Creepy NutsがHIP HOPシーンにおけるその立ち位置を表明した、ツアーファイナル
Creepy Nuts | 2017.04.27
ラッパーの R-指定とターンテーブリスト/トラックメイカーの DJ 松永のふたりからなるヒップホップユニットCreepy Nuts。2017年2月24日(金)北海道 Sound Lab moleから始まった全国ツアー「いつかのエキストラ、ライブオンステージ。」の最終公演が4月9日に恵比寿リキッドルームで開催された。DJ 松永のTwitterで“非常に大事なお知らせがある”と事前発表されていたことからも大きな注目を集めていた同ライブ。その模様をレポートする。
ソールドアウトの会場には、B-BOY風の男子やギャルはもちろん、ちょっとナードなスタイルの男女など、さまざまなスタイルの音楽ファンが集まり超満員。
客電が落ちると同時に大歓声が巻き起こり、赤いカーテンが映えるステージ上に二人が登場した。1曲目に演奏されたのは最新ミニアルバムからの表題曲「助演男優賞」だ。会場全体から振り上がる右腕が彼らの現在のプロップスを何より雄弁に物語っている。「リキッドー!ツアーファイナルだぞー!」とR-指定が煽り、オーディエンスが踊る。ヒップホップであると同時にダンスミュージックとしても機能する楽曲が会場をダンスフロアに。そして「誰も待ってないかもしれないけど お・ま ・た ・せ」というラインを見事にキメ、彼らを待っていた満員のオーディエンスに粋に挨拶をしてライブの幕を開けた。
「我々がCreepy Nuts、またの名を『たりないふたり』でございます」という自己紹介&曲紹介で始まったのが「たりないふたり」。「たりない!」と会場中のオーディエンスが叫びそれぞれの欠落を高らかに肯定する。そして疾走感あふれるアッパーチューン「爆ぜろ!!」へとなだれ込むと、腹に響く重低音ベースとラスタカラーの照明で会場の雰囲気は一変。「リキッド、御手を拝借」とハンドクラップを会場全体でキメる様は、3曲目とは思えない圧倒的な一体感だ。
「あらためましてCreepy Nutsです。よろしくお願いします。ツアーファイナルに集まってくれてありがとうございます。パンパンですよ、リキッドが」とR-指定が会場を見渡すと、「こんなことになるとは」と同意するDJ 松永だが、どうやら声が枯れている様子。これに対しR-指定が「うちのDJは歌いもしないのに声が枯れてる」とツッコむと、会場中が爆笑。
そのまま「持てる力全部出していいライブにしたいのでよろしくおねがいします」と意気込みを語ると、ツアーで恒例となったR-指定のフリースタイルに入れてほしいお題を会場から募集する「聖徳太子フリースタイル」コーナーへ。この日のお題は「メソポタミア文明」「誕生日」「ヱビスビール」「mol53」「シスコ坂」「たりないふたご」「あっちのSIMONの方がかっこいいもん」の7つ。「仙台と京都でお題一個飛ばした」と話していたものの、この日は面目躍如。すべてのフレーズを取り入れてハイレベルなフリースタイルを披露。さすがと言うべきハイスキルを見せつけた。その矢先「僕の言ったお題拾われてないって人いませんね。一部角が立たないように改変したとこもありますが」とおどけてみせるチャーミングさはいかにもCreepy Nutsならでは。続いて「こいつにしかできないこと」との紹介が。DJ 松永による超絶DJプレイ、ルーティンだ。「DMCで日本準優勝。スーツが似合う最近流行りの顔。強いていうなら高橋一生ライン」と言うR-指定に、DJ 松永は「一回星野 源(に似ているという話)で荒れてるからやめて」と話し、またもや会場爆笑。そんな息の合った掛け合いから、プレイが始まると途端に目にも留まらぬ手さばき/指さばきで会場を踊らせるそのギャップは「聖徳太子フリースタイル」と並ぶ圧倒的な「ふたりの自己紹介」だ。
そしてライブはCreepy Nutsの立ち位置やスタンスを表現する時間へ。「頭の中は全く成長していません。10年前の中学生のままです」と話して始めたのは自身のルサンチマンをユーモラスに描く「中学十二年生」。そしてドンキホーテとヴィレッジ・ヴァンガードをモチーフとしてヤンキーかサブカルか、体育会系か文系か、どっちにも入れなかった疎外感、そして音楽業界でもそのどっちにも馴染めない感覚を描いた「どっち」で会場の連帯感はさらにひとつ上のステージへ。
