一皮むけた力強さが光った、ウソツキ「地獄のUSOTSUKANIGHT FEVER」
ウソツキ | 2016.09.21
そもそも地獄にいいも悪いもなかろうが、仮にあったとするならば9月10日の新代田FEVERは、この日、彼らが繰り返し口にしていたように、たしかに“いい地獄”だったと思う。竹田昌和(Vo.& G.)曰く、“ホントの地獄”は「あの扉の向こう」らしいが、だからと言ってこの“いい地獄”を現実逃避の場にするのではなく、むしろ現実をサバイブしていくためのエネルギー補給所としてバンド全体が率先してパワフルな演奏を生み出そうとしているのが印象的でもあった。
ウソツキのワンマンライブ“地獄のUSOTSUKANIGHT FEVER”。彼らの繊細な佇まいに“地獄”の厳つい字面はなんともそぐわないが、しかし、そのそぐわなさが却っていつにない昂揚をオーディエンスの間にももたらしているらしく、開演前にして満員御礼状態のフロアから立ちのぼる人いきれはこれまでにも増して濃厚だ。
「ねぇ、“地獄のUSOTSUKANIGHT FEVER”って知ってる?」
ステージは幕に覆われたまま、どこからともなく竹田の囁きが降ってきた。間髪入れずにスタートする演奏、満を持して幕が落ちる。だが、立ちこめるスモークが凄まじく、4人の姿がシルエットでしか見えないという、いきなりの地獄感。「今日は一緒に地獄に堕ちよう、よろしく!」とクールに言い放つ竹田の声がやけにセクシーでときめいてしまう。もちろんフロアは大興奮だ。
オープニングを飾るのは「地獄の感情無限ロード」。最新ミニアルバム『一生分のラブレター』に収録の1曲であり、ライブタイトルの由縁ともなったドライブ感溢れるロック・チューンでもある。のっけからアグレッシブに攻め込むステージに負けじとオーディエンスも早々に自身のリミッターを解除、これまでウソツキのライブ序盤にそこはかとなく漂っていたはにかみ合うような空気はまるでなく、瞬く間に場内は熱いグルーヴに支配された。
林山拓斗(Dr.)が力強く踏み抜く四つ打ちのリズムが明るい熱狂を加速させた「ミライドライバー」のあと、竹田の音頭により“地獄コール”が巻き起こる。“じ・ご・く! じ・ご・く!”と声を上げる観客たちのなんとうれしそうなこと。さらには“地獄の三三七拍子”にまで発展、歓喜の声が頂点にまで昇りつめたところで一気に演奏へとなだれ込んだ「ネガチブ」の盛り上がりが尋常じゃない。吉田健二(G.)のギターはエキサイティングに聴き手を煽り、藤井浩太(B.)の不敵なビートが足の裏から這い上って全身を刺激する。曲の終わりに竹田が発した「オー、イェー!」に一皮むけた力強さを感じずにはいられない。
今回のライブで大きな存在感を放っていたのはやはり『一生分のラブレター』の楽曲たちだ。セットリストにバランスよく配されたトータル5曲の新曲がウソツキという音楽の輪郭をより太くし、その世界観にさらなる奥行きと広がりを与える。何より“王道うたものバンド”を標榜するウソツキが王道中の王道である“ラブソング”に徹して作り上げた作品だ、彼らの音楽に備わっているものが真のポップネスであることを改めて裏付けたのは間違いない。
“恋とは存在しない”から始まり、けれど理論では割り切れない感情に戸惑いながらもっとも大切な解にたどり着く「恋学者」。エンディングでの“キミガスキ”のリフレインがどんどん肉感的になり、最後に“君が好き”と色づいた瞬間のカタルシスはライブでいっそう劇的なものとなっていた。聴き心地も爽やかな「ボーイミーツガール」は9月初旬の季節感とも相まって去りゆく夏の名残を鮮やかに聴き手の胸に蘇らせ、竹田が初めて詞先で書いたという表題曲「一生分のラブレター」はライブ本編ラスト前のタイミングで歌われたことで“何回だって告白をしよう”という歌詞がより説得力をもって響いた。
中でも圧巻だったのはアンコール1曲目に披露された「ハッピーエンドは来なくていい」だ。再びステージに現われ、ゆるゆるとしたトークで場を和ませる4人だったが、「じゃあ、やるか」と名残惜しそうに曲に入った途端、風景が切り替わるように空気も一新された。ひんやりとした季節の何気ないワンシーン、たったその一幕に託されたかけがえのない“今”への想い、温かくも切実な願い。押し寄せる静かな迫力にみぞおち辺りがキュッと締めつけられてしまう。
