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急成長するバンドの勢いを感じたスペシャルな一夜!「MASHROOM 2018」をレポート

MASHROOM | 2018.02.02

 MASH A&Rプロジェクトの発足から5年。今年も所属アーティストが一同に会する年始恒例のライブイベント「MASHROOM 2018」が開催された。これまで東京は恵比寿リキッドルームを会場としてきたが、今回は5回目のアニバーサリーを記念して、キャパシティが2.5倍となる新木場スタジオコーストへと移動。2013年の初開催時にはTHE ORAL CIGARETTESとフレデリック、LAMP IN TERRENのみだった出演アーティストも、今年はパノラマパナマタウン、Saucy Dog、YAJICO GIRLが加わった計6組になり、いま急成長するバンドとプロダクションの勢いを感じさせるスペシャルな一夜となった。


■フレデリック(BLACK STAGE)
 「フレデリックの桃源郷へようこそ」という三原健司(Vo・Gt)の言葉とともに、ソールドアウトの会場に一番手として登場したのはフレデリックだ。去年まではサポートだったドラマーの高橋武が正式に加入したことで、改めて4人組バンドとして臨むMASHROOM。「TOGENKYO」を皮切りに、中毒性の高いメロディで摩訶不思議なフレデリックワールドを築き上げていく。むかし語りの口調から狂騒のディスコ空間を作り上げた「ディスコプール」、ファンキーなグルーヴでフロアを気持ちよく横に揺らした「たりないeye」。ともすれば“玄人好み”に傾倒しそうな、深い音楽への造詣を滲ませたサウンドだが、あくまでも“みんなのうた”として、そこにいる全ての人を巻き込んでいけるのも、いまのフレデリックならではだ。「リリリピート」から怒涛のラストスパートへと向かう。「オドループ」では、健司と三原康司(Ba)、赤頭隆児(Gt)のフロント3人がステージ際に並び立てば、フロアのボルテージもマックスへ。1週間前にTOGENKYOツアーの追加公演を終えたばかりの余韻もあってか、緊張感のある引き締まったステージがフレデリックらしかった。


■YAJICO GIRL(RED STAGE)
フレデリック、パノラマパナマタウンらが立ったメインステージ(=BLACK STAGE)の脇に設置された、サブステージ(=RED STAGE)での出演になったのは、2016のMASH FIGHTでグランプリを獲得したYAJICO GIRL とSaucy Dog。まず、前半に登場したYAJICO GIRLは、榎本陸(Gt)、吉見和起(Gt)、武志綜真(Ba)、古谷駿(Dr)の楽器隊4人が演奏を始めるなか、最後にボーカル・四方颯人を迎え入れて、「Casablanca」からスタートした。あらゆる時代や国の音楽を一瞬でキャッチできる世代だからこそ鳴らすことのできる、“好きなとこどり”的なYAJICO GIRLのロックミュージック。そのサウンドの真ん中で、青さと渋みの両方を持つ、四方の歌声が大きな存在感を放っていた。昨年、初の全国流通盤としてリリースしたアルバム『沈百景』から「光る予感」や「サラバ」などが披露されたステージ。なかでも四方が「先輩たちの開いたところじゃなくて、僕らも自分の道を切り開いてゆかないといけない、そう思いながら作った曲です」と紹介した「黒い海」が素晴らしかった。心の混沌を表すような重いビートが、やがてエモーショナルに開けてゆき、《光と夢と理想 遥か彼方》というフレーズに終わる。音楽を鳴らす喜びを全身で体現するような、フレッシュで清々しいステージだった。


■パノラマパナマタウン(BLACK STAGE)
 直前リハから「SHINKAICHI」を披露して会場を沸かせたのは、1月17日にメジャーデビューしたばかりのパノラマパナマタウンだった。彼らがMASH FIGHT(MASH A&Rオーディション)で優勝したのは2015年。あらゆるロックのフォーマットを貪欲に咀嚼しながら、ラップとメロディを自在に行き来する岩渕想太(Vo・Gt)のボーカルスタイルから、どこか孤高の存在感を放っていたパノラマパナマタウンだったが、この日はいよいよシーンの異端児としての真価が覚醒したステージだった。SEは新たにビースティ・ボーイズの「Sure Shot」に変わり、いきなりイントロデュース的な自己紹介ソング(新曲)を投下すると、「今日は、思い出したら俺らのことしか覚えてないぐらい、爪痕を残して帰りたいと思います」と岩渕。祭りばやしの様相も見せる混然一体としたダンスロック「リバティーリバティー」のあと、ひたすら“ほっといてくれ!”と連呼する予測不能の雑食ロック「フカンショウ」(メジャーデビューアルバム『PANORAMADDICTION』収録)では、浪越康平(Gt)が上裸になってギターを弾き倒す。「みんなで退屈をぶち壊そう!」という岩渕の強気なマイクパフォーマンスから、ラストに置いた重厚で美しいロックバラード「ラプチャー」まで、伸びしろを埋めて余りあるパフォーマンスという意味では、間違いなくパノラマパナマタウンはこの日のMVPだった。


