常に最前線に立ち続けてきたMr.Childrenの25年を示す、3時間を超えるライブをレポート。
Mr.Children | 2017.09.11
「どうもありがとう! すごい幸せ!」と、桜井和寿は叫んでいた。おそらく集まった7万人も同じ気持ちだっただろう。その日、日産スタジアムにあったのは、誠実に時代と向き合い続けてきたバンドが持つ圧倒的な迫力だった。
開演時刻を過ぎると、過去の名曲に乗せてジャケット写真やミュージックビデオをコラージュしたオープニングムービーが流れ始める。そこにホーンセクションやアコーディオンの演奏が少しずつ重なり、客席の興奮が徐々に高まっていくと、鈴木英哉のパワフルなドラミングで1曲目「CENTER OF UNIVERSE」がスタート。中川敬輔のベース、田原健一のギターが重なり、「行くぞ!」と桜井和寿が叫ぶ。
「ぶっ飛ばしていくよ、横浜!」。そう叫んだ桜井は花道からセンターステージに駆け出して歌う。続いては「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」、「名もなき詩」だ。マイクを客席に向けるとオーディエンスの大合唱がそれに応える。「ありがとう!」と絶叫。いきなり全力でクライマックスに突入するような展開だ。
「今日は期待のはるか上を行くライブをやる準備をしてきたんで。出し惜しみなく、あの曲もこの曲もやろうと思います!」
そういうMCの言葉の通り、この日のセットリストはシングル曲、ヒット曲をずらりと並べた内容だ。「この曲だけは今日やらないといけないと思った」と披露した「GIFT」では、マイクを握る桜井と7万人の姿がステージ背後の巨大なLEDヴィジョンに映し出される。スタジアム全体に「♪ラララ」のコーラスが響き渡る。続くバラードの「Sign」にオーディエンスが聴き惚れる。ツアーのタイトルは「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25」。すなわち25周年を迎えた彼らの「感謝祭」としてのステージ。つまりはキャリアを振り返るようなベストセットである。
中盤は「もっとみんなの内側に、みんなの深いところに行こうと思います」と、バンドメンバー全員がセンターステージへ。桜井、田原、中川、鈴木の4人に加え、サポートメンバーにSUNNY(Key・Cho)、山本拓夫(Sax・Flute)、icchie(Trombone・Trumpet)、小春(Accordion/チャラン・ポ・ランタン)を迎えた8人編成。昨年の「Mr.Children Hall Tour 2016 虹」を回った面々だ。そのメンバーでレコーディングした「ヒカリノアトリエ」を披露。小春のアコーディオンのあたたかな音色が印象に残る。
続いて桜井は、この8人に加えて「どんな曲にも対応できる強力なメンバーにサポートいただいています」と沖祥子(Violin)、四家卯大(Cello)、西村浩二(Trumpet)を紹介。11人編成の豪華な生演奏で、デビュー曲の「君がいた夏」を歌う。
「innocent world」「Tomorrow never knows」で7万人がひとつになったような大きな盛り上がりを見せると、続いては「もし僕が作詞作曲した曲が僕と違う人格を持っていたとしたら、その人が是非Mr.Childrenに向けて歌いたいという曲があるので、僕が代わりに歌います」と、弾き語りで「Simple」を披露する。
空が薄暗くなり、後半は「365日」から「HANABI」へ。≪もう一回 もう一回≫というサビのフレーズを7万人が共に歌う。さまざまな形で、さまざまなメロディでMr.Childrenは“希求”の歌を歌ってきた。そうやって時代と向き合ってきた。そういう感慨に包まれる。
「ほとんどシングル曲だけど、次はあんまり知られてない曲を」と「1999年、夏、沖縄」を披露する。フォークのスタイルで語るように歌うこの曲を≪時の流れは早く もう25年が経ったけれど≫≪そして2017年8月6日、日産スタジアム≫と歌詞を変えて歌う。これも、25周年を迎えた今だからこそ歌える曲なのだろう。
「10周年の時も多くの人から“おめでとう”と言われていたんだけれど、その時はまだ若かったし、素直じゃなかったし、“どうせすぐに他のところに消えて行ってしまう”と思っていて。だから“僕らはただ、一日一日を必死に生きてるだけだ”って言っていたんです。でも、こうして25年目になった今、10周年の時はひねくれていて、どこかに行ってしまうと思っていたファンの人たちが、こんなにいる。今もまだ、僕らの音楽に耳を傾けてくれて、コンサートに足を運んでくれる人たちがいることを、本当に嬉しく幸せに思っています。どうもありがとう」
桜井はこんな風に語っていた。そしてこう続けた。
