7月7日、七夕の夜に行われたウソツキの「惑星X」星跨ぎツアーファイナル、オーディエンス総立ちのさくらホールをレポート!
ウソツキ | 2017.07.21
誰だってきっとひとりにはなりたくない。けれど人が個体である限り、どうしたってひとりはひとり。自分以外の誰かにはなれないし、誰かと同化してひとりの寂しさをうっちゃることもできない。どれだけ相手の言語にすり合わせようと努力しても、例えばその努力がある種の成功を収めたとしても、本当の意味ですべてをわかり合うのはとてもとても難しいことだ。
そうした、どうしようもない孤独を竹田昌和(Vo・Gt)はエイリアンと呼んだ。「ウソツキは基本的に宇宙縛り」とは最新アルバム『惑星TOKYO』のインタビューでの本人の弁だが、宇宙をモチーフにしたたくさんの歌詞の中で、これまでは排斥されてしまうもの、異端の象徴として描かれてきたエイリアンが、今作では実は誰もが心の中に抱えている存在としてポジティブに捉えられているのが興味深く、おそらくそれは聴く者に画期的な印象を与えたのではないだろうか。
竹田というエイリアン、あるいはウソツキというエイリアンたちから生きとし生けるすべてのエイリアンへ捧げた『惑星TOKYO』を携えて全国8ヵ所を回るワンマンツアー“「惑星X」星跨ぎツアー”最終日の7月7日、東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール。彼らにとっては昨年のMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREに次いで二度目のホール公演となる。そして7月7日といえば七夕、織り姫と彦星が天の川を渡って手を取り合うことのできる年に一度の大切な日だ。各地で星を跨いできた旅のファイナルにこれほどふさわしい夜もない。
定時を少し過ぎた頃、場内にスッと闇の帳が降りた。すると唐突に「やあ! 地球に住む孤独なエイリアンたち、初めまして。エイリアンです!」とやけにフレンドリーな声が響き渡る。声の主を探してさざめく観客たち、すると2階のバルコニーにはなんと自己申告通り、エイリアンが。しかし、すぐに「ここじゃ見にくいね」と出ていくや、すぐさまステージに改めて登場。さすがはエイリアン、瞬間ワープもお手のものらしい。
「惑星TOKYOへようこそ。ここは僕が作った嘘のような本当の世界。今日は何もかも忘れて、笑って泣いて楽しんで帰って下さい。さあお待ちかね、ウソツキの登場だ!」
エイリアンの紹介とともに吉田健二(Gt)、藤井浩太(Ba)、林山拓斗(Dr)がそれぞれの持ち場につき、エイリアン自身も颯爽とギターを肩に掛ける。そうして顔面をはぎ取ると現われたのは竹田の顔。エイリアン=自分だという暗喩を込めた、ウソツキらしいシアトリカルな演出にオーディエンスは大喜びだ。
オープニングはアルバム表題曲でもある「惑星TOKYO」が飾った。EDMを大胆に取り入れたウソツキの新境地とも言うべきこの曲を満場のハンドクラップがいっそう盛り上げ、全席指定の会場ながらオーディエンス全員総立ちのさくらホールは早くも一体感に包まれる。曲の冒頭で竹田の口をついて出た「かかってこいよ、抱きしめてやるから」なんてキザな言葉もやけにハマるロックンロールチューン「夢のレシピ」では吉田がアグレッシブにギターをかき鳴らしたかと思えば、藤井もステージの前に出て、モニターアンプに足を掛けてはグイッと身を乗り出すようにして弾いてみせるなどロックスター然としたパフォーマンスで客席を魅了。竹田の歌に合いの手のようにメンバーが声を揃える“ピポ!”のコーラスも生だとより遊び心が際立って聴こえるから不思議だ。余談ではあるがこのコーラス、“people”の英語発音ではなくサイレンの“ピーポー”をイメージしているという。
