10月7日Zepp Osaka Bayside公演からスタートし、残りは下北沢SHELTER公演のみ。佳境を迎えた『ウルトラホームランツアー』の会場はZepp Tokyo。フロアを埋め尽くした観客の熱気が、開演前から濃厚に渦巻いていた。そして、スタートを告げるSEが流れ、椎木知仁（Gt・Vo）、山本大樹（Ba・Cho）、山田淳（Dr）が登場。互いに固く握手を交わし合った後、3人が最初に届けてくれたのは「アフターアワー」だった。まるで燃え上がるかのように激しく身体を震わせ、サウンドを放つメンバーたちの姿がゾクゾクするほど生々しい。観客はその気迫に応え、勢いよく腕を振り上げながら興奮を露わにしていた。続いて、「グッバイ・マイマリー」「革命はいつも」「マイハッピーウェディング」も披露され、会場内の気温は急上昇。切れ味抜群な楽器のサウンド、情景と揺れる心理を豊かに描写しつつもエモーショナル極まりない歌声が響き渡り、会場全体が完全にMy Hair is Badの世界となっていた。

「今日でZeppのシリーズは最後で、シェルターが残っているだけです。自分たちの全部、ロックバンドの全部をしっかりやって帰ります。よろしくお願いします！」。椎木のMCを挟み、さらに様々な曲が披露されていったが、片時も目を離したくない場面の連続だった。「東京の歌です」という言葉と共にスタートさせて、瑞々しいメロディを奏でた「真赤」。激しい手拍子を誘っていた「接吻とフレンド」。爆音が狂おしく轟いていた「運命」……全身に汗を滲ませて盛り上がりながらも、各曲をじっくり噛み締めている観客の姿が印象的だった。

　椎木による即興の弾き語りを経て、「悪い癖」と「彼氏として」も届けられた後に迎えたインターバル。「今日も男の人が多い！」と言い、嬉しそうな表情を浮かべた椎木は、「昔からいてくれたんですけど、最近男の人が増えた。共感してくれてます？」と問いかけ、《♪想ってるよ見てるよ　ずっと見てるよ》と「元彼氏として」の歌詞を引用して歌った。すると、男性の観客の間から上がった野太い歓声。「素直な気持ちを歌詞に書いててよかった。みんなそう思ってるんですか？　そう思ってる男がこれだけ集まってるって……めっちゃ気持ち悪いですね（笑）」。ウィットに富んだMCが女性の観客も大爆笑させていた。

　後半戦は「告白」からスタート。「クリサンセマム」と「元彼氏として」も披露され、観客の興奮＆共感は、ますます止まらない。繰り返される《めんどくさい》というフレーズが大合唱を誘った「mendo_931」。飛び跳ねる観客のエネルギーによってフロアが熱く震えていた「ディアウェンディ」。スリリングな演奏が冴え渡っていた「ワーカーインザダークネス」……ワクワクさせられる場面が続いた。そして、「今日はフェスではないし、対バンでもないし、ワンマンライブです。みんながここにいてくれるのは、My Hair is Badを観に来たからでしょ？　どうもありがとうございます！　俺ら全員がMy Hair is Badでつながってます。土曜日、恋人と観覧車にも乗らずに、こうやってライブハウスに来て、My Hair is Badでつながってる。今日が運命でも、偶然でも、必然でも、奇跡でも、何だっていいよ。今日ここで会えたことを、この状況になってることを俺は絶対に裏切らないから」と言葉を溢れ返らせ、ギターを奏でながら胸の内を吐露していた椎木。その言葉の1つ1つは、迷ったり悩んだりもしながら歩み続け、音楽活動を積み重ねてきた日々に対する様々な感情がこめられているのを感じた。「たしかにここはZeppだな。いつの間にここまで来たんだろう？　俺らが歩いてきたのかな？　誰かに連れてきてもらったのかな？　わかんないけど、たしかにここまで来たんだ。でも、ここを目指してきたわけではなくて、俺らはかっこいいロックバンドでい続けたかった！」という言葉と共に雪崩れ込んだ「フロムナウオン」は、My Hair is Badの抱えている意志がそのまま音と化しているかのような雄々しい演奏だった。

　観客が夢中になって耳を傾けていた「幻」。エモーショナルな演奏が抜群に際立っていた「戦争を知らない大人たち」。「昔を振り返ったり、昔のものを引っ張り出したり、昔の友だちと会ったり。悪くないことだなと思います。また秋になったので、昔の曲をやります」と言ってから披露した「ふたり」……多彩なサウンドが、会場内を美しく彩っていた。「ちょっとずつ人として素直になってきた気がします。ちょっとずつ前に進んでる感覚です。ワンマンライブをやれるようになって、観てもらえて嬉しいし、期待に負けたくないし、裏切りたくないし、裏切りたいしという気持ちでずっとやってます。これからもそうやっていけたら本望です。自分が納得できるものでみんなにわかってもらえたら最高だと思います。でも、まずは自分たちがいいと思うものを作り続けたい。これからもよろしくお願いします！」。椎木の力強いMCを受け止めた観客は、一斉に拍手。そして、新曲「いつか結婚しても」と「音楽家になりたくて」が披露されて本編は締めくくられた。

　アンコールを求める歓声に応えてステージに戻ってきた椎木、山本、山田。「次のツアーも、ツアーの前のライブもしっかりやるので、よろしくお願いしますね。“アンコールもしっかりやって帰ります！”っていう性質じゃないんで、アンコールはサービス残業みたいなものなので（笑）。気楽な気持ちで楽しんで帰ってください！」。椎木のMCが観客を和ませた後、まず届けられたのは「ドラマみたいだ」。そして、観客の大合唱を起こした「優しさの行方」の演奏を終えると、メンバーたちはステージを後にした。

　アナウンスが流れ、スタッフが機材の片づけを始めたので、誰もが終演を迎えたと思っていただろうが……なんと予想外の続きが待っていた！　大半の観客が会場の外へ出たタイミングで3人は再登場。意表を突きまくる形で行われたダブルアンコールは、今回のツアーを通じて彼らが手にした確かな自信の表れだったのかもしれない。今後のMy Hair is Badも、刺激的な活動を繰り広げてくれそうだ。

【取材・文：田中 大】
【撮影：藤川正典】