尾崎裕哉、初のホールツアー『SEIZE THE DAY TOUR 2017』東京公演をレポート
尾崎裕哉 | 2017.11.14
白光のライトの中、シルエットが叫ぶ。喝采でレスポンスするオーディエンス。実際に逢った時よりも、大きく見える彼のシルエット。ステージ映えする長い肢体でリズムを取りながら、尾崎裕哉は歌い出した。
尾崎裕哉、初のホールツアー『SEIZE THE DAY TOUR 2017』。
11月3日。国際フォーラム ホールCでのライブは、スケール感あるミディアムアップチューン「27」で幕を上げた。
ロングトーンが、会場全体に伸びていく。鮮やかにクレッシェンドする安定した中高音は、歌い手・尾崎裕哉の大きな魅力のひとつだが、その魅力をど頭からズバーンと観客にぶち当てて来た。ドラム、ベース、ギター、キーボードといった、スタンダードなロックバンドの構成。どっしりしたサウンドが、ボーカルを後押しする。「東京!」と笑顔で叫んだ尾崎は、間奏で、観客と一緒に拳を振り上げた。
ステージ後方。左側には中世を思わせるような額縁。その額縁からはみ出すように、大きな赤い布が翻っている。最初、ジャンヌダルクを映し出していた額と大きな赤い布は、そのまま横広の大きなスクリーンになった。真っ赤に染まったステージの中で「Road」。戦火とその混沌を思わせる映像が、バック一面に広がった。
「よう、東京、元気かい?『SEIZE THE DAY TOUR 2017』後半戦、東京公演にようこそ」と挨拶した後「シアワセカイ」へ。続く「つかめるまで」のイントロではギターで、スティーリー・ダンかブライアン・イーノかよ!……とつっこみたくなるような、アンビエントなアプローチを見せ、ギター小僧の片鱗を見せた。ワンコードが続く、ちょっと変わったミディアムチューンのこの曲で、尾崎はたおやかな低音、得意の中高音、ファルセット、ラップとポエトリーリーディングの中間のようなアプローチ……と、ヴォ―カリスとしてのスキルを次々と披露。曲の流れを変えずどんどん表情を添えていく手腕に、尾崎裕哉というアーティストの潜在能力の高さを感じた。じわじわくる尾崎裕哉の魅力。彼のバックボーンなど、どこかにふっとんでしまうくらいのパフォーマンスだったと思う。
「楽しんでますか」とMC。初のホールツアー4公演の中で、この日の東京公演が最初にソールドアウトしたことを告げ「僕にとっても特別な場所です」と感謝を述べた。そしてこう続けた。「君がいたら、愛とか恋なんてどうでもよくなってしまった」
この言葉を受け「愛か恋なんて(どうでもいいや)」へ。歌詞もキュートなポップナンバー。ハンドマイクで前に出てくる尾崎。リズムに合わせステップをふむアクション。サビでは、尾崎に合わせて、会場中がスルーハンズした。ポップなソウルナンバーにアレンジし、観衆の拍手の中で歌った「僕が僕であるために」。ピアノの調べがロマンチックなバラード「Moonlight」では、水面の上の空に浮かぶ、月の絵が映し出された。前述したように左半分は絵画、そして右半分は大きな布になっているスクリーン。水面の細かな波が描かれている布の部分。それが風に揺れ、本当に水面を観ているようだった。ひとつのアイデアをしっかり自分の曲にとりこんだ、素晴らしい演出になっていた。
再びMC。会場から「裕哉!」と声がかかると「なんだ!」と返して観客を笑わせる。どこから来たの? という尾崎のふりに、様々な場所を叫ぶ観客。関東やその近郊はもちろん、日本のあちこちの地名が聞こえてくる。「ありがとう」とお礼を言った後、客席を真っ直ぐ見つめ、尾崎はこう締め括った。
「つねに今を生きて重ねていく中で、よりよい明日、よりよい未来を迎える。それが自分のメッセージです。この“サムデイ・スマイル”という曲もそうです」
ハンドマイクで語り掛けるように歌う尾崎。会場からは自然に大きな拍手が起こった。尾崎が、右手を耳元に持ってきて、客の声を聞くようなジェスチャー。これに応え、歌い出す観客。その様子が嬉しかったのか、途中、歌詞が飛んでしまうハプニングも。「がんばれー」と言いながら、尾崎が飲み込んでしまった歌詞を観客が歌い続ける様子に、尾崎とファンの関係性を垣間見る。微笑ましいと言ってしまうのは、尾崎にも観客の皆さんにも、失礼にあたるだろうか。楽曲を通した尾崎と観客のやりとりを見ながら、気持ちがほぐれ、このライブの空間を共有できたことを幸せだと思ったのが正直な気持ちである。
「いやぁ、地味に傷ついてます(笑)」と、苦笑を見せ会場を笑わせた尾崎。大切だと言った曲のパフォーマンスの結果に、いろいろ思うところがあったのだろう。照れ隠しというより、その反省がダダ漏れになり思わず出た言葉だったのではなかろうか。