これら新曲の存在が馴染みの楽曲たちの本領、もっと言えばメンバーひとり一人の力量をもグッと底上げし、これまで以上にがっちりと噛み合った盤石なアンサンブルを轟かせる。スケールの大きさに目をみはった「君は宇宙」のアウトロや「水の中からソラ見てる」の間奏で披露された藤井、吉田のソロパート、その後のスリリングな絡み合いなど、このままずっと音の奔流を浴びていたいという衝動に何度駆られたことだろうか。竹田の歌声も実に朗々とよく伸びた。芯が一本通ったと言おうか、揺るがない確かさが宿っていて頼もしい。
この日のライブに通底して感じられたものがある。それは絶対的な肯定感、あるいは包容力だ。なるほど竹田が歌詞に綴る言葉、世界を捉えるその視点はシニカルかもしれない。だが実際、これほどバカ正直に現実と真っ正面から取っ組み合ってる音楽もないのではないかと思う。時に不条理で理不尽な現実世界。そこで生きるということから逃げず、独自のやり方で向き合い続けてきたからこその懐の深さ、現実から目を逸らすのでも、はねつけるのでもなく、なんならハグしてしまえるくらいの強さを今の彼らに感じるのだ。
「ずっとひとりぼっちで生きてきたんですけど、仲間ができまして……こいつらなんですけど」
照れくさそうにメンバーを見やる竹田。「それで、また仲間ができまして……みなさんなんですけど。こんな変わり者の音楽を好きになってくれたみなさんを、もう誰もひとりぼっちにしたくないなってすごく思うんです」と言葉を続ける。そうして奏でられた「ピースする」。信じることの本質をじゃんけんになぞらえて歌ったウソツキの傑作ナンバー、そしてフロアいっぱいに突き上がるピースサインの光景は“いい地獄”そのものではなかっただろうか。
「ダル・セニョールの憂鬱」を満場の大合唱で締めくくり、“地獄のUSOTSUKANIGHT FEVER”は終演した。最後に竹田が残した「また会いましょう」は次回への招待状。このレポートが掲載されるころにはもう彼らも出演するイベントツアー“代沢まつり 〈 DAIZAWA RECORDS 15th Anniversary for the Future 〉”が始まっている。ウソツキの感情無限ロードはまだまだ続く。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:山野浩司】
リリース情報
一生分のラブレター
2016年07月13日
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT
02.ボーイミーツガール
03.恋学者
04.地獄の感情無限ロード
05.ハッピーエンドは来なくていい
セットリスト
地獄のUSOTSUKANIGHT FEVER
2016.9.10@新代田FEVER
- 1.地獄の感情無限ロード
- 2.ミライドライバー
- 3.ネガチブ
- 4.金星人に恋をした
- 5.アオの木苺
- 6.恋学者
- 7.君は宇宙
- 8.旗揚げ運動
- 9.水の中からソラを見てる
- 10.Roll Roll Roll
- 11.春風と風鈴
- 12.ボーイミーツガール
- 13.ピースする
- 14.過去から届いた光の手紙
- 15一生分のラブレター
- 16.新木場発、銀河鉄道 ENCORE
- 17.ハッピーエンドは来なくていい
- 18.ダル・セニョールの憂鬱
お知らせ
代沢まつり < DAIZAWA RECORDS 15th Anniversary for the Future >
2016/9/22(木祝) 大阪・LIVE SQUARE 2nd LINE
2016/9/23(金) 愛知・APOLLO BASE
2016/10/4(火) 東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO
Date fm MEGA★ROCKS 2016
2016/10/1(土) 仙台11会場
FM802 MINAMI WHEEL 2016
2016/10/9(日) 大阪複数会場
No Maps presents Sapporo Neutral 2016
2016/10/14(金) Klub Counter Action / mole / spiritual lounge / ベッシーホール / KRAPS HALL / COLONY
タワヒロは見たVol.18 松江編
2016/10/28(金) 松江canova
2016/10/29(土) 広島Cave-Be
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