大阪・堺Shout it Out、満員の新宿ロフトで魅せた “今” と “これから”。
Shout it Out | 2017.01.06
もしかするとあなたの目にそれはとても無謀に、あるいは歪に映ったかもしれない。しかし彼らはキッパリと“2人で”バンドを続けることを選んだ。不安がまったくなかったはずはない。想いの強さは、けれど確信とイコールにはならない。それでも彼らは決断し、前を向いて歩き始めた。そうして迎えた2016年12月26日、“EPリリース記念ワンマンライブ ~これから~”だ。唐突に訪れた逆境から約4ヵ月、溢れんばかりのオーディエンスで埋め尽くされた新宿ロフトの光景は、決断のとき山内彰馬(Vo&Gt)と細川千弘(Dr)が描いていただろう“これから”が見事に“今”に結実した、たしかな希望そのものだと思えた。
BGMが耳に馴染んだピアノの登場SEへと切り替わる。ギターとベースのサポートメンバーとともに細川が姿を現わし、一呼吸置いて山内もステージにやってきた。山内は客席に向かって深く一礼すると、細川に手を差し出し、がっちりと握り合う。そうして輪になり拳を重ねる4人、細川が上げた「よっしゃあ!」の声を合図に一斉に楽器の音がほとばしった。
「大阪・堺、Shout it Out始めます。よろしく!」
始まりの笛が今鳴る――そう間髪入れず朗々と渡る山内の歌声。この夜の幕開けを飾ったのはやはり「DAYS」だった。12月7日にリリースされたばかりのNEW EP「これからと夢」のリードトラックであり、TVアニメ『DAYS』のエンディングテーマでもあるこの曲。そもそもはアニメのために書き下ろされたものだったと本人たちからも聞いたが、こうして生身から放たれる太いアンサンブルを浴びるにつけ、彼らの意志が実像を伴ってありありと目の前に立ちのぼる。まっすぐに未来を捉えた視線、揺るぎない想いの強さに圧倒されずにいられない。ステージからはみ出さんばかりの勢いでオーディエンスに迫る「あなたと、」、続く「生きている」で山内は“♪それでも2016年12月26日、ここ新宿ロフトこの瞬間だけはいつまで経ってもなかったことにしたくはないよな”と歌詞の一部を替え、力いっぱいに声を張る。今の自分を、生々しくのっぴきならない本気を、空回りも覚悟で晒し尽くそうとするその意気やよし。オーディエンスもザンザンと腕を突き上げてはクラップで応え、天井知らずの昂揚感がフロアを満たす。
大阪から東京に足を運ぶようになり、新宿ロフトに出させてもらうようになって気づけば長い月日が過ぎていたこと、最初はステージから数えられるくらいしか人がいなかったこと。それでも彼らを信じて呼び続けてくれたのが、ここ新宿ロフトだったとも山内は言う。
「アウェイの街にいつでも帰ってこれる場所ができたような気がして、僕はこのライブハウスが本当に好きで、いつかここをワンマンライブで埋めようと思っていました。ついに来ました、今日この日。まだ始まったばかりです、どんどん行こう!」
始めのうちは気持ちのほうが先立って若干バラつきが感じられた演奏も、曲を重ねるにつれ、一体感を増していくのが目に見えてわかる。一瞬一秒、刻々と進化を遂げるダイナミックな変遷は、この先の彼らの伸びしろをそのまま表わしているに違いない。細川が踏むバスドラの音は胸を張って前進する彼らの足取りを彷彿させ、力強くもブレることなく叩き出すビートは彼らの中に脈打つ揚々とした未来の鼓動を想像させる。山内が前のめりに掻き鳴らすギターはいっそうアジテイティブで、しかしながらその歌はただ激情に任せるのではなく、一言一句をしっかりと聴き手に届けようとする真摯な意志をも孕んで確信的だ。背中を守る細川と前衛に立つ山内の、盤石な縦のラインがアンサンブルの柱となって新宿ロフトの空気全体を支えて頼もしく、また、2人を中心にして渦巻く熱の、その熱さが素直にうれしかった。
「タオルを頭の上で思いっきり振り回してください!」と細川が呼びかけてフロアが一面の花畑と化した「星降る夜に」、朗々とした山内の独唱からバンドサウンドへと切り替わる瞬間の鮮やかさに目を見張った「花になる」。“花になる”というフレーズをこれほどにも清々しく歌える男子もそういないのではないだろうか。“生きること”の本質に光を当てた「トワイライト」はゆったりとしたテンポ感が却って生々しい実感と静かな凄みを感じさせる。疾走感や勢いある青々しさもShout it Outの身上ではあろうが、じっくりと内省を紡いだ聴かせる曲が今日はひときわ胸に刺さるのは、やはり2人になってからの日々に起因するものなのだろう。バンドに、音楽に、ひいては自分自身の生き方に改めて向き合い、格闘した時間が説得力となって表現に滲み出た、そういうことなのだと思う。その後に披露されたタイトル未定の新曲、淡々としつつもやるせない失恋を切実に歌った、新境地と呼びたい楽曲にもそうした側面を垣間見た。
