という男の身勝手を歌った「君との事」も。宮崎が紡ぎ出す切なく、奥深いラブソングがじんわりと伝わり、涙を浮かべる観客も姿も見受けられる。「アコースティックだからほのぼのしてるかと思ったら、汗がやばい」（宮崎）という気の置けないMCのあとは「がたんごとん」「君とゲレンデ」（←この曲で松岡はピアニカを演奏）を披露。虫が飛んできた瞬間、ビックリしてフレーズを間違えてしまう松岡の表情もかわいい。

　この後、客席を通りメインステージへ移動。「みんなのうた」を放ち、野音の熱気を一気に上げる。さらに「量産型彼氏」「デートプラン」などロックンロール系の楽曲が次々と披露される。特筆すべきは松岡のベース・プレイ。太さとしなやかさを共存させたベースラインは以前よりも明らかにパワーアップしていて、曲によってはアンサンブルの軸を担っていた。2016年1月の初の武道館ライブ、春のホールツアーさらには大阪城ホールと、大舞台を経験したことで、彼女のプレイヤーとしての資質は大きく開花しようとしている。

　「笑顔のとなり」「熱帯夜」というソウルミュージック系のテイストを取り入れた楽曲でゆったりとオーディエンスを揺らし、松岡が「川崎のプールでアーティスト写真を撮ったとき朝ちゃんが転んで、この人もドジすることあるんだなと思った」というエピソードを話した後で披露された2曲の新曲も強く印象に残った。まずはスピード感に溢れたビートとポップなメロディがひとつになった、これまでのSHISHAMOのイメージを引き継ぐナンバーの新曲（タイトル未定）。そして、９月７日（水）リリースのシングル「夏の恋人」のカップリング曲「恋に落ちる音が聞こえてたら」はヘビィなバンドグルーヴを取り入れた楽曲。“らしさ”と“新しさ”のバランスを取りながら、彼女たちが自らの音楽をさらに前進させていることが、この2曲からは明確に伝わってきた。それをライブという場で体験できたことも大きな意味があるはずだ。

　ワンマンライブ恒例の“吉川美冴貴の○○な話”（この日のテーマは“エゴサーチで見つけた、胸をえぐられるツイート”。自虐を嫌味なく笑いに持っていくセンスが最高……って、これ以上おもしろくなったらヤバいと思います）を挟みライブは後半へ。「僕に彼女ができたんだ」「僕、実は」「タオル」「君と夏フェス」という鉄板の盛り上がり曲を連発し、会場の一体感を生み出す。汗だくのメンバー3人は集中力を切らすことなく、ロックバンドとしてのパワー、そして、切なく、愛らしいポップネスを思い切り放ちまくる。曲が終わるたびに聞こえてくるのは、セミの鳴き声。本当に野音が似合うバンドになったなと、勝手にじんわり来てしまう。

　アンコールではまず、宮崎がアコギの弾き語りで新曲「夏の恋人」を演奏。美しく洗練されたメロディ、夏の終わりとともに訪れた別れ、諦めと切なさが共存するボーカルがひとつになったこのバラード（名曲！）は、SHISHAMOの存在をさらに大きなフィールドへと運ぶことになるはずだ。
「初めて日比谷野音でライブをやったのは2013年の夏。イベントだったんですけど、誰もSHISHAMOのことを知らなくて。そのときはすごく広い会場だなって思ったんですけど、今日は景色がまるで違っていて、いい意味で会場が小さく感じました。本当に幸せでした！」（吉川）「『タオル』のときに、みんなが回してくれたタオルが“赤白赤白赤白”という感じですごくキレイでした。ありがとうございました」（松岡）「この野音をずっと前から楽しみにしてました。今日も楽しいライブになって良かったと思ってます」（宮崎）という挨拶の後、「第3ボタン」「きみと話せないのは」「恋する」を披露し、ライブは終了。2年目の「SHISHAMO NO YAON!!!」は幕を閉じた。

　この後SHISHAMOは9月7日（水）にシングル「夏の恋人」をリリースし、11月から「SHISHAMO ワンマンツアー2016秋」がスタート。ライブを観るたびに驚くほどの成長を感じさせてくれる彼女たちは、これからもっともスリリングな時期を迎えようとしている。

【取材・文：森朋之】