TOC、ソロツアー“過呼吸~アンコール~”ファイナルをレポート
TOC | 2017.03.10
昨年8月に「過呼吸」でソロメジャーデビューを果たしたTOCのツアー“TOC LIVE TOUR 2017 過呼吸~アンコール~”のファイナルが、3月3日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで行なわれた。
オープニングアクトとして登場したのは、TOCのインディーズアルバム『IN PHASE』にも参加していた“DRESS RECORDS第2の男”こと、弘Jr.。彼はソロで4曲を披露したが、Hilcrhymeにも通じるような、ポップなメロディを持った楽曲を、エネルギッシュなボーカルとパフォーマンスで聴かせてくれた。まさに、“HIP HOPにDressを着せ大衆に届ける”というDRESS RECORDSのコンセプトにぴったりのアーティストだ。この日、5月31日にDRESS RECORDS第2弾アーティストとしてメジャーデビューすることが発表されたが、彼のこれからの活動にも期待したい。
そして、誰もが待ち望んだTOCが真っ赤なバラの花束を持って登場し、「過呼吸」からパワフルなライブがスタート。“余分なものは一切なし。TOCの宴にようこそ”という言葉どおり、DJ AGETETSUをバックに、TOCがひとりで、いつもどおりパワフルだがポップなラップを聴かせていく。「Bird」「JIMOTO」「BirthDay」と、『IN PHASE』と『SAFARI PARK』というこれまでの2枚のアルバムからのナンバーが歌われていったが、そのラップの切れ味はさすがだ。「BirthDay」では、ラップにオートチューンをかけるなど、サウンド面でも彼ならではのアプローチを聴かせている。そして“毎回ライブでやってて、これからも生涯通してやっていきたい、趣向というか、癖(へき)ですね”と言って、客席から女性ファンをひとりステージに上げて、イスに座って女性と正面に向かい合い、「この曲はあなたのためだけに歌います」とスイートなラブバラード「2 FACE」を歌い出した。途中、その女性を背後から抱きかかえるなど、このサービス精神満点のパフォーマンスも、TOCのライブの楽しさだ。
DJ 松永(Creepy Nuts)とのコラボ曲「Daydream」に続いて、「ラップっていうのは、こうやるんだよ。日本で最もキャッチーなラッパーだ」と言って、こちらもDJ 松永とのコラボ曲「ミスターキャッチー」が歌われた。速射砲のように次から次へと言葉が溢れ出してくるTOCのラップが圧巻で、彼のラップスキルのすごさを、まざまざと感じさせてくれるパフォーマンスだ。「知らない曲でも、盛り上がれる?」という言葉に続いて登場したのは、偉大な女性R&Bシンガー、ダイアナ・ロスの1980年の大ヒット曲「I’m Coming Out」をベースに、TOCがラップを聴かせるという、ちょっと変わったアプローチ。これはTOCにとっても、新しいチャレンジだろう。だが彼の個性もしっかりと発揮されており、とても面白い方向性だと思うし、こういったTOCのパフォーマンスを通じて、若いファンの人たちが、ダイアナ・ロスや、この曲のプロデューサーだったナイル・ロジャースのことも知ってくれるようになったらうれしいな、とも思う。さらに『SAFARI PARK』からの「X9X」に続いて、DJ AGETETSUとの掛け合い曲「CUT’S IN THE KITCHEN」、下拓とのコラボ曲「DISOBEY」と、TOCのもうひとつの横顔を見せてくれているような楽曲が続き、彼の音楽性の幅広さがうまく表現されているようなパートになっていた。
ミディアムテンポで情感豊かに、そして感動的に歌い上げる「Ray」に続いて、「ソロ活動を初めてこの3年半、いろいろなことがありました。でも、この3年半のことは忘れたくない」と語り、原点をもう一度見つめ直すかのように、インディーズデビューシングル「Atonement」を座ってじっくりと歌い上げ、続いてジャジーな「TSUMETAI-NICHIYOBI」、さらに「PEEKABOO」「JENGA」と、スロー~ミディアムテンポのナンバーを聴かせた。ライブの後半で、こういったゆったりとしたナンバーを続けるというのも、ちょっと面白い構成だし、TOCのチャレンジ精神のようなものも伝わってくる。
本編ラストは『SAFARI PARK』収録、TOCの強烈なメッセージが込められた「HATE」。その歌声からは、TOCはライブの最初から最後まで攻めまくっているし、自分を応援してくれるファンの人たちをとても大切にしているな、ということが伝わってくる。この日がツアーファイナルということもあり、TOC自身がスマホでファンたちの動画を撮ったりと、会場も大きな盛り上がりを見せて、ライブは一旦終了。
アンコールでは、再び弘Jr.が登場し、『IN PHASE』に収録されていたTOCとのコラボ曲「SIZE」を披露し、「毒を吐かせてくれ」と言い「Shepherd」をパワフルに歌唱。再び「過呼吸」を披露し終了した。
この日のライブで感じたのは、TOCのラッパーとしての“ドラマ”の作り方のうまさだ。ラップというのは、どうしても一本調子になりやすく、歌以上に感情表現や情景描写が難しいのだが、TOCはラップでも、抑揚やメリハリをしっかりと付け、またラップのスピードなどもコントロールして、1曲の中でちゃんとドラマを表現している。聴き手に“映像”を見せてくれるラップなのだ。これはとても難しいことだと思うし、それをここまで見事に表現できるTOCは、素晴らしいと思う。さらに、鮮やかな映像やハデなセットもなく、TOCの歌とDJ AGETETSUだけのステージで、でもここまで観客を引き込み、そしてバラエティ豊かに聴かせるTOCのライブパフォーマーとしての力量の高さ、アーティストとしての音楽性の豊さも感じさせるステージだった。
また、全体を通じて、TOCのソロアーティストとしての立ち位置というか、ひとりのアーティストとしてのTOCの方向性が見えてきたのかな、と感じさせるライブだったと思う。「メジャー進出、レーベルの設立、事務所の移籍など、新しい体制で作り出したこのツアーは、自分にとってもとても大事なツアーになりました。だから、今日が“始まりの日”として見てほしい」と最後にTOCが語っていたが、まさにTOCにとって、そしてDRESS RECORDSにとって、新しい歩みのスタートを告げる、とても意味深く、そしてチャレンジ精神に溢れたツアーだったといえるだろう。
【取材・文:熊谷美広】
リリース情報
過呼吸[初回盤SG+DVD]
2016年08月31日
ユニバーサル ミュージック
02.「Shepherd」
セットリスト
TOC LIVE TOUR 2017
過呼吸~アンコール~
2017.3.3@恵比寿LIQUIDROOM
- 1.過呼吸
- 2.Bird
- 3.JIMOTO
- 4.BirthDay
- 5.2FACE
- 6.Daydream
- 7.ミスターキャッチー
- 8.I’m coming out
- 9.X9X
- 10.CUT’S IN THE KITCHEN
- 11.DISOBEY
- 12.Ray
- 13.Atonement
- 14.TSUMETAI-NICHIYOBI
- 15.PEEKABOO
- 16.JENGA
- 17.HATE
- SIZE feat. 弘Jr.
- Shepherd
- 過呼吸