メジャー第1弾となるアルバム『Slave of Love』で、そのポップセンスを爆発的にキラめかせたビッケブランカ。リリース後に福岡からスタートしたツアー「Slave of Love TOUR 2017」は全公演SOLD OUTとなり、4ヶ所目となる東京・渋谷WWWにも、この日を待ちわびた大勢のファンが詰めかけた。

　ライオンキングの「サークル・オブ・ライフ」が高らかに鳴り響く中、ブロードウェイのようなネオンサインが輝くステージにバンドメンバー、そしてビッケブランカが現れた。爽やかなマリンルック？いやいや、同じボーダーでもここでの役割は完全に囚人服。いつものワークキャップをかぶったビッケブランカの合図で、いざパーティーがスタート。1曲目は「ココラムウ」、イントロですでに昇天。楽しい、楽しすぎる！鍵盤そのものがダンスしているような躍動感に煽られながら、2曲目「Alright！」へ。強烈な個性を放つファルセットボイスでぶっ飛ばしていくビッケブランカ。こんなハイテンションのままライブが続いていくのかと思うと、いい意味でちょっと不安になるくらいだ。めまいがしそうなコード進行に耳も心も奪われる「追う BOY」では、突き動かされるようにステップを踏んだり、コンダクターのように指揮をしたり、彼のアクションもどんどん大きくなっていく。フロアからの歓声やコール＆レスポンス、クラップを巻き込みながら、この日だけのライブ・バージョンが次々と出来上がっていった。
　中盤は少しだけスピードを落としながら、言葉をしっかり伝えていく。「SPEECH」、そして「Golden」では得意のファルセットを美しいニュアンスとして取り入れながら、色気のある地声メインのボーカルを。エモーショナルなファルセットが印象的な「秋の香り」、抑えきれない感情をそのまま映したような歌声に胸が締め付けられた「Your Days」、ステージもフロアもひとつになってのエネルギーがコーラスに注がれた「Echo」と続いたパートでは、1ページ、また1ページと物語を読み進めていくような時間が流れていった。
　インタビューの時にも感じていたことだが、ビッケブランカは会話のテンポがとても気持ちいい人だ。思わず「それで？それで？」と言いたくなるような独特の間合いがあり、狙ってないのにいつの間にかチャーミングなオチがついているみたいなところがとても魅力的で、いつまででもこの人の話を聞いていたいなあと思わされた。この日はMCでアルバム『Slave of Love』の制作秘話が語られたのだが、時間にして10分くらいはあっただろうか？マンションの隣人と騒音問題でトラブルが勃発したのだが、一触即発のところで和解が成立。1年間迷惑をかけ続けていたにも関わらず、最後はスポーツマンシップならぬミュージシャンシップに救われたという事の天末を昨日のことのように再現して見せ、会場は大爆笑となっていた。メンバー紹介だってフツーには終わらない。グダグダになる一歩手前までイジったりイジられたりしながら笑いを取り（笑）、程よきところでスイッチを切り替える。この先(いや、きっと近い将来！)、ライブの会場がとんでもない広さになったとしても、この感じだけは残しておいてほしいなあなんて思っている。
　ライブの後半は、テレビCMでもおなじみの「Natural Woman」を筆頭にアッパーなナンバーを連発。マイクスタンドを立ててオーディエンスを煽りまくったタイトル未定の新曲、ミラーボールの下でカラフルなダンスビートがフロアを揺らす「アシカダンス」と続き、この日のハイライトともいうべきナンバー「Slave of Love」へ。イントロで聴こえてきた幸せな歓声や大合唱の「NO!NO!」コールなど、巻き込めるものは全て巻き込みながらエンディングまで駆け抜けた。ラストは「ファビュラス」。全力でライブを楽しむオーディエンスの表情を嬉しそうに見つめながら、今にもフロアに飛び降りそうなテンションで本編を終えた。
　アンコールは、酸素ボンベをヘリウムガスに見立てて変な声でしゃべり始めるという小ネタから（笑）。今日のライブ、そして今回のツアーを軽く振り返りつつ、「春に何かがあるそうなので、楽しみにしといてくださいね！」と、聞かされた方はどうリアクションをしたらいいかわからない発表の仕方で吉報をアナウンス（笑）。ザワザワした拍手が鳴り止むと、おもむろにこんなことを語り始めた。

「最近よく、ビッケブランカの音楽に救われたとか、辛かった出来事を忘れて前向きになれたって言っていただけて、心から嬉しいんです。でも本来、音楽は人を救うものじゃないと思ってるんです。僕は、みなさんを救いたいとは思っていません。僕はみなさんの背中をちょっと押しただけであって、もし『救われた』『毎日が楽しくなった』って思えたのであれば、それはあなたの力。みんな自分で乗り越える力を持っていて、音楽はきっかけに過ぎないんです。僕に『ありがとう』って言ってくれるのも嬉しいけど、その前に、『自分、すげえじゃん！乗り越えたじゃん！』って、自分を褒めてあげてほしいと思います。これからも、みなさんの背中をちょっとだけ押せる曲を永遠に作り続けていきたいと思ってます」

　感謝と決意を込めた気持ちを真っ直ぐな言葉で伝えると、会場からはあたたかい拍手が沸き起こった。そして、「アンコールは練習とかしないんですけど、今からバキッと完璧に練習されたバンドアレンジで披露したいと思います」とひと笑いとりながら、「Wake up sweetheart」を歌い始める。この日はツアーのファイナルではなかったが(※最終公演は1月22日の北海道・SOUND CRUE)、それに匹敵するほどの思いや熱のこもったパフォーマンスだ。　

「ありがとうございました！幸せになってください！」

　アウトロに乗せて、みんなに贈られた最後のひと言。ビッケブランカの音楽をもっと聴きたい、ライブがあればまた見に行きたいと素直に思わせてくれる、素敵な余韻がそこにはあった。

【取材・文：山田邦子】
【撮影：星野健太】