なかでも白眉は「これからのこと」。「これからと夢」に収録されているこの曲には手紙形式で脱退したメンバーへの想いが綴られている。今作のインタビューでも彼らが語ってくれた通り、それはけっして後ろ向きなものではなく、2人でやっていくという姿勢を音楽で示した、まさに“これから”の歌だ。山内の歌に細川がコーラスを重ねた最後の1行、“これからも続いていく僕らの日々に 幸せを”に託された彼らの決意を噛み締める。何事もただ漫然とは続かない、続けられない。続けるという意志を持ってさえ、“続ける”を貫き通すのはとても難しい。それでも、だからこそ。“これから”を追い続けるShout it Outの未来を見届けたい。この日、この場にいた誰もがそう願ったはずだ。
「あと5日で2016年も終わります。いいことも悪いこともたくさんありました。それを乗り越えて今日ここまで歩いてこられたのは、自分たちの力だけではなく、新宿ロフトをこんなにパンパンにしてくれたあなたたちがいたからです。何度やめてやろうと思ったかわかりませんが、そのたびに誰かの顔が浮かんで、もうShout it Outは自分たちだけのバンドではなくなったんだなと思いました」
アンコールに応えて再びステージに戻ってきた山内は噛み締めるようにそう言った。そうして「みんなの力を借りて歩いてきたShout it Outがこれからどんな道を歩いていくのか、その意思表示がしたくて」と3月8日に初のフルアルバム『青年の主張』をリリースすること、加えて全国ツアーの敢行も発表。アルバムからリードトラック「青年の主張」をいち早く披露すると、場内の興奮と期待は一気にピークへと達した。オーラスは「光の唄」、沸き起こったオーディエンスの大合唱が幸福感をどこまでも増幅させる。鳴り渡る音、歌、もはや未来しか見えない。
この日の前日、20歳の誕生日を迎えた細川を祝って、全員で「Happy Birthday to You」を歌い、山内が運んできたローソクを挿した巨大骨付き肉に細川がかぶりつくのを見守り、記念撮影で大団円。キメるべきはキメ、アットホームなところはとことんアットホームにと最後まで実にShout it Outらしい。いよいよ明けた2017年、大人の仲間入りを果たした彼らの本領発揮もこれからだ。
【取材・文:本間 夕子】
リリース情報
青年の主張
2017年03月08日
ポニーキャニオン
セットリスト
Shout it Out EPリリース記念ワンマンライブ~これから~
2016.12.26@新宿LOFT
- M01.DAYS
- M02.あなたと、
- M03.生きている
- M04.影と光
- M05.風を待っている
- M06.雨哀
- M07.列車
- M08.君はまた夢を見る
- M09.ハナウタ
- M10.星降る夜に
- M11.花になる
- M12.トワイライト
- M13.新曲(タイトル未定)
- M14.これからのこと
- M15.若者たち
- M16.逆光
- M17.17歳
- M18.青春のすべて
- EN1.青年の主張
- EN2.光の唄
お知らせ
1stフルアルバム『青年の主張』リリースツアー
2017/2/25(土) 大阪・OSAKA MUSE <ワンマン>
2017/3/05(日) 名古屋・APOLLO BASE <ワンマン>
2017/3/21(火) 松山・松山Double-u Studio <対バン>
2017/3/25(土) 仙台・spaceZero <ワンマン>
2017/3/26(日) 札幌・SOUND CRUE <ワンマン>
2017/3/31(金) 金沢・LIVE HOUSE vanvanV4 <対バン>
2017/4/02(日) 新潟・GOLDEN PIGS BLACK STAGE <対バン>
2017/4/08(土) 福岡・DRUM SON <ワンマン>
2017/4/09(日) 広島・広島BACK BEAT <対バン>
2017/4/14(金) 神戸・MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎 <対バン>
2017/4/16(日) 高松・高松DIME <対バン>
2017/4/22(土) 松本・松本ALECX <対バン>
2017/5/07(日) 東京・TSUTAYA O-WEST <ワンマン>
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。