■LAMP IN TERREN(BLACK STAGE)
 5時間を超える長丁場のライブということで、途中30分の休憩を挟んだあと、後半戦のトップバッターとしてBLACK STAGEに登場したLAMP IN TERREN。会場を淡い緑色の光が包み込むなかで届けた1曲目の「緑閃光」を終えたところで、松本大(Vo・Gt)からひとつ説明があった。「もう気づいてると思うけど、とんでもなく声の調子が悪いです」と。たしかにこの日の松本は1曲目から声がざらつき、高音でいつものような伸びがなかった。これ以上続けるのは無理なようにも見えたが、「それでも、このステージに立ちたかった。未来のちからを全部使うぐらい、全身全霊でやりたいと思います」と続けると、そこからのテレンは、出せる限りのちからを注ぐ意地のステージを見せることになる。狂おしいほどの“愛してる”を丹念な言葉選びで綴った最新バラード「花と詩人」、巨大なミラーボールが美しい“流星群”を作り出した「涙星群の夜」。決して万全のライブではなかったが、それはバンドが一丸となって何かを伝えようとする姿に胸が打たれるライブだった。この日のステージで松本は「2017年、僕は自分を一度殺しました」と言っていた。「辞めたいと思ったことがあった」とも。そんな葛藤の日々を乗り越えたからこそ、彼らはどうしてもこのステージに立たなければいけなかったのだ。2018年、テレンの夜明けは近いはずだ。


■Saucy Dog(RED STAGE)
YAJICO GIRLと同じくRED STAGEに登場したSaucy Dogは、石原慎也(Vo・Gt)、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr)が鳴らすシンプルなスリーピースが鮮烈な印象を残した。彼女との別れ際の忘れられないセリフから歌い出す「煙」をはじめ、彼らが届けるのは、大切だった誰かを思い出にするための切ない歌たち。極めてパーソナルなテーマでありながら、石原が全身全霊で繰り出すその歌には、聴き手をズルズルと引きずり込むちからがある。YAJICO GIRLと同じく、昨年初めてリリースした全国流通盤『カントリーロード』のなかから「wake」や「ナイトクロージング」といった楽曲が披露されたステージには、ライブバンドとして格段に地力を上げてきた彼らの成長も刻まれていた。ラストナンバーは「いつか」。2016年のMASH FIGHTで彼らの優勝を決定づけた掛け値なしの名バラードについて、石原は「僕らを何回も支えてくれた曲」と紹介。せとのコーラスが優しく寄り添う瞬間は、何度聴いても胸に迫るものがあった。ライブを終えたあと、メンバーと話す機会があったのだが、石原はとてもいい新曲ができたんですよ」と目を輝かせていた。「不安と緊張とワクワクで飽和している」という2018年。サウシーはバンドのいまを更新する気が満々だ。


■THE ORAL CIGARETTES(BLACK STAGE)
 荘厳なSEが鳴り響くと同時に、フロアのお客さんの頭が大きく波打ち、「MASHROOMのトリは俺らに決まってるっしょ、の巻」という前口上で、トリを飾ったのはTHE ORAL CIGARETTES。山中拓也(Vo・Gt)がギターボーカルで歌う「Mr.ファントム」から幕を開けると、その両翼に控えるあきらかにあきら(Ba)と鈴木重伸(Gt)の暴れっぷりが容赦なかった。オーラルはこの日が2018年一発目のステージ。ゆえに“ライブをやりたくてウズウズしていた”という感じがビンビン伝わってくる。続けて「5150」へ。メンバーの本気に全力で応えるオーディエンスのエネルギーに、山中は「やるじゃん」と不敵な笑顔を見せた。昨年は初の武道館ワンマンのチケットを即完させ、その場所すらも“通過点”として爆走してきたバンドの破格のパフォーマンス。それをバルコニー席では後輩たちが真剣なまなざしで見つめていた。その視線を感じながらだろう、MCでは、山中が「俺らはもっと強い仲間を求めてる。正直、俺らまでのライブ、もっと(上を目指して)やってほしかった」と、あえて後輩たちを叱咤激励するような言葉を投げかけた。そこから「カンタンナコト」「狂乱 Hey Kids!!」「BLACK MEMORY」と畳みかけたクライマックスは、いつもようにお客さんと正面から対峙しながらも、“これが時代を切り開くバンドのやり方”だと、その背中で後輩たちに語るような、渾身のステージだった。


