SAKANAMON、結成10周年と『・・・』 リリースを記念し行われたツアーファイナル
SAKANAMON | 2018.06.01
バンド結成10周年とアルバム『・・・』のリリースを記念して4月5日・香川・高松TOONICE公演からスタートしたワンマンツアー"延々々”も、いよいよ最終日。開演を告げる映像が流れ、SEが鳴り響くや否や、待ちわびていた観客の間から上がった歓声がものすごかった。そして、藤森元生(Vo・G)、森野光晴(B)、木村浩大(Dr)がステージに現れ、「DAPPI」がスタート。藤森の後ろに控えているお馴染みのマスコットキャラクター「サカなもん」の人形が、紋付き袴を着ているのが目を引く。背景には映像が映し出され、カラフルな照明が点滅するステージ上は、10周年を記念するにふさわしい華やかな空間となっていた。
「マジックアワー」「幼気な少女」「アリカナシカ」が、連発されてから迎えた最初のインターバル。「改めまして今晩は。起こしいただきありがとうございます。久々のワンマンツアーで、まさかのZepp Tokyo。どうなることやらと15分くらい前まで思っておりましたが、楽しいですね。大丈夫そうです。ありがとうございます! 音楽の趣味のいい人たちが集まってますから、大いに楽しんで帰りましょう!」――文字に書き起こすと流暢に話しているように見えるかもしれないが、独特の間や言い淀みを不規則に挟んでいる藤森のMCは、いつものように微笑ましい挙動不審さを漂わせていた。しかし、曲がスタートすると、観客の胸に深く沁みる歌声を響かせるのだから面白い。和やかなムードを生んだMCの後、「反照」と「ぱらぱらり」が力強く鳴り響き、観客は興奮を露わにしながら歓声を上げていた。
「私事なのですが、上京するまでの僕の人生は、自意識過剰な生活だったんですね。全く女の子に話しかけることができなくて。でも、上京して20歳になってお酒というのものを覚えると、女の子と話せたんですね。そして、お酒なしでもようやく多少は喋れる人間になりました。そんなわけで、女性を理解してる人間だということを踏まえて聴いてほしいんですけど……女ってさあ、めんどくさいよね? 複雑な女性の気持ちを歌にしました」と藤森が語ってから披露された「乙女のKANJOU」は、変拍子のサウンドと女心をサイコロ賭博に喩えた歌がスリリングに融合していた。そして、観客の興奮状態にますます火を点けた「爆弾魔のアクション~願い~」。外国人が非常に増えた東京で実際に起こりそうなシュールな出来事を爽やかなサウンドで描いた「DAVID」。「もう夏がやって来るんじゃないでしょうか……冬の曲をやります」と言って、唐突になだれ込んだ季節外れのクリスマスソング「ケーキ売りの女の子」……SAKANAMONの多彩な作風が際立つ場面が続いた。
中盤のMCタイムでは、メンバーたちがバンド結成時のことを振り返った。藤森が作ったデモ音源を、同じ専門学校に通っていた森野が聴いて感銘を受けたことがSAKANAMON結成へと繋がったのだという。「こんな変な人だとは思わなかった」(森野)。「最初は礼儀正しいやつだと思った。コミュニケーション能力が低いだけだったね」(木村)――という2人の言葉が観客を爆笑させていた。そして、「10周年なので、懐かしい曲をやりましょうか。結成当初の曲を」と森野が言い、「僕が高校時代に宮崎でやってたバンドの曲を当時はちょっとやったりしたんですね。15年くらい前の曲です。聴いてください!」という言葉を藤森が添えて披露されたのは「ARTSTAR」。彼らの思い出が深く刻まれているはずの曲をこうして10周年を記念した場で聴かせてもらえるのは、感慨深いものがあった。
「架空の色彩」と「凡庸リアライズ」が届けられた後には、思わぬ展開が待っていた。「アゲ!」と観客に呼びかけたのに対して大きな「アゲ!」という声が返ってきて、満足げに頷きながら「こんな顔で、弾けますよ。ピアノ」と言った木村。すると、「弾いてー!」という声が上がり、彼はサポートプレイヤー・飯野桃子(Pf/テスラは泣かない。)のピアノに向かった。そして、弾き始めたのは一番得意な曲なのだという韓流ドラマ『冬のソナタ』のテーマソング「最初から今まで」。奏でられたロマンチックなメロディが観客を沸かせていた。そんなレアなシーンの後に突入した「AGEINST」は、木村が叫ぶ「ア!」に対して観客が「ゲ!」と元気いっぱいの声で返す恒例のコール&レスポンスが展開。ますます気持ちいい一体感の輪が、会場いっぱいに広がっていった。
