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中田裕二「TOUR 17 “thickness”」昭和女子大学人見記念講堂で見せた極上のファイナル

中田裕二 | 2017.06.06

 ニール・ヤングがバッファロー・スプリングフィールド時代に書いた名曲「Mr.Soul」が流れると総立ちになった観客は、これからどれほど素敵な時間になるか知っているようだった。「TOUR 17 “thickness”」ファイナルを迎えた、東京・昭和女子大学人見記念講堂。

 ステージに登場した中田裕二は「ようこそ!」と声をかけ、赤いギブソンを持つとジャジーなセッションを軽くバンドと合わせて「femme fatale」からスタート。その時に頭をよぎったことが次の「リビルド」でより強まった。というのは、このツアーのタイトルでもある最新作『thickness』についてのインタビューで「リビルド」について訊いた時、「久々にエレキ・ギターを買って、ロックなリフ(の曲)を作ろうと思って始めたら楽しくて」と言っており、ライヴでもその気持ちが続いているのではと思ったのだ。もちろん彼のグルーヴィーな曲や歌は並のロック・バンドとは一線を画す。けれども彼の中にバンド魂も健在のはずだ。同じインタビューで『thickness』というタイトルについて語った「いろいろ積み重ねてきた表現の分厚さ」という言葉通りのことが、これから起こる予感がした。実際、後半で彼自身が言ったように「俺の中では新しい音楽。若い人たちが聴いているのとは違うかもしれないけれど同じのばっかりでもつまらない。俺みたいのも聴かれないとおかしい」。まさにそのワン・アンド・オンリーぶりを、曲が進むほどにこの夜は堪能させてくれたのだった。

 キーボードの奥野真哉がアコーディオンを弾き、ベースの真船勝博がアップライトに持ち替えた「静かなる三日月」は、ウェスタン調のオリジナルより異国情緒が強まり、“待ち受けている気がしているだろう、東京!”と歌詞を変えて歌いかけた。逡巡する感情を歌う「何故に今は在る」では平泉光司が思い切り泣きのギターを弾き、奥野のレオン・ラッセル風ピアノから切れ味よく進んだ「IT’S SO EASY」、コーラスのカトウタロウが「Please welcome,Yuji Nakada in the house!」と紹介した「LOST GENERATION SOUL SINGER」では、中田はマイクを手にステージを歩きながらオーディエンスと手を振り合い、コーラスを交わし合う。それをさらに盛り上げるのが、コーラスとは思えないほど本気で歌いステップを踏んでいるコーラス隊のカトウと木村ウニだ。この二人とギターの平泉が並ぶステージ上手は、中田のステージに新しい空気を入れていた。

 カトウは元BEAT CRUSADERSのギター、木村は男女ユニット蜜の一人、平泉はbenzoとCOUCHのメンバーだ。奥野は言うまでもなくソウル・フラワー・ユニオンの一員であると同時に数多のアーティストのサポートを務め、真船もEGO-WRAPPIN’の他さまざまなアーティストの録音やライヴに参加してきている。そんなバンドのメンバーを紹介した中盤のMCで最も注目を集めたのはドラムの白根賢一。GREAT3の一員で遊び心もある白根だが、中田に「ミスター・セクシー」と紹介されて、紫の照明の中でシャツを脱いだのは驚かされた。こうしたメンバーとの演奏は、単にいいグルーヴという以上にバンドのような空気を生み出していて、自身もソロになる以前はバンド椿屋四重奏を率いていた中田にとって居心地のいいものだったかと想像する。

「アルバムは、ツアーをやって完成する気がして、今日がクライマックスという感じで寂しい気持ちもするんですけど、まだ残りたっぷりありますから楽しんでください。このアルバムで俺にしか作れんぞと思った曲があります」と自信をちらつかせ落ち着いたリズム隊とともにムードたっぷりに聴かせた「Deeper」から軽やかに弾んだ「ギミー・ナウ」、凝ったビートにムーディなギターとコーラスが生きた椿屋四重奏時代の曲「共犯」は、このバンドだから久々に演奏したのではと思いたくなった。そして、浮ついたパーティ気分をシニカルに歌う「ラフター・パーティー」から、ぐっと大きな揺れで聴かせる「ただ一つの太陽」へと続いたダイナミックな流れは中田の本領を伺わせたと言えようか。