■アンコール(BLACK STAGE)
 アンコールでは、MASHROOM恒例の出演アーティストによる楽曲のシャッフルカバーが繰り広げられた。オーラル山中の「MASHでいちばん生意気なバンド」という呼び込みで、トップバッターのパノラマパナマタウンがカバーしたのはフレデリックの「オドループ」。あの印象的なイントロからメロディ、歌詞にいたるまで、まるで別の曲のようにパノラマパナマタウン流に料理して、“生意気な後輩”の面目躍如となるパフォーマンスを見せつけると、ヤジコはテレンの「涙星群の夜」、サウシーはオーラルの「エイミー」を、それぞれ緊張気味に、だが生き生きとカバーしていた。ヤジコの「いえろう」をカバーしたのはテレンだったが、去年の「オドループ」に続き、どんな曲でもナチュラルに“テレンの音”に変えてしまうのは、さすがだ。フレデリックはパノラマパナマタウンの「ラプチャー」をメジャーに進出する後輩への餞別として色気たっぷりにカバー。最後にオーラルがダイナミックかつ華やかなアレンジでSaucy Dogの「いつか」を届けたあと、ラストはこの日の出演アーティスト総勢24人がステージに立ち、オーラルの「LOVE」を全員で歌い、演奏して、5時間におよぶイベントは大団円となった。最後に《LOVE 一人で笑う事は出来ない》と高らかに歌い上げた大きな愛と希望のナンバーは、切磋琢磨しながら未来へと歩んでいくMASH A&Rの仲間たちが、1年に一度集結して、互いに歩んできた道のり認め合うMASHROOMの終わりに、とても相応しかった。

【取材・文:秦 理絵】
【撮影:Viola Kam (V’z Twinkle Photography)】
【撮影:白石達也】

tag一覧 MASH A&R フレデリック YAJICO GIRL パノラマパナマタウン LAMP IN TERREN Saucy Dog THE ORAL CIGARETTES ライブ

セットリスト

MASHROOM 2018
2018.01.21@新木場SUDIO COAST

    ■フレデリック
  1. 01.TOGENKYO
  2. 02.ディスコプール
  3. 03.パラレルロール
  4. 04.たりないeye
  5. 05.リリリピート
  6. 06.オンリーワンダー
  7. 07.KITAKU BEATS
  8. ■YAJICO GIRL
  9. 01.Casablanca
  10. 02.光る予感
  11. 03.MONSTER
  12. 04.黒い海
  13. 05.いえろう
  14. 06.サラバ
  15. ■パノラマパナマタウン
  16. 01.PPT Introduce(新曲)
  17. 02.世界最後になる歌は
  18. 03.リバティーリバティー
  19. 04.パノラマパナマタウンのテーマ
  20. 05.フカンショウ
  21. 06.MOMO
  22. 07.ラプチャー
  23. ■LAMP IN TERREN
  24. 01.緑閃光
  25. 02.innocence
  26. 03.花と詩人
  27. 04.涙星群の夜
  28. 05.キャラバン
  29. 06.地球儀
  30. ■Saucy Dog
  31. 01.煙
  32. 02.wake
  33. 03.ナイトクロージング
  34. 04.グッバイ
  35. 05.いつか
  36. ■THE ORAL CIGARETTES
  37. 01.Mr.ファントム
  38. 02.5150
  39. 03.モンスターエフェクト
  40. 04.嫌い
  41. 05.カンタンナコト
  42. 06.狂乱Hey Kids!!
  43. 07.BLACK MEMORY
  44. ■ENCORE
  45. 01.パノラマパナマタウン「オドループ」
    (フレデリック cover)
  46. 02.YAJICO GIRL「涙星群の夜」
    (LAMP IN TERREN cover)
  47. 03.Saucy Dog「エイミー」
    (THE ORAL CIGARETTES cover)
  48. 04.LAMP IN TERREN「いえろう」
    (YAJICO GIRL cover)
  49. 05.フレデリック「ラプチャー」
    (パノラマパナマタウン cover)
  50. 06.THE ORAL CIGARETTES「いつか」
    (Saucy Dog cover)
  51. 07.MASH A&R ALL MEMBERS「LOVE」
    (THE ORAL CIGARETTES cover)

リリース情報

フレデリック「TOGENKYO」

フレデリック「TOGENKYO」

2017年10月18日

A-Sketch

1. TOGENKYO
2. スローリーダンス
3. かなしいうれしい
4. たりないeye
5. ミッドナイトグライダー
6. パラレルロール
7. RAINY CHINA GIRL

リリース情報

YAJICO GIRL「沈百景」

YAJICO GIRL「沈百景」

2017年09月06日

Eggs

01. 光る予感
02. PARK LIGHT
03. ロマンとロマンス
04. サラバ
05. 黒い海

リリース情報

パノラマパナマタウン『PANORAMADDICTION』

パノラマパナマタウン『PANORAMADDICTION』

2018年01月17日

A-Sketch

1.パノラマパナマタウンのテーマ
2.フカンショウ
3.マジカルケミカル
4.ラプチャー
5.街のあかり
6.ロールプレイング

リリース情報

LAMP IN TERREN「[配信]花と詩人」

LAMP IN TERREN「[配信]花と詩人」

2018年01月19日

A-Sketch

01.花と詩人

リリース情報

Saucy Dog『カントリーロード』

Saucy Dog『カントリーロード』

2017年05月24日

HIP LAND MUSIC

1.煙
2.ナイトクロージング
3.いつか
4.ジオラマ
5.マザーロード
6.Wake
7.グッバイ

リリース情報

THE ORAL CIGARETTES「BLACK MEMORY」

THE ORAL CIGARETTES「BLACK MEMORY」

2017年09月27日

A-Sketch

1.BLACK MEMORY
2.Flower
3.接触

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