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きのこ帝国 全国ツアーファイナルで体現した、バンドの“これまで”と“これから”。

きのこ帝国 | 2017.04.24

 きのこ帝国のワンマンツアー『花の名前を知るとき』最終公演、東京・中野サンプラザホール2days公演の2日目。アルバム『愛のゆくえ』を引っ提げた全国ツアーの集大成となったこの日、4人のメンバーは、これまでのキャリアを網羅するような圧巻のステージを展開してみせた。
 舞台のうえにはドラム、ギターアンプ、ベースアンプなど、必要最小限の機材のみ。装飾を排したシンプルなステージにメンバー4人が登場、2015年4月にリリースしたシングル「桜が咲く前に」からライブをスタートさせる。春の別れ、新たな旅立ちをテーマにした歌、美しい憂いを帯びたメロディが響き、会場の空気を一瞬にしてバンドの色に染め上げる。さらに「今日はツアーファイナルということで、気持ちを盛り上げていきましょう。踊ってください」(佐藤千亜妃 / Vo・Gt)という言葉から「クロノスタシス」(2ndフルアルバム『フェイクワールドワンダーランド』収録 / 2014年)、「海と花束」(1st EP『ロンググッドバイ』収録 / 2013年)など、人気曲を次々と披露する。これまでの軌跡を集約したかのような選曲からは、このツアーに対するメンバーの強い思いが伝わってきた。詩的な雰囲気と“音”としての気持ち良さを兼ね備えた佐藤のボーカル、谷口滋昭(Ba)、西村“コン”(Dr)による骨太なリズムセクション、あーちゃんのノイジーかつメロディアスなギターフレーズのバランスも素晴らしい。

「昨年11月に『愛のゆくえ』というアルバムを出しまして。それを引っ提げて全国を周っておりました。ツアーの最後をこんなにたくさんの方と一緒に迎えられて嬉しいです」(佐藤)というMCの後は、アルバム「愛のゆくえ」の楽曲に以降する。ソウルミュージック、R&Bのテイストを反映したリズム・アレンジが印象的だった「LAST DANCE」、レゲエ、ダブのエッセンスを交えたアンサンブルのなかで、ノスタルジックな夏の風景が広がっていく「夏の影」。ジャズ風の4ビート、ブルージーなベースラインを軸にしたサウンドとともに、浮遊感のあるギターと“どこにも永遠はないのだろう”という言葉が響き渡る「MOON WALK」。これらの楽曲に共通しているのは、リズムの多彩さとメロディの自由さ。アルバム『愛のゆくえ』に関するインタビューのなかで佐藤は「今回はドラムのコンちゃんが叩きたいフレーズを叩いてもらって、そこから広げた曲もあるんですよ」とコメントしていたが、そのことによってきのこ帝国のリズム表現は大きく広がり、それはボーカルラインの豊かさを呼び込むことにもなった。その成果はこの日のステージからもはっきりと感じることができた。  さらに特筆すべきは、佐藤の歌が生み出す豊潤なストーリーだ。9通りの“愛のゆくえ”を描いたというアルバム「愛のゆくえ」。純粋な恋愛、不倫、失ってしまった愛に対する後悔。佐藤が描き出す物語と映像喚起力の高い演奏によって、まるで短編映画を観ているような感覚に包まれるのだ。濃密なグルーヴにゆったりと身を任せながら、様々な愛の物語を味わう――それはもちろん、このバンドでしか味わうことが出来ない音楽体験だ。

 初期の名曲「風化する教室」(1stフルアルバム『eureka』 / 2013年)を披露した後、佐藤はアルバム『愛のゆくえ』について改めて語った。「バラバラのシチュエーションの曲が入っているんですが、人間のディープな部分にある“蠢き”みたいなものが表現できたアルバムかなと思っていて。自分たちの内面とも向き合うことができて、それはすごく良かったなと思っています。今日のアルバムを通して、それぞれの心のなかで大切なものになってくれたらいいなって」

 ライブ後半の起点になったのは、アルバムのタイトル曲「愛のゆくえ」。映画「湯を沸かすほどの熱い愛」の主題歌として制作されたこの曲は、繊細に揺れながら上昇していくメロディ、フィードバック・ギターが炸裂するバンドサウンド、そして、大切な人を失いながらも、それでも前を向いて生きようとする人の姿を映し出す歌詞がひとつになったミディアム・チューン。「愛のゆくえ」がもたらす圧倒的なカタルシスは間違いなく、この日のライブの大きなクライマックスだった。デビュー当初のエモーショナルなギターサウンドをさらに洗練させたこの曲は、「東京」と並び、きのこ帝国のライブアンセムとして浸透することになりそうだ。

 ラストは“10年後も、100年後も、ずっとずっときみのそばに”というフレーズが真っ直ぐに届けられた「クライベイビー」、そして、“息絶える瞬間まで、共に生きていこう”というメッセージに胸を打たれる「死がふたりをわかつまで」。祈りにも似た神聖な空気が広がるなかで、ライブ本編は終了した。

 アンコールでは新曲「夢みる頃を過ぎても」を披露。「きのこ帝国、今年で10周年を迎えることができました。秋頃、みなさんにおもしろいものを届けられたらなと思っていますので、楽しみに待っていただけたら嬉しいです」(佐藤)という言葉に対し、会場からは大きな拍手が沸き起こった。

 アルバム「愛のゆくえ」の楽曲を中心に、バンドの“これまで”と“これから”をしっかりと体現したきのこ帝国。今年の秋から始まる10周年のアニバーサリーに向け、このバンドの存在感はさらに増していくはずだ。

【取材・文:森 朋之】
【撮影:Viola Kam (V’z Twinkle)】


■きのこ帝国
結成10周年プロジェクトtrailer

tag一覧 ライブ 女性ボーカル きのこ帝国

リリース情報

愛のゆくえ

愛のゆくえ

2016年11月02日

ユニバーサルミュージック

01.愛のゆくえ
02.LAST DANCE
03.MOON WALK
04.Landscape
05.夏の影
06.雨上がり
07.畦道で
08.死がふたりをわかつまで
09.クライベイビー

お知らせ

■ライブ情報

きのこ帝国 Dr.西村”コン″生誕祭
『楽しい夜にドラムを叩く』 開催決定!

【公演日】6月24日(土)
【会場】新代田FEVER
【時間】OPEN17:30/START18:00
【出演】きのこ帝国 / あいみょん / paionia

※すべてバンドでDr.西村"コン"が参加いたします。

【チケット】¥3,900(税込) (ドリンク代別)
一般発売日:5月20日(土)


Eggs presents FM802 Rockin’Radio! -OSAKA JO YAON-
05/21(日) 大阪城音楽堂

百万石音楽祭2017~ミリオンロックフェスティバル~
06/03(土) - 04(日)
石川県産業展示館1~4号館

ストレイテナー『BROKEN SCENE TOUR 2017』
06/13(火) 名古屋 CLUB QUATTRO
06/15(木) 渋谷 CLUB QUATTRO

Reborn-Art Festival 2017 x ap bank fes
07/29(土) 国営みちのく杜の湖畔公園

BAYCAMP 2017
09/09(土) 川崎市東扇島東公園 特設ステージ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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