前へ

次へ

スガ シカオ、「SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2016『THE LAST』~ENCORE~」セミファイナル公演をレポート!

スガ シカオ | 2016.11.10

 9月10日の名古屋ダイアモンドホールからスタートした“SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2016「THE LAST」~ENCORE~”(7都市10公演)のセミファイナル公演が、10月21日に東京・豊洲PITで行われた。昨年12月に開催した前回のツアー“SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2015「THE LAST」”は、ニューアルバム『THE LAST』がリリースされる約2ヵ月前に“生ライブ視聴会”を兼ねた2部構成のライブを3ヵ所(東京・大阪・福岡)のみで開催した変化球スタイルだったこともあり、リリース後にアルバムを携えた全国ツアーの開催を望む多くのファンの声に応えたスガは、今回のツアータイトルに“ENCORE”と明記した。『THE LAST』のようなかなり濃密な作品を作ったスガ シカオが、今作のその先にどんなENCOREを仕掛けてくるのだろう? というそんな私たちの楽しみと期待が今回のツアーには注がれていたはずだ。

 開演前から会場内にはスガの曲が何曲も流れていた。そのボリュームがいきなり大きくなり、点滅する照明の中にバンドメンバーとスガが登場すると、SEで最後に流れていた「赤い実」が最強のバンドによる生演奏へと変わり、ライブの1曲目を飾った。「赤い実」「19才」と立て続けにハンドマイクで歌ったスガが、「お待たせ、東京~! 今日は最後まで楽しんでってくれ~」と叫ぶと、会場の後ろまでぎっしりと埋まった観客たち(約3000人!)から大歓声が起こる。大阪でのファイナル公演が残っているが、東京では年内最後のワンマンということもあり、「完全燃焼でやる」「出し惜しみをしないから!」とスガは力強く宣言した。

 「オバケエントツ」で東京の下町で生まれ育ったスガだからこそ描ける風景と町を覆う重苦しい空気や臭いを聴く者にこびりつかせたあと、「ごめんねセンチメンタル」「真夜中の虹」に続いたのは「青春のホルマリン漬け」。この曲は、“ラブホテル”“風俗嬢”“自慰”など露骨な単語が刻まれている曲だが、スガのライブではこんなエログロな曲でさえ観客がスガと共に歌っている光景が生まれてしまうのだから、面白くてしょうがない。『THE LAST』収録曲が続いたあと、来年デビュー20周年を迎えるということで、「20周年感謝のワクワクメドレー」と題したメドレーがスタート。15分にも及んだノンストップメドレーには「ドキドキしちゃう」「夜明けまえ」「アシンメトリー」「In My Life」などが組み込まれ、1997年のデビュー曲「ヒットチャートをかけぬけろ」からはスガのライブではお馴染みのFIRE HORNSが参加し、メドレーから続けて演奏された「アストライド」まで大いに盛り上げた。「『THE LAST』収録曲の中で特に人気が高い曲」というスガの前ふりがあった「海賊と黒い海」をやる前に、スガがこの曲が出来たきっかけを話し始めた。雨の中、信号待ちをしながら、アスファルトにできた黒い水溜りに写った街を見て思ったことを歌にしたのだという。そう、「海賊と黒い海」の歌詞の始まりはまさに彼が話してくれた景色がそのまま投影された歌だった。「ふたりのかげ」を歌う前にも彼はこの曲にまつわる話をした。当時付き合っていた彼女を家まで送ったあとの帰り道で思いついたというこの曲にも、彼の中に刷り込まれた景色が描かれている。どんなに月日が経っても忘れることのできない景色とあの頃の自分がいる歌を、彼は「歌いたくなって、今回エントリーしました」と言い、アコギで弾き語りした。私たちは当然その景色を見たことがないはずなのに、スガ シカオが見ていた景色が切り取られた歌を聴くと、いつかどこかで自分も見ていたかもしれない景色、似たような風景が蘇ってきてしまうのはなぜなのだろう。

