メジャーデビューか処女作のリリース時か、はたまた結成か。切り取るタイミングによって微妙に年数は違うのだが、今回スプリットツアーを開催したTHE BAWDIESとgo!go!vanillasの間には歴然としたキャリアの差があった。THE BAWDIESが1960年代のブルースやソウル、ロックンロールをルーツにした新しいバンドとしてシーンに登場した2007年頃、go!go!vanillasの牧 達弥（vo、g）はCDショップでその音楽に衝撃を受けた高校生だ。そんな2組が同じ事務所、レコード会社に所属する兄弟バンドとなったことが縁で開催された今回のスプリットツアー「Rockin’ Zombies Tour 2016」。全7ヵ所をまわるツアーを通じて、THE BAWDIESは後輩の頼もしい成長の足音を、go!go!vanillasは簡単には追いつかせてくれない先輩の背中を感じながら駆け抜けてきたことと思う。キャリアとしての差などを軽々と超えて結びついた2バンドの絆は、ファイナルの地Zepp DiverCity（TOKYO）に、ロックンロールがいかに素晴らしい音楽かということを証明する素晴しい景色を作り出していた。

　まず、先陣を切ったのはgo!go!vanillasだった。ステージに登場するや、4人が大ジャンプをするというテンションの高い幕開けからもメンバーの気合いが伝わってくる。「帰ってきたぜ、東京ー！」と、牧が万感の想いを込めて叫んだ「マジック」、長谷川プリティ敬祐（ba）がお馴染みの前口上で煽った「エマ」。一切の迷いなく力強く鳴らされるロックンロールは、ここ1～2年で恵比寿LIQUIDROOMから赤坂BLITZ、そして新木場STUDIO COASTへと着実にライブのキャパシティを上げてきているバンドの勢いと自信が滲み出るものだった。素晴らしかったのは中盤の「セレモニー」。牧のハスキーな歌声が優しくメロディをなぞるポップナンバーは、曲に大きな振り幅を持つgo!go!vanillasの大きな武器だ。さらにライブは日本語でカバーしたTHE BAWDIESの「イッツ・トゥー・レイト」、ヨーソローヨーソローのかけ声が楽しいアイリッシュパンク「ヒンキーディンキーパーティークルー」（スプリットシングル「Rockin’ Zombies」収録曲）へと続く。ロックンロールのかっこよさだけでなく、どこかファニーな愛嬌をあわせ持つのがgo!go!vanillasの魅力だ。ラストは九州から上京したバンドがあらたに拠点とする場所＝東京への想いを馳せた「オリエント」で締めくくったgo!go!vanillas。たとえ同じ事務所とはいえ、先輩バンドのプレッシャーを感じながら緊張感のあるツアーを駆け抜けた今回の経験は、彼らの大きな糧になるはずだ。

　go!go!vanillasが温めたフロアの良いムードを引き継いだTHE BAWDIESは、熱い手拍子が湧き起こるなか、ROY（Vo、B）の熱いシャウトでスタート。スプリットシングル「Rockin’ Zombies」に収録されている初期衝動が滾るナンバー「45s」がフロアをあっと言う間に踊らせていく。共にロックンロールをルーツに持つTHE BAWDIESとgo!go!vanillasだが、こうして2組を続けて聴くと、たとえばMARCY（Dr、Cho）のビートひとつとっても、先ほどのジェットセイヤ（dr）とはまるで違う。音楽性の違いがよりいっそう強く感じられるのが面白い。ライブは初っ端から「YOU GOTTA DANCE」を起点と終点にした怒濤メドレーのほか、「I BEG YOU」といったインディーズ時代の懐かしい曲、go!go!vanillasのナンバーを英語詞でカバーした「COUNTER ACTION」など、ROYの饒舌なトークを交えながら軽快に進んだ。MCでは「対バンですから、弟と言えど気合いが入るんです」と言って、各地でTAXMAN（G、Vo）が気合いのあまり巻き舌になってしまう地名コールを真似し爆笑をかっさらったROY（名古屋は「ルートゥムヤーン！」、熊本は「クルマモチョン！」と聞こえるらしい）。

新曲「THE EDGE」でもリリース前なんて一切関係ないとばかりにフロアを熱狂の渦へと叩き込むと、JIM（G、Cho）がマイクスタンドをお客さんに向けてシンガロングを誘った「SING YOUR SONG」と「IT’S TOO LATE」で貫禄のステージを締め括った。

　アンコールでは8人全員がステージに登場。ツインドラムにトリプルギター、ベースはプリティひとりで、ボーカルの2人はハンドマイクで歌うスタイルだった。披露されたのは「カントリーロード」のカバー。ROYは英語で、牧は日本語詞で歌うところも両バンドのこだわりが貫かれていた。そして、お客さんの頭上にある巨大なミラーボールがまわるなか届けたのは、「ロックンロールを愛して、ずーっと歩んでいこうじゃないか」（ROY）と約束を交わす「KEEP ON ROCKIN’」。8人が自由奔放に動きまわるステージでは、ROYがシャウト&レスポンスをしようするも、周りの楽器陣の音がやまない。それにROYが「すごい視聴率が悪いです（笑）！」と真顔で言うものだから、会場は大爆笑だった。セイヤとMARCYはドラムを入れ替えて叩いたり、柳沢進太郎（g）のギターのワウをJIMが踏んでいたり、8人の動きを目で追うのも大変なぐらいだった。ラストは8人ががっちりと手を取り合い「ありがとー！」と叫んでライブは終了。“Rockin’ Zombies”プロジェクトは終わったが、また何年後かに今回と同じように2組がロックンロールを鳴らし合えたら最高だ。

【取材・文：秦理絵】
【撮影：橋本塁】