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ぼくのりりっくのぼうよみ 日比谷野外大音楽堂で見せた、新たなる決意表明

ぼくのりりっくのぼうよみ | 2017.10.30

 知ろうとすればするほど、触れようとすればするほど、逃げ水みたいにフイッと身をかわされる。生み出す音楽、1曲1曲の輪郭はとても際立っていて、それぞれに確立された色を纏っているのに、そのとりどりに惑わされるかのように彼の全体像を捉えることは容易でない。きっぱりとしていて、けれどどこか煙に巻かれるような、ぼくのりりっくのぼうよみにはずっとそうしたイメージを抱いてきた。まだ10代という若さ(加えて筆者との年齢差)も、インターネットが出自だという現代性も、音楽のみならず小説を執筆したり自身のメディアを創設したりとマルチに展開される活動も、多少のフィルターとはなっているかもしれないが、おそらく主因はそれらではない。切実にして率直な感性と、達観あるいは諦念と。ぼくりりの作品には常に主観と客観の両方が内在しているように思える。両者はきっぱりと明確で、けれどけっして対立はしておらず、むしろ一部は絶妙に融け合っているから面白い。ある意味、もっとも掴みどころがなく、ゆえにこそ人を魅了してやまない。アーティストらしいエゴティズムと旺盛なるサービス精神とを混在させて独特の熱狂を生み出したこの日のステージにそんなことを思った。

 前日まで続いていた肌寒い天候はここにきて一変、季節が少し戻ったかのような気持ちのよい秋晴れの空だ。暑すぎず、寒すぎず、ピーカン過ぎもしない今日は絶好の野外ライヴ日和となった10月8日、東京・日比谷野外大音楽堂。“ぼくのりりっくのぼうよみ 遺失物取扱所”と冠されたライヴタイトルを体現するように、古びたソファやブラウン管テレビ、木のラックにランプに複数のゴミ袋などがステージ上のあちこちに無造作に配されてすでに世界観を作り上げている。中には折れた神殿の柱までが転がっているが、これは聖書をモチーフにしたコンセプチュアルな2ndアルバム『Noah’s Ark』、また、それに伴ってこの春に開催された全国ツアーのオマージュだったりもするのだろうか。ガラクタに混じって“Lost and Found”と書かれたこのワンマンライヴのテーマとおぼしき看板も。

 ステージセットの細やかな演出に場内の期待がいっそう高まるなか、先んじてバンドメンバーが登場。脇山広介(Dr.)のカウントから1曲目「after that」が軽快にスタート、背後のスクリーンに“Lost & Found”とピンクの文字が浮かび上がる。たちまち起こったハンドクラップに誘われるようにして、はにかんだ笑顔のぼくりりが姿を現わしたときの歓声の大きさといったらない。日比谷のビルの窓ガラスが一斉に震えるのではないかと思うほどだ。明るいサウンドに乗って放たれる滑らかな歌声、ラップパートで朗々と紡がれるリリック、“歪なぼくらは歪なままで進んでいこう”“簡単に生きて簡単に死のうよ”“そして楽しんで悲しめばいい/最後にそれだけが残る”ーーそんな希望と絶望とを綯い交ぜにしてなお前向きな言葉にのっけから貫かれてしまう。

「“遺失物取扱所”にようこそ。ここにはいろんなものが捨てられています。例えば時を経ていらなくなったものや壊れてしまったもの、あと、知らない間に忘れて失くしてここにたどり着いたもの……僕は最近、自分の音楽の価値とか意味みたいなものがわからなくなることがあって。なのでそれを振り返って全部回収していこうかな、と。そういうライヴになればいいなと思います」
 