どっしりと構えて疾走感を後押しする林山のビートがフロント3人のサウンドをいっそう自由に駆け回らせた「地下鉄タイムトラベル」から、タイトルそのままに一生を懸けて愛を告白し続けると誓う、等身大にしてスケールの大きなラブソング「一生分のラブレター」。ウソツキなりのダンスナンバーにしてライブの昂揚に必須の定番曲「旗揚げ運動」ではダンサー兼務(?)のギタリストの吉田が「ここは“星跨ぎツアー”の終着点です。終着点のみんなは銀河系でいちばんのダンスを見せてくれなきゃ困るんです!」と訴えて恒例の振り付け指導、オーディエンスも見事に応え、全員でぴったりと息の合ったダンスを披露してみせる。
ここまで勢いのある曲を畳み掛けてきたためか、続く「心入居」のドラムを予定よりずっと遅いテンポで林山が叩き始めてしまい、あえなく演奏が止まるというハプニングもあったものの(後のMCで本人が明かしたところによれば、今日は一段とライブの流れを速く感じてしまい、名残惜しさゆえか、ついゆっくり叩きすぎてしまったとのこと)、4人はそんな状況さえ楽しんでいて、むしろ仕切り直した演奏はまるで揺らぐことなく、あなたの心に住ませてほしいという想いを入居に例えたこのロマンチックな楽曲をひときわ繊細に体現してみせたのには目をみはってしまった。
4月に行なわれた恵比寿・リキッドルームのワンマンライブにもその萌芽を感じたが、今のウソツキははっきりと強い。一音一音、確信を持って鳴らし、情けなさも弱さもさらけ出せる強さ、生身の感情を音楽に乗せてまっすぐに客席へと届ける堂々としたたくましさが少なくともこの日のステージには漲っていた。こんな自分たちに腹を割って見せてくれているファンのためにも自身も腹を割って話そう、“ウソツキ”だけど腹の底を見せようと、それこそ腹を括って書き上げた『惑星TOKYO』の楽曲がセットリストの軸に据えられているからというのも、その理由かもしれない。各地でしっかり腹を割ってオーディエンスひとり一人と向き合ってきたからこその自信が、彼らの演奏をこれまで以上に活き活きとさせ、また、聴き手の胸にダイレクトに刺さる感動を生み出しているのだと思えた。
なかでも圧巻だったのは中盤の終わりの「本当のこと」。本当はからっぽな自分、カッコ悪い自分を正直に綴ったこの曲に入る直前、竹田はオーディエンスに対峙してこんなふうに語った。
「僕、小学校の頃の夢が“宇宙人になりたい”だったんですよ。この地球上に僕の居場所はないって思ってたのかな。それでも友達が欲しかったし、ひとりぼっちが怖かったから中学高校と少し演技をして生きてきたんですけど、それもヤダなと思って。こうやって音楽を始めて、宇宙人的な感覚で曲を作ったらウチのメンバーが“いいね”って言ってくれて。そして今日、みんなに会うことができました。僕を僕のままでいさせてくれてありがとう」
“宇宙人的な感覚で曲を作った”とはつまり“エイリアンである自分を受け入れた”ということでもあるだろう。そうして曲が認められ、求められていく中で、彼は誰もがひとりだという事実に気づく。それがとても大切なものであることも。けっして群れたいわけではなく、徒党を組みたいわけでもない。ただお互いの“ありのまま”を尊重し、ひとりとひとりとして共に生きていきたい。そんな切実な願いと決意が空間を震わせる。
“嫌いで嫌いな自分を愛せたら/こんな僕でもあなたの為に/なることができるかな”
6灯のランプのみが灯った、ギリギリまで光量を絞ったステージから放たれる渾身の歌声、それを静かに支えるアンサンブルに息を呑まずにいられなかった。
後半戦はシリアスモードから一転、再びアッパーに攻め込む4人。ギターを下ろし、ハンドマイクに持ち替えた竹田がなんとムーンウォークを披露するという荒技まで飛び出した、ウソツキいちディスコティックな「コンプレクスにキスをして」に始まり、藤井と吉田による間奏のソロ合戦にも刮目の「水の中からソラ見てる」では藤井の華麗なボスタッピングが場内の興奮を煽る。大小4つのミラーボールが撒き散らした光の粒がまるで星の海を泳いでいるかの錯覚に浸らせた「時空間旅行代理時計」、もしかするとミラーボールはそれぞれに惑星で、飛び散る光はその惑星に生きる人たちひとり一人の輝きを表わしていたのかもしれない。
