前へ

次へ

Suck a Stew Dry、渋谷クラブクアトロにて現体制によるラストライブ

Suck a Stew Dry | 2016.12.16

2016年8月にギタリストのフセタツアキが年内で脱退することを発表したSuck a Stew Dry。現体制による最後にライブが、12月7日に渋谷で行われた「遺失物取扱所:Another End」だ。当初は東名阪ツアーのファイナル(12月6日/下北沢GARDEN)で最後だったのだが、さまざまなタイミングが重なってこの日のライブが実現したという。メンバーにとって極めて大きな意味を持つステージであったことは間違いないが、5人はあくまでも冷静に(というふうに筆者には見えた)自分たちの音楽――リアルかつ切実な心象風景を描き出す篠山コウセイ(Vo,G)の楽曲、その世界観を色彩豊かに描き出すバンドサウンド――を真摯に体現してみせた。

開演前のBGMはすべてThe Smith。どこか陰鬱な、しかし、震えるほどに美しい楽曲によって、会場は奇妙な静けさに包まれている。
そしてSEとともにメンバーが登場、ついに現体制による最後のライブの幕が開く。篠山コウセイの弾き語りによる「明日から何を着て出かけようか/ゆらゆらと気ままに」というフレーズから始まったオープニング・ナンバーは、「ユーズドクロージング」。疾走感のあるサウンド、気だるさと明るさが混ざり合うメロディ、心にぽっかり穴が開いたような喪失感を描いた歌が広がる。さらにハジオキクチ(G,Cho)がアナログシンセで弾く愛らしいイントロから「カラフル」へ。世界に対する諦念、それでも生きている間は歌っていたいという意思を込めた歌、ハジオキクチの破壊的かつメロディアスなギターソロ。冒頭の2曲だけで、このバンドにしか生み出せない空気が会場の隅々まで行き渡っていく。
「このライブは予定されていなかったですけども。こういう機会が持てて、ホントによかったなと思ってます。この5人で自己紹介、意思表示をするのは最後。そういうつもりで最後まで演奏します。僕たち5人がSuck a Stew Dryです」という篠山の挨拶の後も、唯一無二としか言いようがないメッセージとサウンドスケープを備えた楽曲が披露される。
光と歪みを同時に感じさせるようなギターフレーズと推進力のあるビート、孤独を運命づけられた人間の存在を射抜くような歌詞がひとつになった「エヴリ」、フォークロック的な手触りの音像、まるで童謡のような素朴なメロディのなかで、「ここにはないもない」というフレーズが広がる「ないものねだり」、“個性”“アイデンティティ”という言葉に振り回される現代人の姿を3拍子のリズム、爆音ギターサウンドともに映し出す「二時二分」、篠山とハジオが声を合わせて「君に会えたら もう死にたいな」と歌った瞬間、ハッと胸を衝かれてしまった「傘」。そのすべてがSuck a Stew Dryの本質に直結している。生まれてきた理由はわからないし、誰もが必ず死を迎える。そして、この殺伐とした世界はおそらく何も変わらない――安易な夢や希望に逃げることなく、どうしようもない現実を見据えながら、“それでもここで生きている”と叫ぶような彼らの音楽はこの日、とてつもなく強い説得力を放っていた。淡々とした佇まいから鋭利なエモーションを備えた歌を響かせる篠山、楽曲のテーマ、メロディの質によって繊細に変化するスダユウキ(Ba)、イタバシヒロチカ(Dr)のリズム・セクション、多彩なフレージングで楽曲に深みを与えるハジオキクチのギター、感情豊かなコーラスワークと鋭利なギタープレイによって観客の感情を揺さぶるフセタツアキのステージング。当然“この5人でステージに立つのはこれが最後”ということも作用していたとはずだが、この日のメンバーの集中力、演奏の精度は本当に素晴らしかったと思う。

2度目のMCでは篠山がバンド結成当初の思い出を語った。フセとハジオが大学の音楽サークルに見学に来たときの様子、ドラムのイタバシが大学1年生のときにベルトを2本組んでいて「絶対に仲良くなれない」と思ったこと。そして「僕なんかが作った曲を、よくやってくれるなって思うんですよね。最低な自分の最低な曲、良かったら聴いてください」という言葉からライブは終盤へ。ゆるやかなグルーヴと緊張感あふれるアンサンブルを混在させながら“嘘の思いによる彼女との関係”を歌った「人間遊び」、そして「Normalism」。大らかでドラマティックなメロディラインのなかで、普通であることを意識するあまり自分を見失う“僕”の物語が紡がれる「Nomalism」。楽曲が重ねられ、ライブが最後に近づくにつれて、痛々しいまでの感動が心のなかで増幅していくのがわかる。

ここでフセが改めてオーディエンスに向かって語り掛ける。ずっと迷っていたがSuck a Stew Dryと並行して活動したバンドに専念することを決断したこと、それぞれの活動は続いていくはずなので、この先も応援してほしいと思ってること。「本当にありがとうございました」と挨拶すると、客席から大きな拍手が巻き起こった。
“僕を救ってくれる言葉は「いつか消える」”という歌詞に強く心を揺さぶられる名曲「トロイメライ」で本編は終了。アンコールではまず「この5人で初めて音を合わせた曲」(篠山)という「アパシー」を演奏。さらに「もう一つの終わり」「遺失物取扱所」を披露し、メンバーはステージを去る。観客は約10分に渡ってアンコールを求める手拍子、コールを行っていたが、終演を告げるアナウンスが聞こえてきて、ライブはエンディングを迎えた。

ライブ終盤、篠山は2017年の予定は何も決まっていないこと、しばらく休むことを告げた(その後オフィシャルサイト内にて、昨日のワンマンライブをもって活動を休止することを正式に発表)。泣いてしまう観客もいたが、あくまでも冷静に「生きてさえいれば、またどこかでお会いできると思っています。生きて、良かったらまた会いましょう」と語りかけた篠山。大きな節目を迎えたSuck a Stew Dry。このバンドにしか生み出せない音楽があり、それを心から求めているオーディエンスがいる限り、彼らは必ずシーンに戻ってくる――いまはそのときを静かに待っていたいと思う。

【撮影:白石達也】
【取材・文:森朋之】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル Suck a Stew Dry

リリース情報

N/A【完全生産限定盤】

N/A【完全生産限定盤】

2016年05月25日

ラストラム

1.GOEMON
2.インナーワールド
3.トロイメライ
4.レフストアンブルフィ
5.失恋、失恋。
6.空に星が降る夜は
7.冷たいリグレ
8.F.O.M.H.
9.一人じゃ生きれないわけでもない
10.ヒーローになれずに
11.ユースフル -used-
※「夢中でがんばれない君へエールを」恵比寿LIQUIDROOM公演ライブ映像付き

セットリスト

遺失物取扱所:Another End
2016.12.7@渋谷CLUB QUATTRO

  1. 01.ユーズドクロージング
  2. 02.カラフル
  3. 03.Thursday’s youth
  4. 04.エヴリ
  5. 05. 並行世界のエデン
  6. 06.ないものねだり
  7. 07.水曜日の出来事
  8. 08.二時二分
  9. 09.レフストアンブルフィ
  10. 10.冷たいリグレ
  11. 11.SaSD[eve]
  12. 12.傘
  13. 13.人間遊び
  14. 14.Normalism
  15. 15.トロイメライ
-ENCORE-
  1. en1.アパシー
  2. en2.もう一つの終わり
  3. en3. 遺失物取扱所

トップに戻る