弾き語りコーナーでは「雨宿り」(さだまさしのカバー)や「街を歩いていてボブディランが俺をのっとって出来た曲」(なんて強気な発言だ!)という新曲「流れる風のように」を披露。そして、最後は「シェリー」。アコースティックからバンドアレンジへと、この曲が持っている切実さとダイナミズムをサウンドの変遷で表してみせた。
ライブは後半へ向かう。先日、ニューシングル「Glory Days」のインタビューをした際、尾崎は「観客を巻き込んで楽しんでいきたい」という発言をしていたが、それを様々な形で実践したのが今回のライブだったと思う。観客と一緒に歌うことはもちろん、スマホのライト機能を使って(アイフォンの人は下からスワイプ、アンドロイドの人は上からスワイプ……と、ライト機能の使い方を説明し始めた時には笑いました!)客席全体にペンライトのような光を灯したり、本編最後を飾った「Glory Days」では、オーディエンスと一緒にマフラータオルを振り回し、ジャンプした。
そして、この日のハイライトは、この「Glory Days」の時に起こった。ステージ上でジャンプしていた尾崎が、客席に降りて来たのである。ワッと大歓声が起こる。尾崎が歩を進めるのに合わせ、観客もウェイブするように手を挙げていく。グルリと1階席を回った後、1階最前列の扉から消えた尾崎。演奏は続く。観客の興奮はマックス。笑顔がはじけ、拍手も大きくなる。ステージに向かってタオルを掲げている男性も見える。すぐ傍で大歓声が響いた。2階席。ステージ向かって右側前方に、尾崎裕哉が姿を現したのである。肢体をギリギリまで伸ばし、少しでも遠くの観客にも見えるように大きくアクションする尾崎。そういえば、彼のお父さんもライブ中にいろいろな伝説を作っていたよな、野外ライブで高く積まれたスピーカーから飛び降りて骨折したりしてたよな、2階席から飛び降りたりするなよなんて、チラリと老婆心。でも、このサプライズに、それだけ私の心も解放されていたのだと、こうやって原稿をまとめていて改めて思った。
ステージに戻った尾崎。「Glory Days」はエンディングへ向かう。床にひざまずき、力を振り絞るように咆哮する。ステージ上、ドラム台の前にずっと掲げられていた旗を持つ。大きな赤い布には黒字で“SEIZE THE DAY”と書かれていた。その旗を背中に背負いながら「ありがとうございました」と、尾崎裕哉はステージを後にした。
名前を叫ぶアンコール。声援に応えて再び登場した尾崎裕哉は、「父親の曲ですけど」と「街の風景」を歌った。
「幼い頃、父親を亡くして。でも2人っきりじゃなかったって思える思い出がたくさんあります。育ててくれた、関わってくれた、大切な人たちに感謝の気持ちを送ります」
歌われたのは「始まりの街」。尾崎豊氏の「街の風景」は、夢の亡骸が舞う街の風景の中に、未来と希望を見出そうとしていた。街の中に、自分のルーツを見つけ慈しむ尾崎裕哉の「始まりの街」。前者が後者のアンサーソングのようでもあるが、そう言い切ってしまうには、無理があるように思う。ふたつの歌が、街が浮き上がらせた、人間の人生そのものだと思ったからだ。
人生は開拓され、交差し、敷かれ、自分で作り、行き止まり、選び、別れ、そしてまた集まる。まるで街の中をめぐる道のようだと思う。
「始まりの街」の中にも、無数の道が見えてくる。
その道の途中で、何かがきっかけで立ち止まった時。あなたに、尾崎裕哉の歌はどう響くだろうか。
20時15分。バンドメンバーと手をつなぎ、万歳をする尾崎裕哉。観衆の拍手が彼の笑顔をさらにくしゃくしゃにしていた。
【取材・文:伊藤亜希】
【撮影:Kenji.87】
リリース情報
セットリスト
SEIZE THE DAY TOUR 2017
2017.11.03@国際フォーラム ホールC
- 01.27
- 02.Road
- 03.シアワセカイ
- 04.つかめるまで
- 05.Smile
- 06.愛か恋なんて(どうでもいいや)
- 07.音楽が終わる頃
- 08.僕が僕であるために
- 09.Moonlight
- 10.サムデイ・スマイル
- 11.雨宿り(カバー)
- 12.流れる風のように
- 13.シェリー
- 14.Stay by my Side
- 15.君と見た通り雨
- 16.With You
- 17.The Anthem
- 18.Glory Days 【ENCORE】
- EN 01.街の風景
- EN 02.始まりの街
お知らせ
弾き語りツアー『One Man Stand』
12/02(土) BLUE LIVE広島
12/07(木) 梅田シャングリラ
12/09(土) 新潟ジョイア・ミーア
12/10(日) Sendai CLUB JUNK BOX
12/22(金) 東京ReNY
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。