LUCKY TAPES「Virtual Gravity Tour 2017」東京ファイナル
LUCKY TAPES | 2017.11.24
そこにあったのは、バンドが辿ってきた旅の終着点であり、新たな幕開けを告げる場だった。
11月2日、東京・LIQUIDROOMでライブツアー「Virtual Gravity Tour 2017」のファイナル公演を行ったLUCKY TAPES。
この日はサプライズの発表もあった。アンコールのMCで、来年春にバンドがビクターからメジャーデビューすることを発表。フロアからの大きな歓声がそれを祝福する。その声も、最後の「What time is?」「Showtime!」というステージ前で円陣を組む時の掛け声で全員で写真撮影をしたときのムードも、幸せな祝福感に満ちたものだった。
そういった空気が生まれたのも、何より、この日のライヴが熱くハッピーなものだったからだろう。
ステージに立ったのは、高橋海(Vo/Key)、田口恵人(B)、高橋健介(G/Cho)のメンバー3人に加えて、NAPPI (Trombone)、村上大輔 (Sax)、チャンケン (Trumpet)、ぱなお (Percussion)、松浦大樹 (Dr)、UKO(Cho)をサポートに迎えた9人編成の大所帯。全員が黒い衣装に身を包んだシックな出で立ちだ。そのステージも、彼らが培ってきたバンドマンとしての確かな演奏力とエンターテイナーとしてのショウマンシップを見せるもの。ソウルやファンクなどのブラック・ミュージックを吸収した横ノリのグルーヴを軸に、骨太なプレイが次々と展開する。
「お待たせしました!」とメンバーが登場すると、まずは「Boogie Nights」、そして「レイディ・ブルース」を披露。どちらもうねるベースラインやパワフルなギターリフが見せ場の曲だ。そのまま序盤はダンサブルなナンバーをプレイしていく。
2015年にリリースしたデビューアルバム『The SHOW』以降、昨年の2ndアルバム『Cigarette & Alcohol』、そして今年9月にリリースした新作EP『Virtual Gravity』と、作品ごとに評価を高めてきた彼ら。その背景には、ソウルやファンクなどのブラック・ミュージックを吸収したセンスに加えて、色気ある歌声、一癖も二癖もある曲展開、そして何より観る人を虜にするライブパフォーマンスがあった。
ただ演奏するだけでなく、音楽を通して“魅せる”ことを意識していることも彼らのステージの大きな特徴だろう。「体温」ではサポートメンバーたちが演奏しながら息の合ったダンスを見せ、手拍子でオーディエンスを巻き込む。「Friday night」ではメンバー全員が左右にステップを踏み、「よかったら一緒にどうですか? 踊りませんか?」と高橋健介がフロアに呼びかけてオーディエンス全員が揺れる。日本のロックバンドのライブではモッシュしたり拳を振り上げたりと「縦ノリ」を具現化した光景が見られることは珍しくないが、「横ノリ」をオーディエンス全員が身体で示したような光景は彼らならではのものだろう。
中盤では「山中湖で制作合宿に入ったんですけど、みんなでセッションしながら作った曲です」と新曲を2曲披露。どちらもスローテンポな、ジャズのテイストを活かしたようなテイストだ。続けて「久々にやる曲を」と『The Show』に収録された「Gun」を披露し、メンバーを一人ひとり紹介する。
続いては「今まで3人でステージに立つことが意外となくて、実は今回のツアーが初めてです」と3人編成のスペシャルなアコースティックセットへ。高橋健介のギター1本の弾き語りから、高橋海が声とピアノ、田口恵人がベースを重ねて「夜想曲」を歌い上げる。シンプルな編成だからこそ芯にある歌心が伝わる。さらには「夜が明けたら」で「みなさん、ご一緒に」とオーディエンスを巻き込んで親密な空間を作り上げる。
このタイミングでも一つの大団円を迎えた感触はあったが、再びサポートメンバーたちがステージに戻り、ホーン隊による壮大なイントロダクションのようなセッションを経て「パレード」を披露。後半はより官能的に聴かせるソウルフルな楽曲を並べた展開だ。「ミルク」に続けては「ここでカバーを1曲」とアリシア・キーズの名曲「If I ain’t got you」を披露。コーラスをつとめてきたUKOがセンターに立ち、迫力ある声で歌い上げる。ソロシンガーとしても活動する彼女の思わず惹き込まれるような歌唱力で見せ場を作っていた。
そして本編のクライマックスとなったのは「Gravity」。高橋健介は「スマートフォン、携帯電話のライトをつけたままで聴いて下さい」と告げ、ステージの照明を落としてオーディエンス一人ひとりが灯した白い光に会場が包まれる。さらに本編ラストの「TONIGHT!」では、観客からの声援で誰が歌い出しを担当するかを決めたり、一人ずつメロディをパスしていったりと、この日ならではのスペシャルな演奏。アウトロでは高橋健介がオーディエンスの中に飛び込み、熱い盛り上がりを作っていた。
大歓声に迎えられてアンコールに登場した彼らは「大事なお知らせがあります」とメジャーデビューを発表。祝福ムードで一杯になった会場に「一番最初にできた曲をやります」と「Peace and Magic」を届け、そして新たな代表曲となった新作『Virtual Gravity』収録の「シェリー」で大団円のムードの中ライヴを締めくくった。
ゆったりとしたグルーヴから始まり、包み込むようなゴスペル調の分厚いハーモニーが曲を盛り上げていく「シェリー」。この曲が象徴的だが、LUCKY TAPESの楽曲の良さは「情感が曲の後半に溢れ出す」ようなところにある。ギターソロやハーモニーの掛け合いや、そういうこってりとしたフレーズが最後まで詰め込まれている。だからライブで堪能したときの満腹感がすごく大きい。ブラック・ミュージックを取り入れ洗練されたポップスを志向するバンドは今のシーンに少なくないが、ヴィンテージなロックやブルースも咀嚼してキャッチーさだけでなくスケール感を形にしているのは、彼らの大きな強みだと思う。
メジャーに場所を移しても、彼らならきっと今までと変わらずに、より遠くまで届く音楽を体現してくれるだろう。そういう期待が高まった一夜だった。
【取材・文:柴 那典】
【撮影:Toyohiro Matsushima】
リリース情報
Virtual Gravity
2017年09月06日
Rallye Label
2. Boogie Nights
3. Gravity
4. シェリー
セットリスト
Virtual Gravity Tour 2017
2017.11.2@恵比寿LIQUIDROOM
- 1.Boogie Nights
- 2.レイディ・ブルース
- 3.体温
- 4.Mr.Robin
- 5.Touch!
- 6.FRIDAY NIGHT
- 7.贅沢な罠
- 8.TOKYO
- 9.Balance
- 10.Gun
- 11.夜想曲
- 12.夜が明けたら
- 13.Parade Session
- 14.パレード
- 15.ミルク
- 16.If Aon’t Got You(Cover)
- 17.Gravity
- 18.TONIGHT! 【ENCORE】
- En1 Peace and Magic
- En2 シェリー