 中田自身も手応えを感じていたようだ。「今日が一番いい演奏かもしれないですね」とMCの口火を切った。このツアーはメンバーが交代した日もあったことを話すうちに奥野に突っ込まれたりもしたのだが、「ここから先もグルーヴィーな曲をグイグイいきますから」と告げてアコギで音を取ると、歌から始まる「誘惑」へ。ソウルフルなミッド・バラードが一段とディープなソウル・ナンバーとして歌い上げられ、ラテン風味のキーボードがリズミカルに踊った「STONEFLOWER」で誰もが体を揺らした。そして平泉が前に出てギターを弾いて始まった「MY LITTLE IMPERIAL」は更にソウルフルなナンバーとなり後半はセッション風に演奏が熱気を帯び、中田のスキャットが熱量をあげた。こんな瞬間の中田を見られるのがライヴの醍醐味でもある。そしてオーディエンスがイントロで沸いた、椿屋四重奏の「恋わずらい」。オリジナルのロック・テイストに豊かな膨らみをもたせ、息詰まるような瞬間をもたらしたこの曲は、今の中田がこのバンドだから演奏したと思いたくなった。

 「皆が一つになるための愛の作業を」と呼びかけてのコール&レスポンスで空気をほぐした「THE OPERATION」では“この日を待っていたよ”と呼びかけるように歌い、ステージ狭しと動きながらオーディエンスに手を振る。「今夜はどうもありがとう! 東京のみんな、いい加減に、愛に気づけよ!」と言ってラスト・ナンバー「愛に気づけよ」に突入。白根はダイナミックなドラムで皆を煽り、コーラス隊はタンバリンを振りながらステップを踏んで盛り上げる。明るくなった客席は笑顔で手を振る姿が溢れていた。

 「いいツアーがこういう形で締めくくることができて嬉しく思っています、皆さんのお陰です。この旅が終わって素直に思うことは、とにかく売れたいです。ピカピカ光る新曲を書いて攻めていこうと思いますので、引き続き宜しくお願いします」アンコールに応えて中田は率直にこう言った。コーラス隊による楽しいグッズ紹介や、プレゼントを観客に巻きながら登場した奥野も揃っての「リバースのカード」「DANCE IN FLAMES」は開放感たっぷりの演奏でフロアが揺れた。セカンド・アンコールは「一緒に夜間飛行に行きましょう!」と「MIDNIGHT FLYER」。歌いながらステージを降りて客席の通路を一巡りするサプライズに興奮もピークに達し、極上のツアーファイナルは2時間半を超えて幕を閉じた。中田にとっても一つの大きな山を踏破した、そんな到達感があったのではないだろうか。ステージを後にする姿にそんな気配が漂っていた。

【取材・文:今井智子】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 中田裕二

リリース情報

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2017年03月22日

テイチクエンタテインメント

1. femme fatale
2. 静かなる三日月
3. ラフター・パーティー
4. IT’S SO EASY
5. 何故に今は在る
6. Deeper
7. リビルド
8. ただひとつの太陽
9. ギミー・ナウ
10. 愛に気づけよ
11. THE OPERATION

セットリスト

TOUR 17 “thickness”
2017.05.28@昭和女子大学人見記念講堂

  1. 01.femme fatale
  2. 02.リビルド
  3. 03.静かなる三日月
  4. 04.デイジー
  5. 05.何故に今は在る
  6. 06.IT’S SO EASY
  7. 07.LOST GENERATION SOUL SINGER
  8. 08.灰の夢
  9. 09.Deeper
  10. 10.ギミー・ナウ
  11. 11.共犯
  12. 12.ラフター・パーティー
  13. 13.ただひとつの太陽
  14. 14.誘惑
  15. 15.STONEFLOWER
  16. 16.MY LITTLE IMPERIAL
  17. 17.恋わずらい
  18. 18.THE OPERATION
  19. 19.愛に気づけよ
 ENCORE
  1. EN 1.リバースのカード
  2. EN 2.DANCE IN FLAMES
  3. EN 3.MIDNIGHT FLYER

お知らせ

■ライブ情報

初恋の嵐 presents
『初恋の嵐のラストワルツ』

07/07(金) 東京:新宿LOFT

SLOW TIME MEETING 2017
07/16(日) 群馬:高崎市文化会館

OTODAMA SEA STUDIO 2017
いつものあの海で2017

07/19(水)OTODAMA SEA STUDIO

SUPER DREAM LAKE CONCERT 2017
09/09(土) 水戸:千波湖畔野外特設ステージ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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