 「sub/objective」「CITI」「collapse」と1stアルバム『hollow world』からの楽曲を立て続けに披露し、オーディエンスの心に深く揺さぶりをかけたあと、ぼくりりは今回のステージに込めたコンセプトをそう解説した。観る者、聴く者へ投げっ放しにしない律儀さもまた彼らしさだろう。あっという間に終わった夏を思い出そうと歌い上げた真心ブラザーズのカバー「サマーヌード」を挟んで中盤戦になだれ込むその前に、これから披露する楽曲たちの曲順も含めた意図を丁寧に説明する姿勢にもそれは見て取れる。今からやろうとしていることは彼曰く、「前回のツアーでは届けられなかった遺失物」。すなわち前回のツアーでは『Noah’s Ark』を収録曲順のままに再現し、各会場にその世界観を構築したが、今回は『Noah’s Ark』から5曲をピックアップして並べ替えることでまた別の、いわばサブストーリーを紡ぎ上げようという試みだ。彼の口から語られたその物語とは「shadow」で生まれた人間が「在り処」で居場所や生きる意味を見失うも「Be Noble(re-build)」でそれでも頑張る決意をする。だが決意はするものの「liar」で人を信じられなくなり、最後に「Noah’s Ark」で裁かれて終わるというなんとも悲劇に満ちたもの。実際、この5曲がぶっ続けで演奏される間、特に後半などはほとんど身じろぎもできなかった。

 色気を含んだ音像がたしかに“生”を連想させた「shadow」、行き場のないやるせなさが赤裸々に渦巻く「在り処」。「Be Noble(re-build)」のもがきながらも前進する力強さが「liar」で急転直下する、そのダイナミックなうねりになす術もなく呑み込まれては、息をするのも忘れてしまう。折々に神殿の柱をモチーフにした映像が使われるのも象徴的だ。圧巻はやはり「Noah’s Ark」。壮大にしてドラマティックなアンサンブルと、ぼくりりの内側から滔々と溢れてとめどない迫力の歌声。客席を見渡せばオーディエンスもほぼ棒立ちで、ステージの鬼気迫るパフォーマンスにただひたすらに食い入っている。ここまで野外ライヴ然としない光景もそうないだろう。まるで救いなく展開される怒涛のストーリーに、しかし彼が込めたかったのは、恐れず進め、やらずに諦めるな、ひいては“生きろ”という逆説的なメッセージではなかっただろうか。迫力に気圧されながらもぼくりりの意気に煽られ、客席もまた静かに昂揚の炎をたぎらせているのがその証明に思える。

 ぼくりり、メンバーがステージを去り、“どうぞチルアウトください。遺失物取扱所”と巨大な字幕がスクリーンに繰り返し流れた数分のインターバルののちライヴは再開、どこまでも突き抜けて爽快な最新シングル曲「SKY’s the limit」がオーディエンスをパーティーモードに誘い、前半戦までの重厚なムードをあっさりと刷新した。「新しいものを何個か作ってきまして。エッチな感じの新曲その1」と初披露された新曲「playin’」はグッとアーバンでスリリング。腰を揺らせるグルーブも、歌詞から抜粋され映像に効果的に散りばめられた“弾ける果実”“掠れた声”“欺瞞 Friday the Night”といった単語もまさしく“エッチ”だ。ボルテージの針が一気に振り切れつつある場内に続けざまにぼくりりはアニメ『マクロスF』の挿入歌でありヒロイン・ランカ・リー(中島愛)のカバー「星間飛行」を投下。オリジナルとは大胆に変えたアレンジで、しっとりと豊潤な歌声を響かせてオーディエンスをうっとりとさせる(曲中のキラーフレーズ“キラッ!”をちゃっかりとキメるそのギャップの、なんとあざとく可愛らしいことか)。さらにこれまた新曲の「たのしいせいかつ」に間奏中のメンバー紹介でそれぞれが魅せた妙技にも会場一体となって盛り上がった「孤立恐怖症」にと後半戦も一気。

「最初はひとり、インターネットで作ってたけど、今はメンバーやたくさんのスタッフが力になってくれて、何よりみんながいてくれて、こうやって音楽ができてるんだなって月並みですがやっと最近わかってきました。これからみんなを引っ張っていく上で、自分の音楽に自分がいちばん誇りを持っていると再確認して、新たな一歩を踏みだしていく所存。よろしくお願いします!」

