SHE’S ストリングス&ホーンを迎えた中野サンプラザで新曲も披露。
SHE’S | 2018.06.05
「いつかフルオーケストラでSHE’Sのライブをやりたい」。その夢を実現するために、SHE’Sが初めてストリングスとホーンを迎えた自主企画ライブ「Sinfonia "Chronicle"」の第1回目が、中野サンプラザで行なわれた。大阪NHKホール公演と東京の2Daysのみで開催された今回のライブでは、インディーズ時代から昨年12月にリリースされた最新アルバム『Wandering』の曲まで、SHE’Sのディスコグラフィーを網羅するベストセレクションなセットリスト。しかも、新たに管弦アレンジを加えた曲たちは、メンバー自身もステージで「2本しかないのが悔しい」と口にするほど、豪華でスペシャルな一夜となった。
「始めようか、中野サンプラザ!」。まずはストリングスカルテットとSHE’Sによる総勢8人の演奏で「Morning Glow」からライブはスタートした。ピアノボーカルを擁するドラマチックなロックサウンドに、華やかなストリングスの音色が重なると、まさに“朝焼け”を意味するタイトルのとおり、始まりの高揚感が会場を静かに温めていく。CD音源でもストリングスが刻むイントロのフレーズが印象的な「Un-science」から、原曲では4人だけだった演奏にストリングスの演奏が合わさることで、より疾走感を加速させた「Freedom」へ。どの曲で、何の楽器を使い、どんなアレンジで聴かせるか。そこに徹底的にこだわり抜いたであろうライブは、新鮮な感動と予想外の驚きをないまぜにしながら進んでいった。
ストリングスチームが袖へ捌けて、トランペット、サックス、トロンボーンというホーンセクションを迎えたのは、軽やかなビートに自然と体を揺り動かしたくなるような「Beautiful Day」。ここからは曲調に合わせて、目まぐるしく編成を変えながらノンストップで楽曲が披露されていく。服部栞汰のソリッドなギターが口火を切った「Isolation」のあと、意表を突いたのは、ホーンとストリングスの両方を迎えた「Just Find What You’d Carry Out」。バンドの原点にあるメロコアの影響が色濃い初期のシンプルなロックサウンドが、ダイナミックに生まれ変わった瞬間はとても衝撃的だった。そのあと、おもむろに4人だけの演奏へと戻ると、燃えるような情熱を音へと託した攻撃的なロックナンバー「Flare」へ。さらに息を呑むような転調を経て、バラード曲「White」へとつなぐ。その一連の曲たちは、美しさも、荒々しさも、出会いと別れの中で揺れる繊細な感情も、内に秘めた抑えようのない衝動も、全てを音楽へと昇華させるがゆえに、決してひとつの側面では語ることのできないSHE’Sというバンドの本質を全て浮き彫りにするものだった。
ホーン隊がフルートとフリューゲルを奏でた牧歌的なポップソング「Evergreen」、井上竜馬(Vo)が吹くホイッスルを合図に軽快なマーチングドラムが鳴った「パレードが終わる頃」など、中盤には朗らかな楽曲が続いた。そこで、井上は長めのMCで、次に歌う「幸せ」という曲について語りかけた。「最近やってなかった曲がありまして。“やって”ってよく言われるけど、当時、書いた時と同じ気持ちで歌えないっていうのが、正直なところでした」と。6年前の失恋と、その傷心旅行で訪れたカンボジアでの経験を通じて、“幸せの意味”を考えたことで生まれた「幸せ」という歌は、極めてパーソナルで生々しいが、一過性の想いとして封印されるには惜しい名曲だ。それを「今なら違う捉え方をして、歌い続けられる」と前置きすると、最初はピアノの弾き語りで、次第に加わったストリングスとバンドサウンドの中で大切に歌い上げた。その曲の終わりに、「生きている人間のほうが、失った人やモノを求めて、ゆらゆら彷徨う亡霊のようやと思います」と言うと、「Ghost」へ。バイオリンが悲しみのメロディをなぞり、井上の慟哭のような歌が響き渡ると、服部のギターもまた、その悲しみを増幅させるような泣きのギターで歌に寄り添う。曲から曲へと、想いを橋渡ししながら、物語を紡ぐように作り上げるライブはSHE’Sの真骨頂だ。
終盤のMCでは、木村雅人(Dr)がメンバーにイジられながら、慣れない感じで「男子ー!」「女子ー!」のコール&レスポンスをしてみたり、上京して1年を経たことでメンバーの関西弁が標準語になっているというようなトークで会場を和ませると、いよいよ後半戦へ。「Voice」や「遠くまで」といった、SHE’Sのライブでは欠かすことのできない開放感のある楽曲で、特大のシンガロングを巻き起こしていく。ラスト1曲。ピアノをポロポロと弾きながら、井上が語りかけた。「ライブハウスとかホールとかフェスとか……どこでもいいけど、音楽が鳴る場所が、みんなにとって一息つける安心する場所であったらいいなって。難しいけどさ。この音が少しでも大きくて頼りがいのあるものになれたらと思います」と。“自分たちの音楽がみんなの居場所になれたら”とは、彼らが音楽を鳴らす時にずっと大切にしてる想いだ。そんな真摯な気持ちを、そのまま音楽へとのせた「Home」を、最後にホーンとストリングスを加えた総勢11人で演奏して、ライブは幕を閉じた。
