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くるり、20周年イヤーの締め括りとなるツアー“「チミの名は。」”最終日をレポート

くるり | 2017.03.17

 この日のライブを振り返る前に、まずは2016年に行われたふたつのメモリアルな“コンサート”を振り返っておきたい。ひとつは9月にBunkamura オーチャードホールで開催され、先日DVD化もされた“NOW AND 弦”。岸田 繁が数少ない師と仰ぐ作曲家のフリップ・フィリップとウィーン・アンバサーデ・オーケストラを招聘したこのコンサートは、共演予定だった“京都音楽博覧会”の雷雨による中止というアクシデントを乗り越え、ロックバンドとオーケストレーションが見事な融合を果たした歓喜の一夜となった。僕のすぐ後ろに座っていた、くるりファンというよりは、クラシックファンと思しき奥様方が、「ジャンルの垣根を超えるって、ホントにあるのね」と話していたのをよく覚えている。

 もうひとつは、12月に京都と東京で開催された“京響プレミアム -岸田繁「交響曲第一番」初演”。昨年のくるりは7月に「琥珀色の街、上海蟹の朝」、9月にオールタイムベスト『くるりの20回転』を発表したわけだが、その前後の岸田は初めて交響曲の作曲に挑み、苦闘を続けていた。そして、ついに完成した交響曲第一番の初演となった“京響プレミアム”は、岸田にとって作曲家としての新たな一歩を踏み出す重要な一日となったのだ。そんなふたつのメモリアルなコンサートを終え、アルバム発売から年を跨いで行われた今回のリリースツアーは、20周年イヤーを締め括るファン感謝祭的なツアーなのだと言っていいだろう。

 とはいえ、今回のツアーが単純に『くるりの20回転』の収録曲を中心に演奏するツアーかというと、そうではない。ライブには明確なコンセプトがあり、そのヒントはいつものごとくノリでつけたと思われる“チミの名は。”というツアータイトルに隠されていた。言わずもがな、昨年の大ヒット作のパロディなわけだが、映画のストーリーから導き出された今回のコンセプトは、“曲ごとにメンバーが入れ替わる”というもの。これは岸田と佐藤征史のふたりを中心に、20年間で様々なメンバーと作品を作り続けてきたくるりだからこそ可能な、スペシャルなコンセプトだと言える。“適当に付けたツアータイトルからたまたま導き出されたアイデア”というのが本当だとすれば、あまりにも出来すぎな話だ。

 ライブはまず岸田と佐藤、キーボードの野崎泰弘に、初代ドラマーであり、2016年は“京都音博”をはじめ、いくつかのステージで共演を果たした森 信行と、元The Cigavettesで、現在はくるりのスタッフでもあるギタリストの山本幹宗を加えた組み合わせで、「ワンダーフォーゲル」からスタート。最初の4曲を演奏すると、昨年の“NOW AND THEN”~“NOW AND 弦”のメンバーでもあるドラマーのクリフ・アーモンドと、ギターの松本大樹にスイッチして、クリフが参加しているアルバム『NIKKI』からの曲が多めに披露された。昨年5月に開催された“NOW AND THEN Vol. 3”が『アンテナ』の再現ライブで、9月に行われた“NOW AND 弦”が『ワルツを踊れ』の再現ライブ的意味合いがあったとするならば、その間にリリースされた『NIKKI』からの曲が多く披露されたこの日は、“NOW AND THEN Vol. 4”的な意味合いもあったと言っていいかもしれない。

 また、クリフと松本の組み合わせで、最新曲である「琥珀色の街、上海蟹の朝」と「ふたつの世界」も披露されたのだが、ハンドマイクで歌う岸田がアウトロで思わず指揮者のように大きく手を広げ、バンドを指揮していた姿がとても印象深い。“NOW AND 弦”と“京響プレミアム”を経て、指揮者目線でよりアンサンブルに特化した「ワルツを踊れ2」的な方向性が、次作のヒントだろうか。

 唯一クリフと山本という組み合わせで演奏された「京都の大学生」を挟み、ライブ後半はここまで登場した全員が参加し、ツインドラム(もしくは、パーカッション)とツインギターという特別編成に。バンジョーとマンドリンのアンサンブルから始まる「Long Tall Sally」は、中盤のツインドラムによる変拍子パートがまるでROVOのようなかっこよさ。さらには「Superstar」「ロックンロール」「Ring Ring Ring!」とロックンロールナンバーを連発し、それぞれ個性のある3人のギタリスト(岸田含む)のソロを聴き比べるだけでも実に楽しいし、ゆったりとしたBPMで演奏される「HOW TO GO」はやはり格別。ラストは「街」と「虹」という、これまでも繋げて演奏されることが多かった初期の代表曲2連発で本編が締め括られた。

