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5人のアコギ侍が終結したスガ シカオ“スガフェス EXTRA”レポート!

スガ シカオ | 2017.04.24

 2月26日、日曜日、舞浜アンフィシアター。“周囲に”を意味するアンフィという言葉のとおり、周囲を客席がぐるりと囲む半円形のステージ上に、ぽつんと置かれたマイク、アンプ、ギタースタンド。“スガフェス EXTRA ~アコギ侍の宴~”は、スガ シカオと仲間たちによる、ギターと歌の力だけの真剣勝負の場だ。プライドを賭け、リスペクトを持ち、持ち時間ですべてを出す。満員のオーディエンスは純粋な音楽ファンであり、ある意味審判だ。

 オープニングアクトは森 広隆。知る人ぞ知る、スガとは固いファンクの絆で結ばれたシンガーソングライター。16分のウラのウラにまでこだわる緻密なグルーヴと高速カッティングを駆使し、2001年のデビュー曲「ゼロ地点」など4曲を披露してくれた。迫力のハイトーン、シャウトとファルセット。いつ聴いてもフレッシュ、いつまでも瑞々しい声と曲だ。

 午後6時。のっそりと、といった雰囲気でステージに現れた斉藤和義が、椅子に腰かけてアコギをジャランと鳴らすと一気に空気が変わった。ゆるさと緊迫感が相半ばする独特の空気。曲は「マディウォーター」「遺伝」など最近のシングルを中心としたもので、言葉も声も実にエロ、いや色っぽい。「スガくんは、詳しくは知らないけど、ドSだと思います」と言いつつ、「Progress」をワンコーラスだけ口ずさむ。Bメロがよくわからないと言って途中でやめる、適当な(良い意味です)姿勢がオーディエンスの緊張感をふっと和ませてくれる。

 二番手は、トータス松本。フォーマルなスーツでビシっと決め、おもむろにウルフルズの代表曲「笑えれば」を歌い出す。圧倒的な声量、天性の華。スガ、斉藤をはじめ「同じ1966年生まれのミュージシャンはヘンな人ばかりやけど、俺がいちばんまともや」と笑いを誘う。スガの「午後のパレード」を一節歌い、ぱたりと止めて「この先は本人が歌いますから」というフリも、もはや芸人技。ジャパニーズソウルのすごみをふんだんに盛り込んだステージは、ウルフルズのトータスしか知らなかったリスナーにも強烈なインパクトを与えたのではないか。

 そして浜崎貴司。1990年デビュー、この日の出演者の中では最長キャリアだが、年齢はひとつ違いの1965年生まれ。しかし芸の世界ではひとつ違えば先輩後輩、滲み出る貫禄で「ウイスキーがお好きでしょ」から「♂+♀(ボーイミーツガール)」と、大陸的かつソウルフルな唯一無二の歌声を広い会場いっぱいに轟かせる。恒例のスガカバーは「夜空ノ向コウ」を、フライングキッズの「風の吹き抜ける場所へ」とマッシュアップ。そして最後にスガ シカオを呼び込み、「幸せであるように」をデュエットで聴かせる、これが素晴らしかった。スガ自身“たぶん邦楽でいちばん影響を受けた”というこの曲を共に歌う喜びが、客席にまでしっかりと届いてきた。

 午後7時50分、いよいよ主役・スガ シカオの登場だ。ユニオンジャックを思わせる派手な柄の服。まずは「バクダンジュース」「19才」と、鋭いカッティングを駆使した不穏なファンクチューン二連発で、場内の空気がピリッと引き締まる。ステージ前方へと積極的に歩みを進め、しなやかなソロを弾きまくる姿勢が実にアグレッシブだ。と思えば「愛について」は、しっとりフォーキーに聴かせる美しいバラード。アコギと歌だけだからこそ、スガ・ワールドの個性の強さがはっきりと伝わってくる。

「ドSとか言ってくれたけど。みんなカバーしてくれて、本当にうれしいです」

 主役という責務より、いちファンとしてそれまでのステージを楽しんでいたような、見るからにご機嫌なスガ。勢い余って、この舞浜アンフィシアターにまつわる“暗い想い出(笑)”のエピソードを話してくれたが、それは当日会場で聴いていた人だけの秘密にしておこう。「20周年だから、全部言っちゃうね(笑)」――。歌もしゃべりも絶好調だ。

