ストリングスを従え行った初のホールツアーでSHE’Sが掴んだ新たな選択肢と可能性。
SHE’S | 2017.10.16
たとえば、『WHO IS SHE』(2014年)に収録の「Voice」や『WHERE IS SHE?』(2015年)に収録の「Night Owl」など、インディーズの頃からSHE’Sはその楽曲にストリングスを積極的に取り入れてきたバンドだった。ロックバンドのなかにはメンバー以外が鳴らす音を極力入れずに録音することにこだわる人も多いなか、SHE’Sの場合、その活動の初期から透明感のあるストリングスの音色と自分たちの楽曲の相性の良さを生かしながら、多くの曲を生み出してきたのだ。そのためライブでは同期を使い、“そこにいない楽器の音にバンドが合わせる”というかたちで演奏をし続けてきた。だから今年の4月に赤坂BLITZでSHE’Sが生のストリングスを迎えたホールライブを開催すると発表したとき、「ようやく時期がきた」と思った。大袈裟かもしれないが、そういうライブをする日のために、SHE’Sは走り続けてきたと言っても過言ではないと思うのだ。SHE’Sがストリングスを迎えたライブをやるということは、それぐらい必然的なライブだった。
「SHE’S Hall Tour 2017 with Strings ~after awakening~」と題した初のストリングスツアーは、全国3ヵ所のホール会場で4公演が行われた。東京の初日はSHE’Sの通常のワンマンのキャパシティとしては小さめとなる草月ホール。もちろんチケットは即日ソールドアウトとなり、その幸運なチケットを手にいれた約500人のお客さんは大きな期待を持って会場に詰めかけた。開演時間。メンバーと親交の深いHalo at 四畳半の渡井翔汰(Vo)が影アナを務めるというイキな演出から、まさに華やかなストリングスのイントロが盛大にこの日の訪れを歓迎するような「Over You」からライブは幕を開けた。
井上竜馬(Vo・Key)はアコースティックギターを弾き、服部栞汰(Gt)、広瀬臣吾(Ba)、木村雅人(Dr)が奏でるバンドの演奏とストリングスが絡み合った瞬間、「あ、これが聴きたかった」と心から思った。それは“そこにいない楽器の音にバンドが合わせる”のではない。“その瞬間に鳴らされる音”がバンドと溶け合い、それを奏でる人と人のエネルギーの相互作用によって、より深い感動が生まれていた。ストリングスチームは、第一・第二バイオリンとビオラ、チェロによるカルテット編成だ。ストリングスで刻むリズムがコールドプレイの「Viva La Vida」を彷彿とさせる「Un-science」は、この日、多くのお客さんが生ストリングスで聴きたかった曲のひとつだろう。最初のMCで「どうよ? ホール。初めてのストリングスライブですからね、遠足病になるぐらいです。自由に音楽を感じて帰ってください!」と声を弾ませる井上の言葉からも、この日を迎えた喜びがひしひしと伝わってきた。
瑞々しいピアノのフレーズに木村が叩き出す軽やかなスネアが弾んだ「Someone New」や、朗らかな春の陽気を思わせるミドルナンバー「In the Middle」といった曲では、カルテットは一旦ステージから捌けて、メンバーのみの演奏で届けた。意外だったのは、原曲ではバンドの音だけで完結するダークなロックナンバーにストリングスのアレンジを施した「Isolation」だった。服部が一歩前に歩み出て繰り出すハードロック寄りギターのフレーズがスリリングな弦アンサンブルを従えるようなシーンは、あくまでロックバンドのままにストリングスと対峙しようするSHE’Sの気概も感じられて、最高にかっこいい瞬間だった。
中盤、井上はエレクトリックピアノをポロポロと弾きながら語りかけた。「大切な人がいなくなってしまってから、ただ泣くんじゃなくて、“これからどうしようか”っていう話をしたのをすごく覚えてる。もう5年前か。その人はすごく愛情が深かったから……生きている俺たちがこの愛情を渡していかないといけないと思った。その発見が嬉しくて、愛おしくて書いた曲を」と紹介してから、ストリングスと共に届けたのは「Long Goodbye」だった。
SHE’Sはその根本に喪失が大きなテーマとしてあるバンドだ。インディーズ時代の三部作(『WHO IS SHE?』『WHERE IS SHE?』『She’ll be fine』)もそうだったし、メジャーデビュー後にリリースされたフルアルバム『プルーストの花束』は大切なものを失った過去に決着をつける作品でもある。そんなSHE’Sが描く喪失の混乱や虚無感を強く浮彫りにしたのが、続けて披露された「Ghost」だった。亡霊のように悲しみのなかを彷徨う旋律と、その悲しみを増幅させるように寄り添うストリングス。何ひとつ救いのない暗闇の楽曲だったが、そこにSHE’Sが光を求める理由がある気がした。どんな作品でも、SHE’Sは必ず最後に光のあるほうへと進んでゆこうとする。この日のライブも後半にかけては、「Freedom」や「遠くまで」という楽曲で私たちを光の見える場所へと運んでくれた。暗闇の恐ろしさと孤独を知るからこそ、SHE’Sはその場所から光の美しさを歌い続けるバンドなのだ。
