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amazarashi結成10年、「メッセージボトル」ツアーで表現されたもうひとつの物語

amazarashi | 2017.04.21

 バンド結成10年目にして初のベストアルバム『メッセージボトル』をリリースしたamazarashiが、3月26日からベストを引っさげた全国ツアー「amazarashi Live Tour 2017「メッセージボトル」」を開催している。当初予定されていた全国8ヵ所に加えて、6月23日に中野サンプラザの追加公演も発表された今回のツアー。そのステージはバンドの歴史を語るうえで欠かすことのできない楽曲を織り交ぜながら、リリース順に収録されたベストアルバムとはまた違う、もうひとつのamazarashiの物語を作り上げるものだった。

 大勢の人々が行き交う雑踏とつぶれた苺、それらが断片的に組み合わさる退廃的な映像が斜幕に映し出されると、その斜幕の奥で、秋田ひろむ(Vo / Gt)と豊川真奈美(Key)のふたりをはじめ、出羽良彰(Gt)、中村武文(Ba)、橋谷田真(Dr)という3人のサポートメンバーが演奏の準備を整えていた。「ポエジー」では重心の低いシリアスなバンドサウンドにのせて、ひたすら衝動をぶつけるようなポエトリーリーディングが投げかける。斜幕の奥に立ち、その姿をはっきりと捉えることはできないが、腹の底から叫ぶように熱を帯びた秋田ひろむの歌唱は、放つ言葉の鋭さと相まって、強く心に揺さぶりをかけてきた。

 ギターを歪ませた不気味で混沌としたイントロから始まった「ヨクト」、絶望に抗う、殴り書きの歌詞が斜幕に映し出された「風に流離い」、ステージが真っ赤な炎に包まれた「ワンルーム叙事詩」。ハイクオリティなタイポグラフィーを駆使しながら、秋田が綴る言葉を、より強く、深く伝えるための趣向を凝らした映像は、決して目をそらすことのできないほど異様なまでの切実さを孕んでいた。「ワンルーム叙事詩」では、“奇跡にすがる浅ましさ”を激情のままに歌い、「奇跡」では、やけっぱちでその“奇跡”を讃美してみたりする。逆風の焼け野原で、それでも“何クソ、いつか見返してやる”と抗い続ける歌たちは、誰に届くかわからずとも、ただ歌わずにはいられなかった、amazarashiの原点の歌たちだ。

 ハイライトになったのは「つじつま合わせに生まれた僕等」だった。もともとインディーズ時代のミニアルバム『0.』に収録された曲だったが、今回のベストのタイミングでリアレンジされ、冒頭にポエトリーリーディングを加えた新しいミュージックビデオも作られた。この日、披露されたのは、その新しいバージョンだった。壮大なバンドアレンジにのせて、スクリーンには、バンド名が表すとおり“雨曝し”になりながら、本棚に囲まれて歌う、秋田の姿が映し出された。絶えず悲しみと残虐を繰り返す人の歴史のなかで、この時代に生まれ落ちた私たちは、どう生きるべきなのか。この曲で投げかけられた問いかけは、もしかしたら、amazarashiのどの楽曲にも通じる普遍的な問いかもしれない。

 この日のライブは、言うならば、ライブの前半はバンドが売れなかった時代。ひらがなで“あまざらし”を名乗り、なんとか這い上がろうと泥臭く叫んでいた時代だとしたら、後半は多くの理解者たちを得たamazarashiが、この先、何を大切にして歌っていくのか、その答えを求めているような構成に感じてならなかった。それは秋田ひろむの物語だった。これまでにもamazarashiは、「あまざらし 千分の一夜物語 スターライト」や「amazarashi LIVE 360°「虚無病」」という企画ライブで、物語を紡ぐライブをやってきたけれど、この日の主人公はまぎれもなく秋田ひろむ自身だったと思う。そして、その物語は、この先の未来では、自分自身の過去をと肯定しながら進んでいくというメッセージでもあった。

 MCで、秋田は語りかけた。「amazarashiはつくづく理想になれなかった歪なバンドだなと思っていました。でも、こんなにたくさんの人が集まってくれたので、良かったのかなと思います」と。それは、歌のなかであれほど言葉を尽くして言葉を紡ぐ人物とは思えないほどにシンプルな一言だった。
 そして、その想いを歌にしたという新曲「たられば」が素晴らしかった。スクリーンには光に玉が無数に映し出されて、ストリングスを交えた優しいサウンドにのせたのは、“もし違う人生を歩んでいたら”と、誰もが一度は夢想するような“たられば”の歌。もしも頭が良かったら、もしも話が上手だったら。いくつもの自問自答のあとに、こう歌われた。“もしも僕が生まれ変われるなら もう一度だけ 僕をやってみる 失敗も後悔もしないように でもそれは果たして僕なんだろうか”と。この日のライブは自分を愛する方法を知らなかった主人公が、自分を認めるまでの物語でもあったと思う。恥も後悔も抱えながら、私たちは自分が自分であることを受け入れて命を燃やし続けなければいけない。amazarashiが2時間のライブで残したのは、そんな当たり前で難しい真実だった。

【取材・文:秦理絵】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル amazarashi

リリース情報

メッセージボトル

メッセージボトル

2017年03月29日

SMAR

DISC 1
1. 光、再考
2. つじつま合わせに生まれた僕等
3. 夏を待っていました
4. 無題
5. 奇跡
6. ワンルーム叙事詩
7. さくら
8. この街で生きている
9. 空っぽの空に潰される
10. 美しき思い出
11. ラブソング
12. ナモナキヒト

DISC 2
1. ジュブナイル
2. 性善説
3. 終わりで始まり
4. 冷凍睡眠
5. スターライト
6. ひろ
7. 季節は次々死んでいく
8. スピードと摩擦
9. 多数決
10. ライフイズビューティフル
11. 僕が死のうと思ったのは
12. 命にふさわしい
13. ヒーロー
14. つじつま合わせに生まれた僕等(2017)

お知らせ

■ライブ情報

amazarashi Live Tour 2017
「メッセージボトル」

03/26(日) Zepp Nagoya
04/02(日) Zepp Tokyo
04/16(日) Zepp Namba
04/21(金) 福岡市民会館
05/05(金) Zepp Sapporo
05/14(日) 新潟県民会館
06/03(土) 豊洲PIT
06/17(土) 仙台PIT
06/23(金) 中野サンプラザ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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