椎木知仁、阿部真央、竹原ピストルの3人がドラマを作り上げた宮川企画「マイセルフ、ユアセルフ」ライブレポート
宮川企画 | 2017.10.15
新宿LOFTの41周年企画イベント<宮川企画「マイセルフ、ユアセルフ」>が10月5日(木)に行われた。この日、老舗ライブハウスに対する祝辞をアコースティックライブにて歌とギターの音色に込めて伝えたのは、椎木知仁(My Hair is Bad)、阿部真央、竹原ピストルというなんとも豪華な歌い手たち。淡くて甘い恋心を経験した青春期を超え、子を授かり親となり恋愛のそれとは違う愛を知り、苦難葛藤ありつつも信念ひとつで乗り越えてきた己の人生を悟る――3人それぞれの人生の道が交わって一本となり、まるでひとつのドラマを作り上げたような、芯と心の通った温かくて素晴らしい時間だった。
ソールドアウトにより満員となった会場にトップバッターとして登場したのは、椎木知仁。My Hair is Badのフロントマンとしても活躍している彼は、今回のイベントに招致されたことについて「新宿LOFT、41周年おめでとうございます。竹原ピストル、阿部真央、椎木知仁――2兆回口にしてもピンとこない感じですが、僕もその内のひとりとして一生懸命お祝いしたいと思います」と丁寧に喜びを伝え、養い養われの男女の心情を双方から描いた「ヒモと女」「元ヒモとして」を歌った。椎木の曲を聴くと、<若者の生活と恋>という言葉で連想される輝かしいイメージをそのまま歌うのではなく、ひりひりと心をちりつかせる嫉妬や疑念、大人になることへの焦りや不安、“このままでいたい”と思う反面“このままではだめだ”と危惧している青年の感情の機微を捉えるのが上手いなぁと心底思う。バンドを追いかける女の子の気持ちになりきって作ったという「ハイエースに乗って」や、“明るい曲をやります”と歌われた若者の讃歌「大人になってこそ」でもそんな椎木らしさはたっぷり感じられ、冒頭では大御所に囲まれたことに萎縮こそしていたものの、その唄と意気はしっかりとオーディエンスの心を掴んでいた。さらにこの日は、「普段はMy Hair is Badの曲は弾き語りではやらないんですけど、今日はまだバンドでもライブでやったことのない曲をやってみます」と伝えつつ、11月22日にリリースされるアルバム『mothers』から新曲「いつか結婚しても」を特別に披露。オーディエンスはその貴重な機会にて一音、一言たりとも取りこぼさないようにとシンと聴き入っていた。そしてラストに「今思えばもう戻りたいとは思いませんが、あれがあったから今があるとも思っています」と、マイヘアがメジャーデビューをする前の生活を振り返る原点的楽曲「あの頃のバンド、2つ目のバイト」を丁寧に歌い、温かい拍手の中、彼は丁寧にお辞儀をしてステージを後にした。
2番手の阿部真央は、ステージに登場すると「今日は初めて観て下さる方も多いと思いますので、どメジャーな曲をたくさんやっていきたいと思います。分かりやすいわよー? 今日はー!」とひと笑い起こして、「ふりぃ」をプレイ。彼女の明るく通るMC時の喋り声と、ハスキーでパワフルな歌声のパキッとした切り替わりにはいつもハッとさせられるが、この日はキャパシティ500人程の狭めの場所ということもあり、そのスイッチがいつもよりはっきりと感じられた。そして「特にこういう対バンライブだと過去の栄光に頼りがちになってしまうんだけど……って言っても栄光も大してないんだけど(笑)。新しい曲も知って欲しいなと思うので、今年の2月に出したアルバムに収録されている曲をやろうと思います」と、「逝きそうなヒーローと糠に釘男」、さらにそのまま「デッドライン」と続けると、≪ねぇ、何で私があなたに 時間を割かなきゃいけないの≫という強気な歌詞を乗せた楽曲を、その言葉の強さにも負けない迫力で歌い上げる彼女の声の圧力に押されて、息をすることすら忘れかけた。そんな<ひとりの女>として精魂込めてエネルギッシュに歌い上げた彼女も、「皆さん、昨日お月見やりました? 私は初めてやったんですよ、子どもができてからそういうのを気にするようになって」と“ひとりの母”としての話をする表情は柔らかく穏やかで、続いて“夏の終わりの恋の歌を”と歌われた「貴方の恋人になりたいのです」や、椎木が歌った「ハイエースに乗って」に触発されて急きょ演奏された“相模ナンバーのグランドキャビン”を瑞々しく歌う姿は<ひとりの女の子>そのものだった。表情、声色、仕草、纏う空気全てが曲によって変化していく様に固さは全くなく、まるで季節の移り変わりかのように滑らかだった。それは阿部の曲が自分の気持ちを偽ることなく生み出されたものだからこそ感じることのできる自然さだと思うし、ラストに「あんまりイベントではこの歌やらないんですけど、今日は新宿LOFTさん41周年記念ということで、歴史あるこの場所で歌わせて頂きたいと思います」と演奏された「母の唄」はその集大成のようだった。阿部真央というひとりのアーテイストとして、女性として、母として、そして人間としての深さを感じられるステージだった。