「今日は僕の夢がひとつ叶った気がしてます。これが本当のエイリアンの集会じゃないですか? ウソツキの音楽を気に入ってるって大体、変わり者ですから。今日はみんなのエイリアンな部分を見られて本当にうれしかったです」
この日のライブを集約するならアンコールでの、この竹田の言葉に尽きる。以前にも、彼らのライブは“ぼっち参戦”、つまりひとりで訪れる客が多いと聞いたことがあるが、ひとりがひとりのまま集ってこんなにも素晴らしい空間を作り上げることができると今日のウソツキは教えてくれた。そしてオーラスは「人生イージーモード」。“イージー”で“いいぜ”、“頑張らなくていい”と全員で声を重ねて明日の自分にエールを送る最高のエンディングだ。
秋から冬にかけての対バンツアー開催も発表されたこの夜。ますます広がるウソツキの宇宙、その深淵にこの先も目を凝らしていきたい。強く強くそう思った。
【取材・文:本間 夕子】
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リリース情報
惑星TOKYO
2017年04月12日
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT
02.人生イージーモード
03.一生分のラブレター
04.コンプレクスにキスをして
05.どうかremember me
06.地下鉄タイムトラベル
07.ハローヒーロー
08.心入居
09.夢のレシピ
10.夢屋敷
11.本当のこと
セットリスト
ウソツキ 「惑星X」星跨ぎツアー
2017.7.7@渋谷さくらホール
- 01.惑星TOKYO
- 02.金星人に恋をした
- 03.夢のレシピ
- 04.地下鉄タイムトラベル
- 05.一生分のラブレター
- 06.ボーイミーツガール
- 07.旗揚げ運動
- 08.心入居
- 09.恋学者
- 10.本当のこと
- 11.ハッピーエンドは来なくていい
- 12.コンプレクスにキスをして
- 13.水の中からソラ見てる
- 14.時空間旅行代理時計
- 15.過去から届いた光の手紙
- 16.新木場発、銀河鉄道
- 17.転校生はエイリアン
- 18.ハローヒーロー
- 19.人生イージーモード
お知らせ
対バンツアー
10/28(土) 仙台enn 2nd
11/04(土) 名古屋CLUB UPSET
11/10(金) 新潟CLUB RIVERST
11/19(日) 福岡Queblick
11/25(土) 岡山CRAZYMAMA 2nd Room
12/03(日) 梅田Shangri-La
12/21(木) 渋谷CLUB QUATTRO
ツタロック DIG“LIVE!!”Vol.6
07/26(水) 渋谷O-nest
「惑星TOKYO」発売記念インストアイベント
07/29(土) タワーレコードららぽーと立川立飛店 ららぽーと立川立飛2Fイベント広場
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017
08/05(土) 国営ひたち海浜公園
SHOW BY ROCK!!“3969” SUMMER FES. 2017
08/08(火) 大阪BIGCAT
TREASURE05X 2017 ELL 40th ANNIVERSARY SPECIAL-LEGENDARY SOULS-
08/12(土) E.L.L.&ell.FITS ALL&ell.SIZE
UKFC on the Road 2017
08/16(水) 新木場STUDIO COAST
GOOD KURU. #1
08/23(水) 郡山#9
奥田民生になりたいボーイに贈る 狂わせナイト
08/29(火) 恵比寿LIQUIDROOM
SHOW BY ROCK!!“3969” SUMMER FES.
08/31(木) 新木場STUDIO COAST
TOKYO CALLING 2017
09/17(日) 新宿エリア
No Maps ROCK DIVERSITY
10/14(土) 札幌6会場
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。