amazarashiのボーカル秋田ひろむによる初の弾き語りライブ「理論武装解除」
amazarashi | 2017.12.27
amazarashiのボーカル秋田ひろむによる初の弾き語りライブ「理論武装解除」が舞浜アンフィシアターで行なわれた。バンド編成のamazarashiのライブと言えば、MCはほとんど無く、ステージ前面に張られた紗幕にタイポグラフィーで表現した歌詞やアニメーションなどの映像を映し出すという独特な手法で進む。だが、この日はスクリーンの使用は最小限。いつも以上に秋田ひろむのMCが多いことが印象的だった。語られたのは、初めての弾き語りライブで少し緊張気味なことや、歌に込めた想いなど。“武装解除”というタイトルのとおり、飾り気のない言葉でお客さんと向き合う秋田ひろむのMCは新鮮で、その言葉と共に受けることで、どこかいつもとは聴こえ方が変わるような楽曲もあった。今回はそんな秋田ひろむのMCをできるだけ拾いながらレポートを書いてみようと思う。
ほとんど完全な暗闇と言ってもいいようなステージにつばの広い帽子をかぶった秋田ひろむがひとりで現れた。イスに腰を下ろし、アコースティックギターを掻き鳴らしながら歌い始めた1曲目は「夏を待っていました」だった。amazarashiの重厚感のあるバンドアレンジのなかでは、秋田ひろむの歌唱もまたエモーショナルで芯の強いところに魅力があるように感じていたが、バンドという“武装”が解除されたとき、予想以上に繊細な歌い方をする人なんだなということは、まず大きな発見だった。言葉の意味を噛み砕きながら、ときに憤りを叩きつけるように、ときに優しく囁くように、秋田はメロディを紡いでいく。
「今日は2日目なんですけど、こんな広いところにひとりは慣れませんね……。ライブをやっているときはすごく長く感じるんですけど、終わってしまうとあっと言う間です。そんな“一瞬”についての、わいとみなさんの歌があるので歌います」。そう言って届けたのは、“人との出会い”と“人生の選択”について綴った「ナモナキヒト」だった。その歌のラストで紗幕にたくさんの人の名前が映し出されると、続く、不穏でダークな「ラブソング」では秋田の、周りを取り囲むようにメラメラと真っ赤な炎が燃え上がった。
「こうやって弾き語りをしていると、昔、アマチュア時代に豊川とふたりでやってたことを思い出して、あの頃と地続きだったんだなと思います」と言って、その頃のライブで毎回のように歌っていたと紹介したのは「隅田川」だった。秋田の背後にあるスクリーンに映し出されたのは、ゆらめく水面と、咲いては散る打ち上げ花火。美しいメロディに“あなた”への儚い想いを丹念に折り重ねていくミディアムバラードはバンド初期の名曲だ。
「今年はいろいろありました」と、2017年を振り返ったのは、ライブも折り返し地点に差しかかったころだった。「ツアーとタイアップもたくさんやらせていただいて、大変な1年だったんですけど。辛いこともあったけど、うれしいこと、楽しいこともあって。それが全部歌になるんだったら、“良い1年だったんだな”って、12月になって思います。次の曲もそういう曲です」と紹介したのは、最新ミニアルバム『地方都市のメメント・モリ』に収録されている新曲「たられば」だ。“もしも僕が○○だったら……”と、いくつも仮定を繰り返し、やがて“たられば”では救われない、ただの自分を受け入れるストレートな楽曲は、いまの秋田ひろむだからこそ歌うことのできる優しい問いかけの歌だった。
「さっき楽屋で緊張していたら、サポートメンバーのみんなが集まってくれて、“ああ、バンドって良いな”と思いました」と前置きをしてから届けたのは、昔一緒にバンドをやっていたメンバーに向けて作ったという「ライフイズビューティフル」。かつてライブハウスで味わった悔しさを決して忘れないとばかりに生々しく吐露しながら、消えることなく歌への情熱を燃やし続けた秋田ひろむの人生譚。サビで繰り返される“ライフイズビューティフル”というフレーズにあわせて降り注ぐ、色とりどりの光がとても美しかった。
原曲のバンドアレンジでもピアノとコーラスの存在が際立っていた「フィロソフィー」は、もうひとりのメンバーである豊川真奈美を交えたふたり編成で届けた。そして、「2~3年前に作った、まだ音源にしてない曲があって。新しい音源にも入ってない曲なんですけど、ふたりでやるのに合うかなあと思って」と紹介したのは未発表曲「夕立旅立ち」。オレンジ色の光に包まれながら、ジャキジャキと刻むカントリー調のギターにのせて、“故郷からの旅立ち”をテーマにした郷愁を誘うメロディはamazarashiの新機軸だと思う。
「せっかく豊川が来たので、わいたちのはじまりの曲を歌いたいと思います」と言って、ひときわ情感豊かに歌い上げた「光、再考」からライブはクライマックスへと向かっていった。ラストは再び秋田ひろむがひとりギターの弾き語りで歌った「悲しみ一つも残さないで」。日々戦うことから逃れることのできない私たちのために、“歳をとって死ぬまで 笑って生きてたいよ”と願いを込めたフォーキーな別れの歌は、できるだけ“武装解除”をして聴き手の近く寄り添おうとした、この日のライブの締めくくりに相応しかった。
amazarashiの音楽は日常をカラフルに彩るとか、踊り出したくなるとか、決してそういう類のものではない。だが、明日からも私たちが生きてゆくための小さな勇気の火を心に灯してくれる種火のような音楽だ。もしかしたら、その説得力は聴き手にダイレクトに訴えかける弾き語りスタイルのほうがより強いかもしれない。最後に秋田ひろむが「また会いましょう」という言葉を残してライブの幕を閉じたあと、会場を出たとき、12月の寒空の下で、「よし、がんばろう」と、昨日までとは少し違う一歩を踏み出せた自分がいた。
【取材・文:秦 理絵】
【撮影:木村篤史】
※写真は12月6日公演のものとなります
■アルバム『地方都市のメメント・モリ』ライター対談企画
http://music.emtg.jp/special/20171211114ed1db7
リリース情報
地方都市のメメント・モリ
2017年12月13日
SMAR
2.空洞空洞
3.フィロソフィー
4.水槽
5.空に歌えば
6.ハルキオンザロード
7.悲しみ一つも残さないで
8.バケモノ
9.リタ
10.たられば
11.命にふさわしい
12.ぼくら対せかい
セットリスト
amazarashi 秋田ひろむ 弾き語りライブ
「理論武装解除」
2017.12.07@舞浜アンフィシアター
- 01.夏を待っていました
- 02.ジョブナイル
- 03.ナモナキヒト
- 04.ラブソング
- 05.隅田川
- 06.ヒーロー
- 07.たられば
- 08.空洞空洞
- 09.ライフイズビューティフル
- 10.フィロソフィー
- 11.夕立旅立ち
- 12.空に歌えば
- 13.光、再考
- 14.僕が死のうと思ったのは
- 15.悲しみ一つも残さないで
お知らせ
amazarashi Live Tour 2018
「地方都市のメメント・モリ」
04/20(金) [東京]Zepp DiverCity Tokyo
04/28(土) [大阪]Zepp Osaka Bayside
04/30(月) [福岡]福岡市民会館
05/04(金) [愛知]Zepp Nagoya
05/06(日) [広島]JMSアステールプラザ大ホール
05/12(土) [宮城]SENDAI GIGS
05/19(土) [新潟]新潟県民会館
05/20(日) [石川]本多の森ホール
05/26(土) [東京]豊洲PIT
06/03(日) [北海道]Zepp Sapporo
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。