「海賊と黒い海」「アストライド」は、最新アルバム『THE LAST』から。自伝的要素を多分に含み、J-POPのフォーマットから遠く離れた異形の哲学的ファンクチューン中心のこのアルバムは、スガのヒストリーの中でもエポックメイキングな大傑作。ライブで聴いてもその存在感は抜群で、美しさとどす黒さを併せ持ち、否が応でも曲の中に引きずり込む吸引力がすごい。オーディエンスは固唾を飲んで見守るしかない。

「サヨナラCOLOR」は、ハナレグミの永積タカシがSUPER BUTTER DOG時代に作った稀代の名バラード。それをスガは、ウクレレ片手に優しく柔らかく、万感の哀愁を込めてカバーする。そこから「Progress」への流れが素晴らしかった。2006年にkokua名義で作られた、NHKドキュメンタリー「プロフェッショナル 仕事の流儀」テーマ曲。制作時のエピソードを振り返り、今や「僕の曲でいちばん知られている曲」になったというこの曲を、「これからも大切に歌っていきます」と締めくくる。あと一歩だけ、前に進もう。ある意味スガらしくない極めてポジティブなフレーズが、かえってその裏側にある暗い挫折や葛藤を鮮やかに想起させる、やはりスガらしい曲。名曲だ。

「最後にみんなで歌おうぜ!」

 ラストチューンは「午後のパレード」。打ち込みのビートを駆使して賑やかに、いつのまにかオーディンスは総立ちだ。2時間半を超える本編を締めくくる、幸せな1曲。「ありがとう。頑張った、俺!」と、最後の言葉も実にスガらしかった。

 宴はまだ終わらない。アンコールでは、スガ、斉藤、トータス、浜崎による“伝説のセッション”(byスガ シカオ)が実現した。「感無量です」とつぶやくスガに、トータスがツッコみ、斉藤がボケをかまし、浜崎が話をひっくり返す。和やかなムードの中で、ウルフルズ「バンザイ」、斉藤和義「歩いて帰ろう」と、全員がワンコーラスずつマイクを回し、代わりばんこにリードギターを弾く。「楽しいなーもう!」と、本音丸出しのスガのはしゃぎっぷりがおかしい。ラストは、沢田研二のカバー「勝手にしやがれ」。「知らない人は知ってるフリして」と言われても、知ってるどころか振り付けまで再現するオーディエンスが多数。嗚呼素晴らしきかな同世代。

 これで終わりか。いや、まだ続きがあった。一人でステージに戻ってきたスガ シカオが、すべての出演者とオーディエンスに感謝を述べると、降り注ぐ万雷の拍手。曲は「黄金の月」、そして20年前の今日、2月26日にリリースされたデビュー曲「ヒットチャートをかけぬけろ」だ。あれから20年、スガ シカオはその異形の天才を存分に発揮しながら、ヒットチャートで戦い続けている。「ありがとう。まだまだ行くぜ!」と叫んだ言葉が胸に沁みる。
スガフェスの本番“スガフェス! ~20年に一度のミラクルフェス~”は、5月6日にさいたまスーパーアリーナにて。この日に輪をかけた、とんでもなく豪華なメンバーが集結している。祝・スガ シカオ20周年。燃えるファンクスピリット胸に、旅はまだまだ続いてゆく。

【カメラマン:KAZUHARU IGARASHI】
【取材・文:宮本英夫】

tag一覧 ライブ スガ シカオ トータス松本 斉藤和義 浜崎貴司 森 広隆

リリース情報

THE LAST(初回限定盤)[CD(通常盤)+SPECIAL CD「THE BEST」]

THE LAST(初回限定盤)[CD(通常盤)+SPECIAL CD「THE BEST」]

2016年01月20日

ビクターエンタテインメント

<収録曲>
01.ふるえる手
02.大晦日の宇宙船
03.あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ
04.海賊と黒い海
05.おれ、やっぱ月に帰るわ
06.ごめんねセンチメンタル
07.青春のホルマリン漬け
08.オバケエントツ
09.愛と幻想のレスポール
10.真夜中の虹
11.アストライド

<SPECIAL CD『THE BEST』>
01.Re:you
02.傷口
03.Festival
04.アイタイ
05.したくてたまらない
06.赤い実
07.赤い実 Remix
08.情熱と人生の間
09.航空灯
10.LIFE
11.モノラルセカイ
※全曲リマスタリング

お知らせ

■ライブ情報

浜崎貴司 弾き語りツアー "LIFE WORKS LIVE ~Since2011/終わりなきひとり旅" 浜崎貴司 誕生日スペシャル!
06/11(日) 京都 磔磔
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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