 そう誓って、本編ラストは「Sunrise(re-build)」が飾った。客席いっぱいに広がるクラップがやさしく温かく、ぼくりりから迸る一言一句にも多幸感が宿る。これは新たな夜明けを迎えんとする彼の決意表明なのかもしれない。その後、前回のツアーではアンコールなしという冷たいことをしてしまったので、今、アンコールをもらえてうれしいと再々度、登場したぼくりりは“インターネット先輩”である電波少女のハシシを招いて、電波少女の最新アルバム『HEALTH』収録の「クビノワ」(ぼくりり、ササノマリイが参加)を共演。ハシシを送り出してのオーラスではまた新曲、しかも“エッチな感じの新曲その2”となる「罠」をプレゼントしてオーディエンスを狂喜させた。最後までぼくりりらしい大団円だ。

 ちなみにこの日はニューアルバムのリリースが決定したことも彼自身から告知された。前作からわずか10ヵ月ぶりとなる11月22日リリースの3rdアルバム、そのタイトルも『Fruits Decaying』。この日披露された新曲3曲も収録される(「たのしいせいかつ」「罠」にはSOIL&“PIMP”SESSIONSが参加。アルバム1曲目となる「罠 featuring SOIL&”PIMP”SESSIONS」は現在先行配信中)。また、10月15日の大阪公演では“ぼくのりりっくのぼうよみ TOUR 2018”も発表と、ぼくりりの勢いは依然、衰えを知らない。来年2月には20歳を迎える彼はこの先、何を見せてくれるのか。掴みどころのないままなのか、そうではなくなるのか。いずれにしても期待しかない。

【取材・文:本間夕子】
【撮影:平田 浩基】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル ぼくのりりっくのぼうよみ

リリース情報

Fruits Decaying

Fruits Decaying

2017年11月22日

ビクターエンタテインメント

01. 罠 featuring SOIL&"PIMP"SESSIONS
02. 朝焼けと熱帯魚
03. Butterfly came to an end
04. For the Babel
05. SKY’s the limit
06. playin’
07. つきとさなぎ
08. たのしいせいかつfeaturing SOIL&"PIMP"SESSIONS

セットリスト

遺失物取扱所
2017.10.08@日比谷野外大音楽堂

  1. 01. after that
  2. 02. sub/objective
  3. 03. CITI
  4. 04. collapse
  5. 05. サマーヌード
  6. 06. shadow
  7. 07. 在り処
  8. 08. Be Noble (re-build)
  9. 09. liar
  10. 10. Noah’s Ark
  11. 11. SKY’s the limit
  12. 12. playin’
  13. 13. 星間飛行
  14. 14. つきとさなぎ
  15. 15. たのしいせいかつ
  16. 16. Water boarding
  17. 17. 孤立恐怖症
  18. 18. Sunrise (re-build)
  19. ENCORE
  20. EN 01.クビナワ
  21. EN 02.罠

お知らせ

■ライブ情報

TOUR2018
2018/02/04(日) Yokohama Bay Hall
2018/02/10(土) 札幌 PENNY LANE24
2018/02/12(祝月) 仙台 Rensa
2018/02/17(土) 名古屋 DIAMOND HALL
2018/02/18(日) なんばHatch
2018/02/21(水) HIROSHIMA CLUB QUATTRO
2018/02/24(土) 福岡 DRUM LOGOS
2018/02/25(日) 高松 オリーブホール
2018/03/15(木) EX THEATER ROPPONGI

学習院大学 桜凛祭 GAKUSHUIN SPECIAL LIVE
2017/11/04(土) 学習院大学 百周年記念講堂

大阪経済大学学園祭「第69回 大樟祭 OKUSU LIVE」
2017/11/05(日) 大阪経済大学 A館フレアホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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