3rd Album『溜息の断面図』レコ発3daysファイナル公演をレポート
ハルカトミユキ | 2017.07.07
3rd Album『溜息の断面図』リリース日の6月28日から3日連続で、「レコ発3Days」と銘打って対バンライヴを行ったハルカトミユキ。初日はこれが初対バンとなるtacicaと渋谷WWW X、2日目は渋谷WWWでperidots(with 河野圭、横山竜一)、そして3日目はハルカトミユキのデビュー当時からの友人でもある、きのこ帝国と渋谷クアトロで念願の2マンとなった。その3日目の様子をレポートしよう。
先攻は、きのこ帝国。幻想的な「FLOWER GIRL」を幕開けに起伏に富んだ曲でオーディエンスを温める。佐藤千亜妃(Vo・G)はMCで「ハルカトミユキとはけっこう昔から対バンしたり飲んだりする仲」と語り、『溜息の断面図』について「ハルカちゃんの詩の世界が更新されて深いところに行ってる。歌声も素晴らしい。個人的にはミユキちゃんが曲を書いているのがツボ」と彼女ならではの感想も。彼らが代表曲のひとつ「東京」で締めると大きな歓声と拍手が送られた。
十分に温まったところにハルカトミユキが登場。「楽しんでください!」と声をかけ『溜息の断面図』の1曲目である「わらべうた」からスタート。オフコード気味の歌い出しから、サビではミユキとのコーラスが綺麗に重なる、トリッキーなナンバーだ。二人の声だけが残ったエンディングに歓声と拍手が起こった。続く「世界」は、途中でハルカが「一緒に歌ってください」と呼びかけるとフロアからもコーラスが響き、「ドライアイス」は空気を変えてゆったりと聴かせた。
最初のMCでハルカはきのこ帝国へ謝辞を述べ、「レコ発というめでたい日に2マンさせてもらえて光栄です」と笑顔を見せた。そして気持ちを引き締めるように「Pain」と曲名を告げて歌い出すと、“ハロー”と呼びかけるこの曲に彼女の気持ちが入っていく。続く「春の雨」ではマイクを手に持ち、全身で歌詞を表しながら歌った。ハルカが昨年演劇の舞台を経験したことでステージが変わってきたとミユキが言ったのは、こうしたシーンのことだったのか。陰影に富んだ歌詞が一段と立体的な影を落とすようだった。
2度目のMCは、きのこ帝国との出会いから。ライヴを初めてみた時には、佐藤を「きれいな男の子」だと思ったというハルカだが、久しぶりに再会した2人の第一声は「髪伸びたじゃん!」だったと和ませた後、「次にやる曲は、大人だからといって割り切れないこともいっぱいあって、でも子供みたいにもう甘えることもできなくて、心のよりどころがなくってすごく辛い瞬間がある。そういう瞬間をそのまま書いた曲です」と「宝物」へ。ミユキのピアノだけで歌ったこの曲は、子供から大人へ成長する過程で感じる心の痛みが、ハルカの言葉で綴られている。『溜息の断面図』でもピアノだけで歌っているが、この日も二人のピュアな思いが伝わってきた。
「ハルカトミユキは、結成当初バンドを組みたかったんですけど、人間関係がうまく築けないということで、2人になってしまったユニットです。バンドサウンドにずっと憧れて、暴れたり流血したり、叫んだりダイヴしたり、みたいのを見るのが大好きで、やりたかったんですけど、仕方なく2人で(笑)必死でやってきて、アコースティックギターでも、2人だけでも、言葉だけはパンクでいようと誓いました。今回の『溜息の断面図』で、当初からずっと言いたかったことを、やっと出せた。本当に嘘のないアルバムができたと思っています。その中から本当に言いたいことを詰め込んだ1曲をやりたいと思います」
それは今回ミユキが曲を書いたもののひとつ「終わりの始まり」。緊張感のあるベースのリフに合わせてラップ風に歌い出し、心の奥へ入り込んでいくハルカの言葉に圧倒される。吐き出すような言葉とともに次第に高揚していく演奏に手を振り上げて乗っていくミユキに、オーディエンスも一緒に揺れていた。熱くなったミユキがMCを入れる。