ラスト1曲を残して、「“終わりたくねー”っていうことを、毎回言ってる気がするな(笑)」という井上に、「毎回言ってたら、信憑性がなくなるで」と、ボソリとつぶやく広瀬。ひとたび音を鳴らせば圧倒的な世界を持つSHE’Sだが、MCの緩いやりとりに会場が和む。「まあ、でも感受性が豊かなのは知ってるから、心に思ってることを言ったらいいよ」と広瀬が促して、井上が改めて「終わりたくなーい!」と言うと、ラストソングへ。最後にステージに星空のような電飾の光が輝くなかで「aru hikari」を届けた。光とは日常で見落としがちな些細なものじゃないか、という想いで生まれた優しいバラードソングは、“いつか全てが終わるとわかっているから 終わらせる事もないでしょう”と歌われる。つまり、“死ぬな”ということだ。それは、最後にSHE’Sが私たちに託した揺るぎないメッセージだった。
アンコールでは12月6日にニューアルバム『Wandering』をリリースすることを発表すると、そのなかに収録される新曲「The World Lost You」がいち早く披露された。SHE’Sらしい曲を透明感のあるバラードと、エモーショナルなロックナンバーに分けるとしたら、後者に当てはまる曲だった。そして最後の1曲は彼らのライブには欠かすことのできない「Curtain Call」だった。「この曲に関しては言うことはないです。魂を込めて歌います」とだけ言うと、客席を明るく照らし出し、優しいシンガロングが会場に響き渡った。そして、井上がマイクを通さずにウォーウォーと歌い上げたその声は、2階席までしっかりと届いていた。
大阪のライブハウスで育ってきたSHE’Sにとって、ホール会場のライブもストリングスを招いたことも初めての経験だった。ふたつの意味の“初めて”は、SHE’Sにとてもよく似合っていた。今回のツアーをとおして、彼らが掴んだ新たな選択肢と可能性は、きっとこの先バンドが鳴らす音楽にも大きな影響を与えることになるだろう。
【取材・文:秦 理絵】
【撮影:Atsushi Ito】
リリース情報
Wandering
2017年12月06日
ユニバーサルミュージック
2. Blinking Lights
3. Flare
4. Getting Mad
5. Remember Me
6. White
7. Beautiful Day
8. C.K.C.S.
9. Over You
10. The World Lost You
11. Home
セットリスト
SHE’S Hall Tour 2017 with Strings
〜after awakening〜
2017.9.29@東京・草月ホール
- 1.Over You
- 2.Un-sciense
- 3.Someone New
- 4.Beautiful Day
- 5.In the Middle
- 6.グッド・ウェディング
- 7.Isolation
- 8.信じた光
- 9.Night Owl
- 10.Don’t Let Me Down
- 11.Long Goodbye
- 12.Ghost
- 13.Voice
- 14.Freedom
- 15.遠くまで
- 16.aru hikari 【ENCORE】
- En1.The World Lost You
- En2.Curtain Call
お知らせ
SHE’S Tour 2018 〜Wandering〜
2018/02/07(水) 松本ALECX
2018/02/09(金) 神奈川F.A.D YOKOHAMA
2018/02/11(日) 栃木 HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
2018/02/14(水) 滋賀U☆STONE
2018/02/15(木) 神戸VARIT.
2018/02/17(土) 三重 松阪M’AXA
2018/02/19(月) 京都MUSE
2018/02/21(水) 浜松 窓枠
2018/02/24(土) 盛岡CLUB CHANGE WAVE
2018/02/25(日) 郡山HIP SHOT JAPAN
2018/03/02(金) 福岡 DRUM LOGOS
2018/03/03(土) 広島 クラブクアトロ
2018/03/09(金) 岡山 YEBISU YA PRO
2018/03/11(日) 大阪 なんばHatch
2018/03/17(土) 金沢 AZ
2018/03/18(日) 新潟 NEXS
2018/03/21(水) 札幌 ペニーレーン24
2018/03/23(金) 仙台 darwin
2018/03/31(土) 名古屋 ダイアモンドホール
2018/04/01(日) 東京 EX THEATER ROPPONGI
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。