ドレスコーズ「the dresscodes 2017 “meme” TOUR」東京公演をレポ
ドレスコーズ | 2017.04.26
しとしとと降っていた雨が新木場駅前の満開の桜を濡らしていた。いつぞや志磨が写真を載せていた春まだ浅い頃の蕾も咲いている頃だろうか。それとも今日の主役である“平凡”さんは桜なぞ、興味がないのではなかろうか。今日のライヴは志磨がありし日の志磨でなくなるということなのか…待ち遠しくも、これまでのドレスコーズのライヴで感じたことのない緊張感を抱えながら迎えたツアー最終日。デヴィッド・ボウイ大回顧展「DAVID BOWIE is」日本会場(寺田倉庫)も、この日をもって終了。偶然か、はたまた運命的なものなのか。あらゆる思考を巡らせているうちに会場に辿り着く。雨はもう、すっかりあがっている。
ラジオ番組風のBGMが流れる中、開演を待つ。スタンドマイクは志磨の身長に合わせたであろう高い位置にあり、それはいつもと変わらない。が、マネキンの顔をプリントしたTシャツを着た人があちこちにいる。それだけでも異様な雰囲気だったのは確かだ。「HEY YOU WHAT’S YOUR NAME おまえはだれだ だれだ…」。ソウルフルな演奏をバックに左とん平の魂が叫ぶ「ヘイ・ユウ・ブルース」がフェイドアウトするや不穏なSEが流れ始め、会場はゆっくりと暗転。観客を別次元へと導いてゆく。
3名のホーン・セクションにパーカッション。“無敵のファンク・ギャング”を名乗るバンドは総勢8名。ベースに目をやると、見覚えのあるシルエットが。だが遠目でハッキリとわからない。ひょっとして(山中)治雄じゃないのか?だが嬉しさが混じった感傷的な気分は、1曲目「common式」にあっという間に呑みこまれてしまう。ステージに現れ、ステップを踏むのは、見紛うことなき、あの“平凡さん”。凡庸なるkingの登場だ。平凡さんが歌う「平凡アンチ」。ファンキーな演奏に乗り、歌い、リズムに合わせて踊り狂う彼は、早くも熱狂の渦の中にいる。パーカッションのシンバルが倒れる。ビシッとキマっていた平凡さんの髪が乱れている。
その髪をポケットにしのばせたコームでスマートに整え直したジェントルマン。息をつく暇もなく「マイノリティーの神様」で叫び、踊る。そしてホーンは鳴きまくる。オーディエンスも踊りまくる。一転、「towaie」が会場をシンとさせる。一音も聴き逃すまいと耳を凝らし、ステージを見入ることしかできやしない。髪を撫でつけながらスタンドからマイクをひったくると平凡さんはステージに座り込んだ。有島コレスケ(G)もラップに加わった「メロディ」。ここで2014年の「Hippies E.P.」がシンクロする。おかしな言い方だが、平凡さんは志磨遼平だったのだと改めて思う。そして「Hippies E.P.」を最後に、志磨を残してほかのメンバーが脱退してしまったことも、志磨がひとりで「ドレスコーズ」を名乗っている理由も、今、目の前で山中治雄がステップを踏みながらベースを弾いていることも、すべてに合点がいったような気がした。だが、今日の平凡さんは平凡さんでしかなかった。何かが乗り移る、何かになりきる、という言葉が相応しいのかわからないくらいだ。あまつさえステージ上のその人がアルバムジャケットのマネキンに見えてくることがしばしばあるのだから。
ふとした瞬間に思いを馳せたりすると、今日のライヴには乗り遅れる。それくらいストイックに、だが情熱的にステージは進んだ。上着を脱いだ平凡さんのシャツは汗でぐっしょりと濡れている。細くて平たい彼の体は、さらに薄くなっているように見えた。あの、ダブルのスーツを着こなすために、アルバム『平凡』のコンセプトを、ライヴという場で全うするために。そう思わずにはいられない。
