前へ

次へ

ニューアルバムのリリースに加え新曲も披露された、indigo la End「蒼き花束vol.2」

indigo la End | 2018.04.25

 ライブが始まってから、間もなく1時間半が過ぎようとしていた。
「次で最後の曲です」と、川谷絵音(Vo)がマイクをとった。3年ぶりの中野サンプラザのステージ。前回、同ステージに立った際の記憶がほとんど無いこと、でももう1度立ちたかったと素直に気持ちを述べ、こう言葉をつないだ。

「3年の間にいろいろあって、作る曲も変わって来て。前回とは違う覚悟で(このステージに)立っている。メンバーの関係性も変わってきているのかな。純粋に音楽をやっていると思います」

 川谷が続ける。曰く、indigo la Endの曲は、自分自身の音楽の原点だ、と。届かなくなったのか不安だった、ステージに立っているのが正しいのか悩んだこともあった、そして音楽を続けていくこと、その進退について真剣に考えたこともあった、と。そんな時、長田カーティス(Gt)からこう言われたのだそうだ――君の曲が好きだから、一緒にやりたい。

「僕らは音楽で繋ぎとめられている、すごくいい関係だなと思って。だからこのバンドを何十年もやっていこうと思いました。才能って人間を引きつけるものだと思うけど、こうやってたくさん(観客が)来てくれて、少し自信がつきました。これからも音楽を作っていこうと思うので、皆さんよろしくお願いします」

 そして本編最後の曲へ。「素晴らしい世界」。久々に演奏されたこの曲は、川谷がindigo la Endをやり始めた時“ずっと1人で生きていくから大丈夫だと思って作った曲”だそうだ。「でも今は皆に支えられている。だから(今日)歌おうか迷ったし、今日以降は歌わないと思うけど……」と言って歌われたミディアムアップチューン。この曲で、この日初めて川谷だけにスポットライトが当たった。光の中、最後はアカペラでメロディーを届けた川谷絵音。さざ波が大きな波に変わるように、拍手がステージに向かっていった。

 4月13日、金曜日。超満員の中野サンプラザ。開演予定時刻を少し過ぎた頃。indigo la Endのライブは「she」でスタートした。薄い紗幕が下りたままのステージ。その紗幕をスクリーンにし、無機質なブロックチェックのモチーフが、サウンドとリンクする。続く「冬夜のマジック」では、ステージ上に短冊型のスクリーンが複数配置され、立体的なタイポグラフィーの映像で歌を彩った。1曲を通して綺麗なクレッシェンドを見せていく、見事なウォールオブサウンドに、全身がすっぽり包まれたような感覚。解放されていく五感。もはや、indigo la Endになすがまま、だ。

ソフトロックに大胆にファンクのフレーズを入れた「ココロネ」、フィリーソウルを思わせるサウンドメイクにドメスティックなメロディーがのる「見せかけのラブソング」など、メロディーメイカー川谷絵音の歴史をじっくりと聴かせていく。同時に、ボーカリスト川谷絵音の個性も最初から全開だ。特に「見せかけのラブソング」でみせたボーカルアプローチは、川谷にしか出来ない手法だった。元々、起伏の激しいメロディーを滑らかなファルセットを自在に使って聴かせるのが、川谷のボーカルの魅力だと思う。そして、これは川谷の声質を最大限に生かした強力な個性だ。この日も、何度となくその華麗なアップダウンに耳を持っていかれた。

しかし「見せかけのラブソング」は、もうひとつ、別の声を聴かせてくれた。例えば、地声とファルセットの中間のような。あえて少し太い声でファルセットを出しているような。少し大げさに言ってしまうと、ジェンダーレス、とでも言えるだろうか。常識を超えた歌声に出逢ったような、このバンドの潜在的な可能性に触れた気がして衝撃を受けた。

 中盤。「楽しんでますか、紗幕が下りて、皆(=観客)の顔が見えなくてびっくりした」と、川谷。今回のライブ演出のひとつの肝である”サウンドとリンクした映像”に触れ「花火とか綺麗に見えた? こっちは見えなくて。ただ目がチカチカして」と、相変わらずマイペースのMCを展開。「皆さん、今日はありがとうございます」という締め括りに、ドラムの佐藤が次の曲に入ろうとすると「何、1人で始めてるの?」と一蹴。ドッと会場がわいた。「何? 俺がMCのタイミングじゃないところで話始めたから?」後ろを見回しながら話す川谷。苦笑しながら”そうだよ”という雰囲気のメンバー。リハーサルのような一幕に、それまでひとつも聞き漏らすまいと音符の行方を追っていた観客の緊張感が、フッと和らぐ。川谷が絶叫気味に言った。「だって、紗幕とか下りててさ、顔も見えなくて。(観客と)コミュニケーション、とらなくちゃと思って!」この言葉に、観客から笑いが漏れた。「幸せが溢れたら」など、バラードも含み、しっかり聴かせた中盤を経て、ライブは後半、アップチューンが続くブロックへ。

