あらゆる点で前代未聞、Maison book girl 4回目のワンマンライブ『Solitude HOTEL 4F』
Maison book girl | 2018.01.04
Maison book girlにとって4回目となるワンマンライブ『Solitude HOTEL 4F』。Zepp DiverCityの会場内に入ると、白いスモークが薄っすらと漂っていた。そして、ステージの背景のスクリーンに投影されていたのは、かすれながら明滅する“Maison book girl”というロゴ、日付と時刻を表示しているデジタル時計……あれ? 何かがおかしい。時刻は現在のものであったが、日付は“2018 0623”。約半年後のものとなっている。ここは未来ということなのか? そういえば、音声の逆回転再生を基調としているのだと思われる音楽が先ほどからずっと流れ続けているのも、なんだか妙に気になる。あからさまに特別なことが起きているわけでもないのだが、今日のライブは只事ではなさそうな予感がした。
開演時刻の19時が間近に迫った頃(たしか18時57分だったと思う)、急速に動き始めた時計の日付と時刻。徐々に過去へと遡り、現在=“2017 1228 19:00 00:00”になると、ブザーが鳴り響いた。SEと映像が流れ、ステージの下手側に置かれている長方形の白い扉を開いて矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミが登場。オープニングを飾ったのは「sin morning」だった。投影された映像に包まれながらパフォーマンスを繰り広げる4人の影が、背景のスクリーンや白い扉の表面で揺らめく。続いて「rooms」「lost AGE」「end of Summer dream」「veranda」「bed」――多彩な曲が一気に披露され、観客は身体を揺らしたり、息を呑んだりしながら、思い思いの形で興奮を噛み締めていた。
「人がいっぱい! 2017年、まだライブはありますけど、最後の大きなひとまとめ。こんな大きな会場でライブをさせて頂いて嬉しいです」(矢川)。「今日、初めてライブに来た人もいるんじゃないでしょうか?」(和田)。「“初めて!”っていう手が嘘っぽい(笑)。でも、きっと初めての人もいっぱいいるよね。ありがたい!」(井上)。「この日を迎えられてよかったね。このライブ、あと2、3時間ですけど、6時間くらいの気持ちでやりたいです」(コショージ)。リラックスしたムードのMCを挟んで「cloudy irony」も披露され、このままごく普通の形でライブが進みそうだったのだが……その次の「faithlessness」で最初の異変が起こった。フラッシュライトが瞬くステージ上でパフォーマンスを繰り広げていたメンバーたちが順番に白い扉を開いて中へと入り、姿を消してしまったのだ。最後に立ち去った井上が白い箱を抱えていたが、あれは何だろう? そんなことをゆっくり考えている暇は、あまりなかった。いつの間にかステージ上の時計が示していたのは、“2018 0112 00:00 00:00”――14日後の未来が、我々の目の前に現れていたのだ。
“14日前”という声が鳴り響き、その後も“13日前” “12日前” “11日前”……メンバーたちの声が無数の効果音を交えながら続いたのに呼応し、時計の日付は時間を遡上していった(流れていたのは、1stシングル「river」に収録されている「14days」の詩の朗読部分を抜いた音声)。スクリーンの映像は、テレビ番組の休止中に画面に現れる砂嵐のような状態となっている。そして、今日=“2017 1228”に戻ってきたのだが……示されていた時刻は現実のものではない“19:00”だった(実際には19時40分過ぎを迎えていた)。すると、今日のライブのオープニングをなぞるかのようにブザーが鳴り、SEと映像も流れてメンバーが再登場。届けられたのは、先ほど聴いた「sin morning」だった。続いて披露されたのも「rooms」。しかし、この曲の途中に盛り込まれている無音の間に差し掛かると、4人は横並びのままこちらに背を向け、ピタリと静止してしまった。スクリーンには、こちらを見ている無表情な4人の姿が映っていて、井上が白い箱を持っているのが不思議な雰囲気を醸し出していた。おそらく2分近くは続いたと思われる無音と静止…………………………………………その後、突然始まったサウンドによってスイッチを入れられたかのようにメンバーたちは手を素早く動かして衣装のフードをかぶり、「言選り」を歌い始めた。今日のライブを最初から再現するかのような2曲を経て、生じ始めた変化。これが意味するものとは一体何なのか?