「ドンキとビレバン以外にもハナから嫌いなもんがあります」と切り出して矛先を向けたのは「ネット評論家」。見えないところから石を投げてくる。都合の良いところでプロではなく消費者ヅラする大人のニートみたいなやつ、とディスった上で「匿名性を利用して文句を言う人の気持ちを知りたい。ほんまに心から知りたい。だからゲストとしてネット評論家をリキッドルームに呼びます」と表明。しかし呼ぶのはなんと「ネット評論家」ではなく、その守護霊なのだとか。「これはヒップホップ業界でやるのは俺らが初めてだと思います。その霊言を聞いてもらいます」と守護霊を憑依させ披露したのは、もちろん「教祖誕生」。守護霊憑依のくだりには笑いが起こっていたものの、ラップの迫力に気圧され、演奏終了後は拍手や歓声もない緊張感に包まれた。
続いては「次は日本中のMCの守護霊をおろしていきます」と、日本中の様々なタイプのラッパーが憑依したかのように次々と異なるフロウとリリックを披露する「みんなちがって、みんないい。」。憑依型ラップとしてのCreepy Nutsのストーリーテリング力を見せつけた後はアッパーチューン2曲。「一番最初に作った曲」と紹介された「シラフで酔狂」から、「シラフで狂った後は音楽で合法的にトビます」とさらなるアッパーチューン「合法的トビ方ノススメ」へ。「リキッドめっちゃいい感じじゃないですか!もっとみんなと合法的に音楽で飛びたいんですよ。リキッドルームの床が抜けてしまうくらい」と煽るほどの盛り上がりだった。
こうして今日のライブのひとつのピークを作り上げた後、R-指定はヒップホップへの率直な思いを「最初は不良の音楽として敬遠していた」と語り始める。「スラム街から出た文化だけど、根っこにあるのは国や人種を取っ払って、劣等感や、負の感情などの世間に対して抱いているものを、暴力ではなくアートで『やってやる』ということだと解釈した」。そして、そんな思いを抱えている仲間に向け「トレンチコートマフィア」を歌う。それからR-指定はそんなヒップホップに負の感情をぶつけてきた自身を振り返る。音楽活動を続けながらもなかなか芽が出なかったことをあせっていたのだと。「そうしているうちに、俺たちをバカにしていたであろうイケてた奴らは、結婚して子供ができて立派な社会人になっていた。いくら良いライブができても、アルバムを作れても、社会的にはノーカウント。その頃、俺は(音楽に)悔しい思いをぶつけているのに悔しい思いばかりしていた。そんなとき、自分の内側に牙を向けて省みて書いた曲」。そして披露されたのが「朝焼け」だ。同曲で吐露されるのは「自分と向き合って、自分が大したことないと認めた後の世界」だ。R-指定は「そこからお客さんにラップができるようになった」と話す。そうして「朝焼け」の心境を乗り越えたのだという。
そして話題は「昨年爆発的に起こったフリースタイルブーム」へ。これまでアングラだったものがテレビや雑誌で見かける機会が増え、嬉しい反面複雑なものがあるという。 「まっすぐこのブームを信じられない。いつか終わるし、終わったら俺が悪者にされるんだろうなと勘ぐって1つの答えにたどり着いた。その結論を歌ったのが『未来予想図』。これは決意表明みたいな曲。ファイナルだからこそ聞いて欲しいと思って持ってきました」。自己紹介や、自らのポジショニングの表明、ひたすらアッパーなセクションなど、さまざまな要素盛りだくさんのCreepy Nutsのツアーファイナル。その本編はヒップホップへの思いを表現することでエンディングへと向かっていく。自己紹介「普段のツアーやと、この曲(「未来予想図」)が最後だけど、ワンマン、ファイナルなのでもう一曲。今のはラッパーとしての未来予想図。それにならんために頑張ろうぜと作った曲」と話し、本編ラストを「イマジン」で締めくくった。
アンコールでは、最近リリースされた、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのトリビュートアルバムでカバーの枠を超えた表現を見せた参加曲を紹介。「文字通りリライトしました」と演奏されたのは、アジカンの代表曲「リライト」のCreepy Nutsバージョンだ。そしてこの日の重要事項だった大事なお知らせ発表へ。すでにニュースで報じられている通り、このお知らせとは、ソニー・ミュージックからメジャーデビューするという吉報。なんでもR-指定にとってソニー・ミュージックは、以前コッペパンというユニットで育成枠に在籍していたが芽が出なかった縁あるレーベルなのだとか。
メジャーへの意気込みを語り、最後に演奏したのは「使えない奴ら」。「俺らのテーマ曲みたいな感じ。そしてみんなに当てはまるような曲」と、メジャーに行っても変わらない、好きなように自分たちらしくやる、という所信表明的パフォーマンスでこの日のライブ、ツアーを締めくくった。
【取材・文:照沼健太】
【撮影:東 美樹】
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