「今は同世代のミュージシャン、友達、近しい人が病気になったり、亡くなってしまったりしていて。だからこそ、なおさらこうやってステージに立っている時間を愛おしく思います。10周年のときとは違った意味で、一日一日、一曲一曲、ワンフレーズワンフレーズを大事に過ごしていきたいと思っています」
きっと嘘偽りのない感慨なのだろう。誰もが認めるモンスターバンドとして最前線に立ち続けてきた彼の25年目の感慨は、とても深く胸を揺さぶった。
後半も、花火が打ち上がりこの日最もアグレッシヴなグルーヴにスタジアムが包まれた「ニシエヒガシエ」や、スケールの大きな新曲「himawari」など、惜しげもなく名曲を披露していく。そして本編ラストは「エソラ」。紙吹雪が舞い上がり、クライマックスが訪れる。
鳴り止まない手拍子に迎えられて再びバンドメンバーがステージに登場し、アンコールは「overture~蘇生」。「聴かせてくれ!」という桜井に応えて、7万人が≪何度でも 何度でも≫と声を合わせる。沢山の手が上がる。すさまじいカタルシスだ。
そして最後は「終わりなき旅」。「今日は僕らの過去を振り返りながら演奏してきたんだけど、最後の最後、この曲だけは過去じゃなくて、ただただ未来だけを見据えてやろうと思います」と桜井は告げ、思いを込めて歌い上げた。最後の一滴まで絞り出すような叫びと大歓声が一つになり、ライヴは終了した。
3時間を超える長丁場のライブ。それはMr.Childrenというバンドが25年、どんな道を歩んできたかを、ありありと示すものだった。もちろん、やってない曲は沢山ある。ヒット曲を網羅しようとしたら何時間あったって足りないだろう。だけれど、シングル曲を中心にしたこの日のセットリストは、なぜMr.Childrenが国民的なバンドとして求められてきたかを如実に示すものだった。そして、力強く色鮮やかな演奏と、胸を射抜くようなハイトーンのシャウトを見せる桜井の声は、それに応え続けてきたバンドのタフネスを象徴していた。
何かを願う気持ちや、希望や、未来を見据える視線。くぐり抜けてきた葛藤や苦悩。そういう沢山の思いを、バンドは形にしてきた。途中のMCで桜井も語っていたけれど、ライブハウスでのアマチュア時代からデビューを経ていきなりアリーナクラスまで一気に人気が拡大した彼ら。そのまま25年も音楽シーンのど真ん中に居続けてきた。背負わされたものも大きかったはずだろう。しかし彼らは、それらの全てに真摯に向き合い続けてきた。
最後に桜井が叫んだ、言葉にならないようなハイトーンのシャウト。その響きには、どこか射抜かれるような響きを持っていた。
【取材・文:柴 那典】
【撮影:薮田修身】
リリース情報
himawari[初回生産限定盤CD + DVD]
2017年07月26日
TOY’S FACTORY
1.himawari
2.メインストリートに行こう(Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ)
3.PIANO MAN(Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ)
4.跳べ( Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ)
5.終わりなき旅(2017.4.23 YOKOHAMA)
6.忙しい僕ら
[DVD]
1.Documentary Of himawari
2.君がいた夏 (25th Anniversary Day - 2017.5.10 NAGOYA -)
セットリスト
Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25
2017.08.06@日産スタジアム
- 01.CENTER OF UNIVERSE
- 02.シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~
- 03.名もなき詩
- 04.GIFT
- 05.Sign
- 06.ヒカリノアトリエ
- 07.君がいた夏
- 08.innocent world
- 09.Tomorrow never knows
- 10.Simple
- 11.思春期の夏~君との恋が今も牧場に~
- 12.365日
- 13.HANABI
- 14.1999年、夏、沖縄
- 15.足音 ~Be Strong
- 16.ランニングハイ
- 17.ニシエヒガシエ
- 18.ポケット カスタネット
- 19.himawari
- 20.掌
- 21.Dance Dance Dance
- 22.fanfare
- 23.エソラ
- EN 01.overture ~ 蘇生
- EN 02.終わりなき旅