パスピエの3rdミニ・アルバム『OTONARIさん』リリースツアー・初日公演
パスピエ | 2017.11.24
パスピエの3rdミニ・アルバム『OTONARさん』のリリースツアー『OTONARIさんのONOMIMONO』の東京公演が、11月10日/11日の2日間に渡り、東京キネマ倶楽部にて行われた。ミニ・アルバム形態でのリリースは2012年の『ONOMIMONO』以来となり、今回のツアータイトルもその2枚になぞらえていることから、セットリストも2作品の楽曲を中心に構成されていた。5年前のパスピエと現在のパスピエでは大きく変わったこともあるが、その変化を4人が前向きに捉えていることがしっかりと伝わってきたポジティブなライブだった。なお当記事では、10日に行われたツアー初日のライブをレポートする。
午後7時。オペラハウスの雰囲気漂う洒落た造りのステージに、成田ハネダ(Key) 、三澤勝洸(G)、露崎義邦(Ba)が登場すると、オーディエンスは大きな拍手で彼らを迎えた。SEが会場の期待を煽るなか、赤い衣装を身に纏った大胡田なつき(Vo)がステージ前方のサブステージから華麗に登場すると、会場は螺旋階段を下りる彼女に改めて拍手を送った。大胡田がメインステージにインしメンバーと呼吸を合わせ、「デモクラシークレット」でいよいよ幕が上がった。小気味よいリズムに合わせ、ふつふつと高まっていたオーディエンスの期待がはちきれたような豊かなハンドウェーブが会場を満たし、そのまま「脳内戦争」へ。三澤がステージ前方に乗り出し積極的に観客を盛り上げると、その勢いに乗って続けて「チャイナタウン」をプレイ! 大歓声とハンズアップが沸き起こると、その盛り上がりを目の前にした大胡田も「いいね~」と笑みをこぼしていた。
この日唯一設けられたMCでは、大胡田が「ツアーっていう形でワンマンをするのは久し振りで。パスピエはキネマ倶楽部で初めてライブするんだけど、すごい素敵な場所でね。こうして今日一緒にライブできることがとっても嬉しいです。最後まで楽しんでね」と語り、「トリップ」をプレイした。コロコロと心地好く変化するリズムに大胡田の少女感のあるあどけない声が乗ると、大正ロマン感漂う会場の雰囲気とマッチして、まるでミュージカルのような空気に。晴れ・曇り・雨の天候をドラマチックに表現していく「気象予報士の憂鬱」の際もその空気感は継承されていて、初めて立った舞台とは思えないほどの完成度でバンドと共鳴していた。その後も『ONOMIMONO』の楽曲を中心に「プラスティックガール」や成田のピアノソロが心弾ませる「最終電車」をプレイし、ゆったりとした哀愁が漂う「ただいま」で前半を締めた。
「ただいま」を歌い終わった大胡田がサブステージから退出すると、メインステージに残ったメンバーで毎ライブの開演時に流れるSE曲を生演奏。新たな始まりを予感させる演出に会場は大きなクラップで応戦し期待を募らせたところで、サブステージから大胡田が再び登場! 先ほどまで赤かった衣装はお色直しされて鮮やかな青色になっており、この時を境に“現在のパスピエモード”に切り替わったことが視覚的にもはっきり分かった。そんな後半を『OTONARIさん』のリード曲である「あかつき」からスタートさせ、「みんなの声を聴かせて!」とシンガロングを巻き起こしたキラーチューン「裏の裏」も織り交ぜつつ、会場との呼吸を丁寧に合わせていった。
今年5月にドラムのやおたくやが脱退したことにより、この日のライブはクラムボンの伊藤大助がサポートドラマーとして参加。バンドの骨となるドラムがサポートという状況、初めて立つステージ、さらに久々のツアー初日という様々な掛け算が新鮮さのある緊張感を生んでいた。しかしその空気感はネガティブなものでは全くなく、聴く側もぴんと姿勢が正されるような心地良い張りがあったし、新しい環境に一歩足を踏み入れた時の高揚感そのものだった。それはエレクトリカルでクールな「(dis)communication」や「ポオトレイト」で試みたリズムトラックの打ち込みという大きな挑戦や、サビでのファルセットが美しく響く「空」のような伸びやかなバラードからも感じることができる変化だ。
それでも、これまでパスピエが大切にしてきた和を感じさせる凛としたアティチュードや露崎の躍動感と重厚感の対比が冴えるベースライン、遊ぶように楽し気に弾かれる三澤のギター、そして成田が彩る鍵盤の輝きが総じて織り成す“バンド・パスピエ”としての体幹は一切ブレていない。〈別れは悲しいものだが、変化は楽しいものだ〉――メンバー脱退によって生じた波紋に対して、パスピエはきっとそう捉えたのだろう。そうでなければこんなにも刺激的で挑戦的なアルバムを生み出すことは出来ないはずだ。そして結局のところ、これからパスピエが進むべきは「音の鳴る方へ」のタイトルの通り≪求めていたのは アイデンティティと何だっけ? 答えを見つけたら音の鳴る方へ≫だということ。そしてその足取りは、ラストに奏でられた「正しいままではいられない」のテンポのように軽やかで、ワクワクとドキドキが入り混じっているような明るく楽しいものなのだ。
熱望されたアンコールで、成田は「今日みたいな新しい形式のライブや、新しい音楽のスタイルに挑戦していきたいなと思っています。俺らは、来てくれるみんなを信じきっているからこそ新しい挑戦ができるって、今日改めて再確認できたと嬉しく思います」と語った。ファンとの絶対的な信頼を握り締めながらこれからも進化し続けるという約束を歌に託すように「スーパーカー」を高らかに奏で、ラストは「MATATABISTEP」で会場が揺れるほどの爆発的な盛りあがりを見せて、盛大に幕を閉じた。
【取材・文:峯岸 利恵】
【撮影:Yosuke Torii】
リリース情報
OTONARIさん
2017年10月18日
ワーナーミュージック・ジャパン
2. あかつき
3. EVE
4. (dis)communication
5. 空
6. ポオトレイト
7. 正しいままではいられない
セットリスト
パスピエ TOUR 2017“OTONARIさんのONOMIMONO”
2017.11.10@東京キネマ倶楽部
- 01.デモクラシークレット
- 02.脳内戦争
- 03.チャイナタウン
- 04.トリップ
- 05.トロイメライ
- 06.気象予報士の憂鬱
- 07.プラスティックガール
- 08.シネマ
- 09.最終電車
- 10.プラスティックガール
- 11.SE-BAND アレンジ-
- 12.あかつき
- 13.裏の裏
- 14.(dis)communication
- 15.空
- 16.ポオトレイト
- 17.EVE
- 18.ハイパーリアリスト
- 19.音の鳴る方へ
- 20.正しいままではいられない 【ENCORE】
- EN 01.スーパーカー
- EN 02.MATATABISTEP
お知らせ
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11/25(土)千葉幕張メッセ国際展示場
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12/02(土)赤坂BLITZ
rockin’on presents COUNTDOWN JAPAN 17/18
12/31(日)幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール
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