アンコールでは、「またやりたいね」(広瀬臣吾/Ba)、「もっといろいろな場所でやりたい」(服部)、と、この日のライブの手応えを語り合うと、8月8日にリリースされる新曲「歓びの陽」がいち早く披露された。リズム隊のグルーヴを強調したR&Bテイストも取り入れた楽曲はSHE’Sの新機軸だったと思う。そして、正真正銘のラストナンバーは「Curtain Call」。インディーズ時代のミニアルバム『She’ll be fine』に収録されているこの曲は、かつて井上がバンドを辞めようと思った時に、ファンの手紙を読み、もう一度音楽へ戻ってくることができた時に書いた曲で、これからもバンドを続けるという意思表示でもあり、感謝の曲でもある。だからSHE’Sは今もこの曲を最後の1曲として歌い続けている。
「俺は自分を好きになれない。だけど、周りの人に支えられて、なんとか大好きな音楽をやっています」。そんなふうに語りかけて届けたラストソングでは、客席を明るく照らすと、メンバーはお客さんの顔を一人ひとり確認するように穏やかな表情で演奏をしていた。最後に「俺たちは、俺たちの音楽はあなたの味方です!」と、井上。バンドが少しずつ大きくなる中で、最初から出会ってくれた人も、途中から知った人も、過去と今を一緒に共有しながら未来へと向かおうとする、とてもSHE’Sらしい終わり方だった。
初のストリングス&ホーンを迎えた今回のライブは、これまでのSHE’Sの集大成であると同時に、彼らの音楽には、まだまだ大きな可能性があることを感じるライブだった。「これがSinfonia "Chronicle"の1回目なので、10回、20回と続けていけるように頑張ります」と、MCで木村が言っていたとおり、SHE’Sの音楽の旅路はまだまだ始まったばかりだ。
【取材・文:秦 理絵】
【撮影:MASANORI FUJIKAWA】
リリース情報
歓びの陽
2018年08月08日
ユニバーサルミュージック
2.Upside Down
3.Monologue
4.歓びの陽(Instrumental Version)
5.歓びの陽(Backing Track Version)
セットリスト
Sinfonia “Chronicle"#1
2018.05.27@中野サンプラザ
- 01.Morning Glow
- 02.Un-science
- 03.Freedom
- 04.Beautiful Day
- 05.Isolation
- 06.Just Find What You’d Carry Out
- 07.Flare
- 08.White
- 09.Long Goodbye
- 10.Evergreen
- 11.パレードが終わる頃
- 12.幸せ
- 13.Ghost
- 14.Night Owl
- 15.Voice
- 16.遠くまで
- 17.The World Lost You
- 18.Over You
- 19.Home ENCORE
- EN 01.歓びの陽
- EN 02.Curtain Call
お知らせ
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06/17(日)茅野市民館(長野県茅野市)
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06/29(金)幕張メッセ 国際展示場1・2ホール
SUMMER TIME LOVER CIRCUIT「サマラバ!」2018
06/30(土)仙台市内ライブハウス7会場
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07/01(日)神奈川県川崎市 東扇島東公園特設会場
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07/08(日)新木場スタジオコースト
音楽と人LIVE 2018 東京アコースティック百景 vol.2
07/10(火)渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
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07/21(土)お台場野外特設会場
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07/22(日)新木場スタジオコースト
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08/04(土)国営ひたち海浜公園
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