ツアータイトルの“Butterfly in the stomach”とは、初デート前日のドキドキした気持ちなどを表す言葉だという。「今日という日はデートやなと思う。くだらないことも真面目なことも楽しんでもらいたいと思って、いろいろなことを考えてきました。あなたが来てくれないと意味がない。7月6日渋谷WWW。18時集合、現地集合、現地解散。ごめんね、ハチ公まで迎えに行けなくて（笑）。来てくれてありがとう！」。石川大裕（Ba・Cho）の人懐こい挨拶からも、集まったお客さんとのかけがえのない時間を全力で楽しませようという気概が伝わってきたBURNOUT SYNDROMESのツアーファイナル。それは彼らがライブバンドとして大きく前進したことを告げる意味深いライブだった。

　今回は全国6都市をまわる対バン形式のツアー。まず開演前に報道ステーション風のインタビュー映像がスクリーンに流れ始めた。ベース石川がインタビュアーに扮して、熊谷和海（Vo・Gt）と廣瀬拓哉（Dr・Cho）が対バン相手への思い入れを伝えるというその映像のなかで、熊谷はこの日の対バン相手となるtacicaについて「スリーピースの不便性を打ち破ったバンド」と熱っぽく語った。現在はふたり組で活動するtacicaもデビュー当時はスリーピース。文学的な世界観を最小限のバンドサウンドで表現するという音楽性にも通じるものがあり、バーンアウトにとっては学生時代から憧れていた存在だ。

　今回のツアーでは初日の岡山を皮切りに2本目の福岡、ファイナル東京の3ヵ所でバーンアウトとの対バンを繰り広げたtacicaは、サポートドラムに中畑大樹を迎えた3人編成で「HERO」から幕を開けた。フロントに立つ猪狩翔一（Vo・Gt）と小西悠太（Ba）、そして中畑とがぴったりと呼吸を合わせて奏でるエッジの効いた演奏で、スリーピースだからこその隙とその狭間から漏れ出る熱い衝動を湛えて渋谷WWWにスリリングな空間を作り上げていった。決して言葉で多くは語るバンドではないが、「ツアーはファイナルだけど、自分たちのワンマンのようにやります」と言った猪狩のMCは、たとえどんな舞台であろうとも自分たちのスタンスを貫くtacicaらしい一言だった。真っ赤なライティングのもので命の躍動を叫んだ「発熱」、性急に刻んだギターのカッティングに導かれるようにハンドクラップが湧いた「LEO」など、スリリングで美しい景色を描きながら辿り着いたラストソングは「DAN」。いくつもの逡巡を経てなお、夢のために“残り全部の命を使え”と歌い切る「DAN」まで、それは宣言どおり我が道をゆく孤高のステージだった。

　転換中には「自分たちのライブはお客さんのフォーカウントで始めたい」と言って、石川がフロアに集まったお客さんとかけ声を練習。“ワン、ツー、スリー、フォー”という息の合ったかけ声で突入した「エアギターガール」からバーンアウトのライブは最高のスタートダッシュで始まった。ライブの盛り上げ役を担う石川はもちろん、最高の笑顔と熱いビートでフロントふたりの背中を見守る廣瀬も、何より文学青年的な真面目さが漂う熊谷に至るまで、この日のバーンアウトはライブという一瞬の時間を全力で謳歌しようとする気持ちがステージから溢れていた。それは彼らの大きな成長だった。ライブが始まった瞬間にそんなふうに思ったことが錯覚ではないことは、のちに明かす熊谷自身のMCで判明する。

『ヒカリアレ』のカップリングとして収録されているバーンアウト風のロックンロール「PIANOTUNE」から、地面を蹴るハイヒールの音と高飛車な女性のセリフが意表を突く「エレベーターガール」へ。疾走感溢れるナンバーを畳みかけた前半を終えて、中盤は小休止のように「吾輩は猫である」という新曲が披露された。いわずもがな夏目漱石の名作のタイトルをそのまま拝借したその曲はアコースティックテイストによる猫目線のラブソング。「僕の大好きな熊谷くんの歌詞を目でも見て感じてほしい」という石川の言葉を受けて、スクリーンに歌詞が映し出されると、途中のギターソロではスクリーンに“ギターソロである”という文字と猫のイラストが表示されたりして、遊び心のある可愛らしい演出も印象的だった。

　ライブのクライマックスに向けて石川が「俺たちは毎日あなたのそばにいたい。でも、そんなのは日本の法律で許されてないから（笑）。俺たちはあなたのiPodとかウォークマンの中やったら、毎日一緒にいられる。俺らはあなたが毎日聴きたいと思う曲を絶対に作る。もっとかっこよくなる。そんなあなたとの約束の歌を！」と言ってから届けたのは「ヒカリアレ」だった。ギターの性急なカッティングが、力強いリズム隊の躍動が、誠実なメロディが私たちを光へと導くその楽曲は、1年前に2ndシングルとしてリリースした当時よりも深く熱い意味をもって渋谷WWWに響き渡っていた。そして、熊谷が「あなたたちが俺たちの翼です！」と叫んでフロアの大合唱を起こした「FLY HIGH!!」へ。このとき、彼らの楽曲はバーンアウトの曲であり、同時にしっかりとお客さんの曲にもなっていた。音楽とは楽曲の良さという大前提のうえで、本当の意味で価値を持つのは聴き手のものになった瞬間だ。

　バーンアウトのライブではほとんどのMCを石川が担当するが、最後だけは熊谷がギターをポロポロと弾きながら語りかけた。どこかでライブに苦手意識があったこと。このツアーで心からライブを楽しいと思えていることを。「日常の薄っぺらい会話では絶対に感じられない、心と心が繋がっている感覚があった。その関係をなくさずに続けていきたいと思ってます。これからも一生一緒に歩いていってほしいです」。そう言って最後に感謝の気持ちを込めて「ラブレター。」を届けた。“ねぇ 聞こえるか？”と聴き手の存在を確かめるように歌うのは、いま“君”と“僕”がたしかに生きていることを祝福するような優しい歌だった。

　アンコールでは新曲「ハイスコアガール」が披露された。これまで「エアギターガール」「エレベーターガール」という女の子（女性）を主人公にした楽曲を作ってきたバーンアウトに新たに加わった“ガールシリーズ”の新曲は、上手くいかない日常をゲームのように乗り越えようとする女の子の一生懸命な歌だ。そして、本当のラストはインディーズ時代から歌い続けている「墜落/上昇」。ようやく心の底からライブを楽しむことができるようになったことで、より深くお客さんと向き合うようになったBURNOUT SYNDROMES。そのステージには、かつてないほど明確に明日へ向かうための強い意思が刻まれていた。

【取材・文：秦 理絵】