「きのこ帝国がかっこいいライヴを見せてくれたので私たちも負けずにひとつになっていきたいと思います。アルバム『溜息の断面図』には言葉にならない怒りを詰め込んだので、今日はあなたの怒りを私たちにぶつけてもらいたいんです。ぶつけてもらえますか!」そしてミユキのシャウトを合図に「Stand Up, Baby」に突入。ダイナミックなバンド・サウンドとシニカルな歌詞がリアルを描き出す。ミユキが頭上でハンドクラップを続け、ハルカは高まる感情をぶつけるように歌い続ける。ドラムスが鳴り続け「振り出しに戻る」へ。ハルカが熱っぽく歌い、ミユキはビートに合わせてくるくると回り、ステップを踏み、シャウトしたかと思うと力一杯キーボードを弾く。終盤ではキーボードの後ろにあった椅子をステージ上で放り投げ、クールなハルカと対照的に、ホットなミユキが爆発した。熱気を抑えるようにスペイシーなSEが流れ「最後の曲です」とハルカが告げた「ニュートンの林檎」は、一段と高揚した空気となってフロアからオイコールが起こった。“重力に負けた”と歌うが、根底にあるのはそれに屈しない心だ。ハルカの強さとミユキの熱量にオーディエンスも共振して、まさにこの場所がひとつになった。
アンコールは、“このメンバーでレコーディングもした”と、バンドの紹介から。キッドと呼ばれた城戸紘志(Dr)は手を振り、紹介されて被っていたハットを手に取り頭を下げた砂山淳一(B)には、「鳩は出ないの?」とハルカが茶化した。ヨウイチロウ!と親しみを込めて紹介した野村陽一郎(G)は、前作に続き『溜息の断面図』のプロデューサーでもあることから、思わず陽一郎先生と呼んでしまい「言うなって言われてたのに(笑)。たくさんしごかれて、曲をどんどんボツにされながら、それでも必死に作ったアルバムです」とハルカ。野村は「今回ハルカの書く歌詞がすごいパワーを持っていて、その歌詞を乗っける器としてのメロディが欲しかったので、40曲ぐらいボツにしました」と制作裏話も披瀝。そしてハルカは、3度目の日比谷野外音楽堂でのライヴを9月2日に行うことを告知、そしてこの日の対バンであるきのこ帝国について、こう言った。
「私はすごい不器用だし歪んだ人間なので、あんまり人のことをいいって素直に言えないタイプの人間なんですけど、きのこ帝国は今の音楽シーン、同じ時代にいてくれて、本当によかった、ありがとうと思える存在。勝手に戦友のように思っています」
最後を飾った曲は「奇跡を祈ることはもうしない」。孤高を厭わず未来へ進むリアルな歌を、ドラマチックな演奏と共にハルカは歌い上げた。振り返れば第1回の日比谷野音(2015年)は「ひとり×3000」と題したフリーライヴだった。ひとり一人が自分の足で立ち、進んでいく。ハルカトミユキが描くのは、そんな人たちとわかり合える思いだ。2回目は雨の中、心を温めあった。今年もひとり一人がハルカトミユキの歌と対峙する光景が、9月に日比谷野音で見られることだろう。
【取材・文:今井智子】
【撮影:上山陽介】
リリース情報
溜息の断面図
2017年06月28日
Sony Music Associated Records
2.Stand Up, Baby
3.Sunny, Cloudy
4.終わりの始まり
5.Fairy Trash Tale
6.WILL(Ending Note)
7.宝物
8.近眼のゾンビ
9.インスタントラブ
10.僕は街を出てゆく
11.嵐の舟
12.種を蒔く人
セットリスト
アルバム レコ発 3days
2017.06.30@渋谷 CLUB QUATTRO
- 01.わらべうた
- 02.世界
- 03.ドライアイス
- 04.Pain
- 05.春の雨
- 06.宝物
- 07.終わりの始まり
- 08.Stand Up,Baby
- 09.振り出しに戻る
- 10.ニュートンの林檎
- EN 01.奇跡を祈ることはもうしない
お知らせ
+5th Anniversary SPECIAL
09/02(土) 日比谷野外大音楽堂
Acoustic two man LIVE "ハルカトミユキ×新山詩織"
07/12(水) 代官山LOOP
OTODAMA SEA STUDIO 2017
〜BEACH MUSIC 2017〜
07/15(土) OTODAMA SEA STUDIO
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017
08/12(土) 茨城・国営ひたち海浜公園
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。