そして当イベントのトリを務めたのは、竹原ピストル。期待の込められた万感の拍手に迎えられてステージに現れると、「お時間の許す限りのんびりとお付き合いください。竹原ピストルと申します」と挨拶をし、「Forever Young」をプレイ。その中で放たれた≪Forever Young あの頃の君にあって Forever Young 今の君にないものなんてないさ≫という言葉や≪薬づけでも生きろ どうせ人間 誰もがなんらかづけで生きているんだ 大差ねぇよ≫と歌った「LIVE IN 和歌山」でビリビリと震えた会場の空気を肌に感じて脳裏に浮かんだ言葉は、“貫録”、まさにこの一言に尽きた。一体どんな生き方をしてきたらあれだけの説得力と威厳を声に込められるのか、“歌声”という言葉から想像できる儚さや繊細さを根っこから覆す“魂の猛り”ともいうべく太くて強靭なその声に圧倒された。そんな迫力のアクトを繰り出す竹原だが、「残りの演奏曲数と残りのタオルの枚数が釣り合ってなくてドキドキしています」と話して会場を和ませたり、リハーサルの時点ではセットリストに組み込まれていなかった「じゅうじか」や「たった二種類の金魚鉢」を、舞台スタッフや主催者の希望を受けてサプライズで披露したりと、その粋の良さから彼の人情深さをひしと感じたし、人間力ともいうべき懐の深さが波動となって会場の空気を掌握していたのが印象的だった。駆け出しの自分を育ててくれたという北海道の恩人たちに贈る「ママさんそう言った ~Hokkaido days~」やハーモニカの響きが哀愁を誘う「Amazing Grace」を経て、ギターの弦の数と歌い人としての人生を重ねた「ドサ回り数え歌」で本編を終えると、熱望されたアンコールでは「あれ歌ってるの、俺だからな! 最前列のお嬢さんの警戒心凄かったけど!」とひと笑い取りながら「よー、そこの若いの」で会場一体となった大合唱を巻き起こした。同曲をテレビCMで聴き馴れているという以上に、「竹原ピストル」というひとりの歌い手に対しての尊敬や感謝の気持ちが満場のシンガロングに込められていた、これ以上ないほど愛と熱意に溢れたラストだった。
【取材・文:峯岸利恵】
【撮影:Kana Tarumi】
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【応募期間】
10月15日(日)正午~10月20日(金)18:00まで
セットリスト
宮川企画「マイセルフ、ユアセルフ」
2017.10.05@新宿LOFT
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■椎木 知仁
- 1.今日はゆっくり寝よう
- 2.ヒモと女
- 3.元ヒモとして
- 4.ハイエースに乗って
- 5.大人になってこそ
- 6.ワンルーム
- 7.だらしない
- 8.いつか結婚しても
- 9.あの頃のバンド、2つ目のバイト ■阿部真央
- 01.ふりぃ
- 02.逝きそうなヒーローと糠に釘男
- 03.デッドライン
- 04.貴方の恋人になりたいのです
- 05.ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~
- 06.相模ナンバーのグランドキャビンに乗って
- 07.I wanna see you
- 08.ロンリー
- 09.母の唄 ■竹原ピストル
- 01.Forever Young
- 02.カモメ
- 03.LIVE IN 和歌山
- 04.虹は待つな 橋をかけろ
- 05.みんな~、やってるか!
- 06.ぼくは限りない ~One for the show~
- 07.じゅうじか
- 08. 俺たちはまた旅に出た
- 09.ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ~!
- 10.マスター、ポーグスかけてくれ
- 11.ママさんそう言った ~Hokkaido days~
- 12.Amazing Grace
- 13.たった二種類の金魚鉢
- 14.ドサ回り数え歌 【ENCORE】
- 15.よー、そこの若いの