平凡さんはホイッスルを吹き鳴らし、強靭なリズム隊はさらにテンションを上げ、贅沢でクレイジーな演奏に食らいつくオーディエンス。ここで初めて平凡さんが発声する。『山中治雄の「Automatic Punk」!』。ヤマナカハルオの、と言ったよな?…こみ上げてくる何かをまたグルーヴィーな演奏が呑みこんでしまう。長い髪を振り乱しながら狂ったようなプレイをみせる山中と、もはやダンスの域を脱している平凡さん。と、「ヒッピーズ」に痺れるようなスイッチ。『僕らに光よ、照らせ!』。巨大ミラーボールが会場全体にぐるぐると光を放つ。世界の真ん中にいるステージ上の8人と、幾千人かのオーディエンスと、そして自分。
それも束の間、ファンク・ギャングはジリジリとまた異次元へと引き込んでゆく。平凡さんが彷徨い踊る「エゴサーチ&デストロイ」、平凡さんが赤い拡声器を掲げたら「人間ビデオ」に突入。有島のギターも、平凡さんが再び吹くホイッスルも、狂気の沙汰だ。パーカッションとドラムが鳴り響く中、平凡さんの口から放たれたのは『アナーキー・イン・ザ・1K…』のフレーズ。その曲だと気付かないくらいの見事な化け方をしていた。「ゴッホ」。ラテンなステップを踏み、ひざまずいて倒れ込み、這いつくばる平凡さん。オーディエンスの熱狂に投げキッスで応えた。『どうもありがとう』。平凡さんの一言がとても温かいものに聞こえたのはなぜだろう。彼の振る手に合わせてオーディエンスも手を右へ左へ。この幸福感はなんだろう。平凡さんは『どうもありがとう』を2度繰り返した。最後はマイクを通さずに。
アンコール。ホーン・セクションが加わったゴージャスな「人民ダンス」。そこにいるすべての人民が踊るさまを目の当たりにし、『これはすごいものを観てしまったぞ』という、圧倒という言葉を超えた充足感が、ここでようやく湧いてくる。『どうもありがとう、ドレスコーズでした!』最後の曲は「20世紀(さよならフリーダム)」。別れの時はやってきた。アルバムはライヴで完成するとよく言われるが、“観る『平凡』”はそれを最も象徴する、意思のある最高のショウだったと思う。『さよならデヴィッド・ボウイ、さよならチャック・ベリー、さよなら資本主義、さよなら20世紀」』。それが平凡さんとしての最後の言葉だった。
バックに「この素晴らしき世界」が流れる中でのメンバー紹介。すべてを出し切ったといった様子のファンク・ギャング、そして平凡さんの顔が今も忘れられない。ひとりずつ名前を呼び、最後は自らを『志磨遼平でした!』と呼んだ平凡さん。志磨遼平に戻ったその一言で、最後までこびりついていたこちらの緊張感が解き放たれた気がした。平凡さんはどうだろう。ツアーは今日で終わった。それでもアルバム『平凡』が投げかけた“問題”は、まだ解けそうにない。
【取材・文:篠原美江】
【撮影:森 好弘】
リリース情報
平凡 [通常盤Type B【CD+DVD】]
2017年03月01日
キングレコード
2.平凡アンチ
3.マイノリティーの神様
4.人民ダンス
5.towaie
6.ストレンジャー
7.エゴサーチ&デストロイ
8.規律/訓練
9.静物
10.20世紀(さよならフリーダム)
11.アートvsデザイン
12.人間ビデオ
セットリスト
the dresscodes 2017 “meme” TOUR
2017.04.09@新木場STUDIO COAST
- 1.common式
- 2.平凡アンチ
- 3.マイノリティーの神様
- 4.towaie
- 5.メロディ
- 6.ストレンジャー
- 7.規律/訓練
- 8.Automatic Punk
- 9.ヒッピーズ
- 10.エゴサーチ&デストロイ
- 11.人間ビデオ
- 12.ゴッホ
- 13.アート vs デザイン
- EN-1.人民ダンス
- EN-2.20世紀(さよならフリーダム)
お知らせ
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