 『THE LAST』の1曲目を飾った「ふるえる手」から、19年前に発表した「黄金の月」へ。こんなに美しくて、切なさに抱きしめられてしまうような素晴らしい曲を、彼はデビュー当時に作っていたのかと、改めてスガのシンガーソングライターとしての力量に驚かされた。スガの「突っ走っていくぞー!」の声から後半戦へ突入。「大晦日の宇宙船」「アイタイ」、メンバー紹介をはさんで「おれ、やっぱ月に帰るわ」が立て続けに放たれる。スガファンクが炸裂した「愛と幻想のレスポール」「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」が演奏され、アルバム『THE LAST』に収録した全11曲はすべて演奏されたことになったが、スガは「今ここで鳴っているのがファンクだー!」と叫び、「91 時91分」「Re:you」を本編の最後に届けた。
アンコールの1曲目をやる前に、スガが静かに話し始めた。自分の音楽や名前が世の中の人にほとんど知られていなかった頃に作詞を手がけたこの曲がミリオンセラーになり、その年の「NHK紅白歌合戦」に作詞家のクレジットで、自分の名前が2秒だけ出たことやこの曲があったおかげで自分の人生が変わったこと。彼は「解散することを聞いて、今回のツアーでは感謝とリスペクトを込めて歌います。みなさんも一緒に歌ってください」と、19年前に歌詞を手がけた「夜空ノムコウ」を歌い始めた。“あれから僕たちは~”から始まるこの歌に、そして、明日が待っているという希望が刻まれていた歌詞に、この会場にいる誰もが自分が歩いてきた人生を重ねていたに違いない。しっとりとした雰囲気が一転した「午後のパレード」では観客が“午後パレ振り付け”で踊り、濃厚なファンクが炸裂した「イジメテミタイ」ではスガが自分のエレキギターを前方の観客たちに渡し、ギターが観客の頭上を行き来するシーンもあった。約2時間半のライブで見事に完全燃焼したスガは、最後に「また必ず会おう」と約束してステージをあとにした。

 この日、ライブ中に何度も思ったことがある。歌にするにはためらってしまうような言葉や表現を、歌詞に乗せてもいいんだと思わせてくれる領域を新たに広げたのはスガ シカオだ。そして、かつてはディープなジャンルだったはずのファンクを、彼は“スガ シカオ”というフィルターに通し、様々なアプローチを施して、身近なものにしてくれたのもスガ シカオだ。人間の奥底に沈殿した感情をすくい上げたりかき混ぜたりする歌も、生々しい生気をむき出しにした曲やエログロな歌詞にも、必ずどこかに聴く者が入り込める場所を作ってきた。日本の音楽シーンにスガ シカオというミュージシャン、シンガーソングライターがいてくれて良かった。決して大袈裟ではなく、そう思えたライブだった。

【取材・文:松浦靖恵】
【撮影:中河原 理英 】


tag一覧 ライブ 男性ボーカル スガ シカオ

リリース情報

THE LAST(初回限定盤)[CD(通常盤)+SPECIAL CD「THE BEST」]

THE LAST(初回限定盤)[CD(通常盤)+SPECIAL CD「THE BEST」]

2016年01月20日

ビクターエンタテインメント

<収録曲>
01.ふるえる手
02.大晦日の宇宙船
03.あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ
04.海賊と黒い海
05.おれ、やっぱ月に帰るわ
06.ごめんねセンチメンタル
07.青春のホルマリン漬け
08.オバケエントツ
09.愛と幻想のレスポール
10.真夜中の虹
11.アストライド

<SPECIAL CD『THE BEST』>
01.Re:you
02.傷口
03.Festival
04.アイタイ
05.したくてたまらない
06.赤い実
07.赤い実 Remix
08.情熱と人生の間
09.航空灯
10.LIFE
11.モノラルセカイ
※全曲リマスタリング

お知らせ

SUGA SHIKAO 20th ANNIVERSARY スガフェス!
~20年に一度のミラクルフェス~ EMTGチケット受付



■ライブ情報

SUGA SHIKAO 20th ANNIVERSARY『スガフェス! 〜20年に一度のミラクルフェス〜』
2017/05/06(土) さいたまスーパーアリーナ

http://www.sugashikao.jp/sugafes/

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る