 アンコールではまず岸田がひとりで登場し、弾き語りで「The Veranda」を披露。さらには、佐藤とふたり(岸田いわく“ゆずというよりも、B’zスタイル”)で「遥かなるリスボン」と「春風」を演奏し、一足早い春の香りに包まれた場内には、穏やかな時間が流れる。さらには、森と山本の組み合わせで、インディーズ時代のレア曲「夜行列車と烏瓜」が披露されると、再びメンバー全員が参加しての「WORLD’S END SUPERNOVA」と「Liberty&Gravity」でフィニッシュ。オリジナルメンバーで「東京」やるかな? とも思ったが、最後まで7人のメンバーで賑やかにライブを終えた。

 これでくるりの20周年イヤーはすべての予定を終了。この日のセットリストの中に新曲はなく、岸田と佐藤は「アルバム作らなあかんな、どうしようか?」とMCで話していたように、実際今後の方向性はまだ白紙に近いのだろう。これまでのくるりの歩みから考えると、アルバム2枚ごとにフェイズが切り替わっている印象で(唯一の例外が『ワルツを踊れ』)、『坩堝の電圧』と『THE PIER』という2枚から、また次であらたなフェイズに切り替わると考えられる。それが途中で書いた『ワルツを踊れ2』的な方向性なのかは正直わからない。昨年の“NOW AND THEN”やこの日のライブで『アンテナ』や『NIKKI』の楽曲をたくさん演奏する姿を観て、ブラックミュージック全盛の現代に、もう一度今のくるりにロックンロールアルバムを作ってほしいという気持ちが湧いたりもした。何にしろ、次の動きが発表されるタイミングでは、母親になったファンファンの復帰も大いにあり得るだろう。そのときのくるりがどんな音を届けてくれるのか。今から楽しみでならない。

【カメラマン:岸田哲平】
【取材・文:金子厚武】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル くるり

リリース情報

くるりの20回転

くるりの20回転

2016年09月14日

ビクターエンタテインメント

DISC1
01. 東京
02. 虹
03. 青い空
04. 街
05. 春風(Alternative)
06. ワンダーフォーゲル
07. ばらの花
08. リバー
09. ワールズエンド・スーパーノヴァ
10. 男の子と女の子
11. HOW TO GO

DISC2
01. ハイウェイ(LA mix)
02. ロックンロール
03. BIRTHDAY
04. Superstar
05. 赤い電車
06. Baby I Love You
07. Juice(くるりとリップスライム)
08. 五月の海
09. JUBILEE
10. 言葉はさんかく こころは四角(Single Ver.)
11. さよならリグレット
12. 三日月
13. 愉快なピーナッツ

DISC3
01. シャツを洗えば(くるりとユーミン)
02. 魔法のじゅうたん
03. 奇跡
04. 石巻復興節
05. my sunrise
06. everybody feels the same
07. Remember me
08. ロックンロール・ハネムーン
09. 最後のメリークリスマス
10. Liberty&Gravity
11. There is(always light)
12. ふたつの世界
13. かんがえがあるカンガルー
14. 琥珀色の街、上海蟹の朝

セットリスト

『くるりの20回転』リリース記念ツアー
「チミの名は。」
2017.2.28@Zepp DiverCity(TOKYO)

  1. 01.ワンダーフォーゲル
  2. 02.トレイン・ロック・フェスティバル
  3. 03.魔法のじゅうたん
  4. 04.愉快なピーナッツ
  5. 05.BIRTHDAY
  6. 06.Bus To Finsbury
  7. 07.Morning Paper
  8. 08.Tonight Is The Night
  9. 09.琥珀色の街、上海蟹の朝
  10. 10.ふたつの世界
  11. 11.京都の大学生
  12. 12.帰り道
  13. 13.Long Tall Sally
  14. 14.Superstar
  15. 15.ロックンロール
  16. 16.Ring Ring Ring!
  17. 17.HOW TO GO
  18. 18.街
  19. 19.虹
 ―アンコール―
  1. 20.The Veranda
  2. 21.遥かなるリスボン
  3. 22.春風
  4. 23.夜行列車と烏瓜
  5. 24.WORLD’S END SUPERNOVA
  6. 25.Liberty&Gravity

お知らせ

■ライブ情報

FUJI ROCK FESTIVAL’17
07/28(金),29(土),30(日)
新潟県 湯沢町 苗場スキー場
くるりの出演日、ステージは後日発表

-10th Anniversary-
WORLD HAPPINESS 2017

08/06 (日)葛西臨海公園 汐風の広場

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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