「言選り」のエンディングで、鍵が床に落下して発する金属音が鳴り響いた。メンバー1人1人が順番に鍵を拾い、下手側の白い扉を開いて中へと吸い込まれていく。ステージから姿を消す毎に、各メンバーの瞳をアップで捉えた映像がスクリーンに1つずつ浮かび上がるのが美しい。そんなひと時を経て、ノートを手に持った彼女たちが再登場し、ポエトリーリーディング「雨の向こう側で」がスタート。落ち着いたトーンの4人の声が語るストーリーが、瑞々しく胸に沁みた。そして、ゆっくりと耳を傾けている内に今回のライブで表現されているものが少しずつ見えてきた気がしたので、ここで紹介しておくとしよう。
このライブの翌朝に複数の媒体を通じて配信された速報で私が書いたことの繰り返しにはなるが、“約半年後→現実通りの日付と時刻→14日後→日付は今日だが、時刻が少し過去に戻っている/オープニングを再現しているのかと思いきや、途中から差異が発生”という、この時点に至るまでの流れは、単に未来、現在、過去を行き来するタイムトラベルを意味していただけでなく、“あり得るかもしれないもう1つの世界=パラレルワールド”も示しているように感じられた。そして、この推論は「雨の向こう側」の後に繰り広げられた演出によっても後押しされた。狂ったように意味不明の文字や記号を示し始めた時計、激しいノイズ、ステージの床に向かって豪雨のように放射された無数の真っ白なレーザービーム、スクリーンに浮かんでは消えた言葉の断片――不穏な空間の中、衣装、普段着風の服、頭から被ったマントを纏ったメンバーたちが、まるで赤の他人であるかのように行き交っていたが、それは未来、現在、過去、パラレルワールドが複雑に絡み合った異空間をイメージさせた。これらの解釈はあくまで私の勝手な想像、少々行き過ぎた妄想とも言い切れる類のものであることをお断りしておく。しかし、そう考えると、その後の展開は、個人的には非常に腑に落ちるように感じられた。
幻想的なシーンを演じた後、一旦姿を消した4人は、すぐに再登場。円形のフォーメーションを描いてからスタートした「townscape」を皮切りに、序盤では披露されなかった曲たちである「blue light」「十六歳」が次々届けられた。そして、「karma」の途中からステージ上の時計が急速に過去へと遡上を始め、やがて辿り着いたのは、Maison book girlが赤坂BLITZ(現マイナビBLITZ)で3回目のワンマンライブ『Solitude HOTEL 3F』を行った日付・開演時刻=“2017 0509 19:00 00:00”。あの日もオープニングで流れたインストゥルメンタル「ending」が鳴り響いた。
聞こえてきた足踏みのような謎の音。それはいつしか観客の手拍子を思わせるサウンドとなり、再び動き始めた時計が示したのは、Maison book girlが初ライブを行った日付・開演時刻=“2014 1124 17:10”。ステージに現れたメンバーたちを見た観客は、一斉にどよめいていた。彼女たちが着ていたのが、あの頃の衣装だったのだ(本物の当時の衣装を着ていたのかは不明だが、かなり似た雰囲気であった)。井上がポニーテールなのが懐かしい。そして、初舞台を再現するかのように「bath room」と「last scene」が披露されたが、過去に我々が辿った世界線との決定的な差異が1つあった。当時のMaison book girlも今と同じ4人編成。しかし、メンバーは矢川葵、井上唯、コショージメグミ、宗本花音里。和田輪は、加入前であり、矢川、井上、コショージとは、まだ出会っていなかったのだ。もしかしたらあり得たのかもしれないもう1つの世界を自らの手で現出させるかのように全力でパフォーマンスを繰り広げる矢川、井上、和田、コショージの姿が、とても眩しかった。
「これがMaison book girlです!」、まるで新人グループであるかのように初々しいトーンのコショージの挨拶の言葉が印象的だった。そして、「ありがとうございました!」とお辞儀をして、ステージを後にした4人。ブザーが鳴り、SEと映像が流れた後、ステージ上の時計が示したのは“2017 1228 20:46”――実際の日付と時刻であった。客電が点灯してからも、観客はアンコールを求める手拍子を暫くの間、続けていた。しかし、「以上をもちまして、本日の公演は終了いたします」というアナウンス(“淡々”と“朴訥”が入り混じった、とても味のある女性の声だった)が3回繰り返されて迎えた終演。もしアンコールが行われたら、それはそれで楽しかったとは思うが、完璧な構成と展開のまま迎えた幕切れは非常に心地よく、深い感動を噛み締めさせてくれた。
ロビーに出ると、通路のど真ん中に唐突に置かれていた2脚の椅子の周りにたくさんの紙片が散らばっていた。入場時に貰った「終演後、開封してください。」と書かれた白い封筒の中身と同様のものであったが、これもライブの余韻を粋に加速する演出となっていたので、最後に紹介しておこう。まず、片面にプリントされていたのは、ロビンソン・ジェファーズというアメリカの詩人の作品『To an Old Square Piano』。英語で書かれた詩は、我が家にやってきた古いピアノのことを描いていた。その鍵盤で過去に誰がどんな旋律を奏でたのか? それを知る術はないが、最愛の女性によって今後、様々な音を響かせるのであろうピアノが、ここにある――見知らぬ過去に想いを馳せながらも、広がる未来へと眼差しを静かに向けているその詩は、『Solitude HOTEL 4F』での我々の体験と何処となく重なると同時に、Maison book girlの行く先を示しているようにも思えた。そして、その裏面には、このライブで繰り広げられた時間の動きをイメージさせるグラフィックが広がっていた。“20180623”から始まり“20180623”で終る線、図形、文字は何を意味するのか? そんなことをあれこれ想像したくなるというお土産を観客に手渡して終了した『Solitude HOTEL 4F』は、あらゆる点で前代未聞であり、思い出しながら文章を綴ると、改めて夢だったように感じられる内容だった。2018年のMaison book girlの活動も刺激的なものとなるだろう。このユニットは、今後、さらに注目を集めるはずだ。
【取材・文:田中 大】
【撮影:稲垣 謙一】
リリース情報
cotoeri
2017年12月13日
徳間ジャパンコミュニケーションズ
2.十六歳
3.雨の向こう側で
4.言選り(instrumental)
5.十六歳(instrumental)
6.雨の向こう側で(instrumental)
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