 前述した今回のライブのひとつの肝、映像。ステージ全体を覆う紗幕、ステージ後方に置かれた短冊形のスクリーン4個、ステージ上空から吊るされた短冊型のスクリーン4個、そしてステージバックのホリゾントと、4つのスクリーンを様々なパターンで組み合わせ、そこに様々な種類の映像が映し出されていく。曲に合わせ、無機質なモチーフ、実写、蝋燭からランタンに変わるストーリー性のあるものなど、実に多彩。平面を重ねることで、立体的な趣を出す映像演出は、昨今のライブでは良く見られる手法だが、中野サンプラザのステージの天井の高さまで意識された、空間を丁寧に使った演出になっていたと思う。1曲毎に、使うスクリーンの組み合わせを変えるなど、indigo la Endの繊細さと丁寧さに、ベストマッチしていた。

 男女のコーラスがスリリングな「想いきり」では、客席から曲に合わせてクラップが起こった。赤く染まったステージから放たれた「夜明けの街でサヨナラを」では、ふわっと鳥が飛び立つような川谷のファルセットからのサビに、観客の両手が挙がった。「素晴らしい世界」を届け、一旦、ステージを後にしたindigo la End。アンコールの拍手に、再びステージに姿を現したメンバーたち。それぞれがスタンバイする中で、川谷がマイクをとった。

「新曲をやろうと思います。indigo la End、ちょっとモードを変えて、また違うフェイズに入りそうな……。今、作っているアルバム、楽しみにしていてください」

 この日、中野サンプラザにいた観客が、本当に待っていた言葉なのだろう。”新曲”、”アルバム”という言葉に大歓声が起こった。この日の翌日、4月14日から配信がスタートした新曲「ハルの言う通り」は、バンドアンサンブルの力強さが印象的な激しいアップチューン。さらにアグレッシヴな1曲「大停電の夜に」と続いた後、川谷の最後のMC。

「今日は本当にありがとうございます。indigo la Endやってて、本当に良かったと、今、新曲やっている時、思いました。Twitterでこういう曲作ってとか言われたら、そうじゃない曲作ろうと思ったりするけど(笑)、でも、次のアルバムは本当にいいと思います。本当に今日はありがとうございました」

ステージ上空から吊るされた短冊型のスクリーン。その真ん中に配置されたひとつに、バンド名が浮かぶ。川谷が歌い始める。最後の曲は「インディゴラブストーリー」だった。アウトロで、ゆっくりバンド名が溶けていく。最後に残ったのは”End”の文字。終演後には、映像で、7月18日に、ニューアルバム『PULSATE』が発売となること、同作の初回限定版DVD特典として、この日、4月13日の中野サンプラザ公演の映像が収録されることが発表となった。

【取材・文:伊藤亜希】
【撮影:井出康郎】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル indigo la End

リリース情報

[配信限定]ハルの言う通り

[配信限定]ハルの言う通り

2018年04月14日

ワーナーミュージック・ジャパン

01.ハルの言う通り

このアルバムを購入

セットリスト

蒼き花束vol.2
2018.04.13@中野サンプラザ

  1. 01.she
  2. 02.冬夜のマジック
  3. 03.ココロネ
  4. 04.ダンスが続けば
  5. 05.見せかけのラブソング
  6. 06.夏夜のマジック
  7. 07.心雨
  8. 08.幸せが溢れたら
  9. 09.心ふたつ
  10. 10.エーテル
  11. 11.鐘泣く命
  12. 12.瞳に映らない
  13. 13.想いきり
  14. 14.悲しくなる前に
  15. 15.夜明けの街でサヨナラを
  16. 16.素晴らしい世界
  17. 【Encore】
  18. EN 01.ハルの言う通り
  19. EN 02.大停電の夜に
  20. EN 03.インディゴラブストーリー

お知らせ

■ライブ情報

VIVA LA ROCK 2018
05/03(木)さいたまスーパーアリーナ

蒼き花束vol.2」追加公演「PULSATE」
05/08(火)Shibuya WWW X

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る