SAKANAMOの3人の出身校である日本工学院専門学校のダンスチームをゲストに招いて明るく盛り上がった「CATCHY」と「UTAGE」、ソウルフルなサウンドが観客を開放的に踊らせた「STOPPER STEPPER」の後、序盤から時折、登場していたサポートプレイヤーの飯野、アラカワシ(G/deid、VELTPUNCH、ayutthaya)が改めて紹介された。そして、「SYULOVER」では、せんせい(東京カランコロン)、タカハシマイ(Czecho No Republic)との共演が実現。藤森を巡ってせんせいとタカハシが火花を散らし、修羅場と化していく歌を聴きながら観客は大喜び。モテるチャラい男を演じている藤森が、実に満足そうな表情を浮かべながら歌っている姿が印象的だった。
「ラストスパートですよ。盛り上がっていけますか?」と藤森が観客に呼びかけて、「クダラナインサイド」を皮切りに突入した終盤戦。シャープなビートが躍動した「ミュージックプランクトン」、《♪つまんねぇよつまんねぇよ》という力強い大合唱を巻き起こした「TSUMANNE」を経て、藤森は抱えている想いをじっくりと語った。「10周年を迎えました。僕らはひょんなところから始まって。“ビッグになって、この世を征服するんだ!”みたいなのは全くなくて、ノリみたいなところから生まれたんです」……高校時代の藤森はバンド活動に打ち込んでいたが、上京するタイミングで解散。すっかり人間関係が面倒くさくなった彼は、それ以来、バンドはやらないという決意を固めて、専門学校で学んだレコーディング技術を活かして自宅録音に勤しむ日々を送った。ある時、遊び感覚で参加したバンドが楽しかったことから、「またバンドをやりたいなあ」という気持ちを抱きつつも、架空のバンド「SAKANAMON」名義の自宅録音作品を制作して、故郷に帰ろうとしていたのだという。「なんでだろうなあ? ……みんなに宅録の曲を聴かせたくなって、デモを作ったらめちゃくちゃいい反応で。それでSAKANAMONを結成したんです。ただ楽しめればいいなって思ってて。売れる売れないはどうでもよくて。ただ楽しいからバンドをやりたくて。僕らはただ好きな音楽を、ただみなさんに聴いてほしいだけで、好きな音楽をただ続けてきただけなんです。好きな音楽を共有してくれるみなさんが、こんなにいたとはね。こんなにセンスがいい人が世の中にいたんですねえ(笑)。本当に嬉しいです。ありがとうございます。僕の一番の理解者である森野さん。僕らには言えないような“SAKANAMONがナンバーワンだ!”みたいなことを言ってくれるキムさん(木村)がいれば、まあ、しばらくは解散しないでしょう。僕もまだみんなに聴かせたい音楽がいっぱいありますので、それをこの3人で鳴らせる限り、ずっと続けていきます。気に入った時だけでいいから、ライブを観に来てください。僕らはずっとライブをやってます。また、どこかで会いましょう! 気に入る曲を1曲でも作れるように頑張りますので」――藤森のMCの後に披露された本編ラストの曲「ロックバンド」は、SAKANAMONの10年間の歩み、抱き続けている音楽への情熱、飄々としつつも逞しい姿を、鮮やかに伝えてくれる曲だった。
アンコールを求める「ア!」「ゲ!」という声に応えてステージに戻ってきた藤森、森野、木村は、「結成10周年おめでとう」という文字の周囲にメッセージがたくさん書き込まれた横断幕をフロアにいた観客から手渡され、照れくさそうにしながらも喜んでいた。そして、対バンツアー『連々々』を9月から11月にかけて行うことを発表した後、サポートプレイヤーの飯野とアラカワシが加わった5人編成で「テヲフル」を披露。最後に3人編成で届けられたのは、藤森がSAKANAMONのために初めて書いた曲なのだという「妄想DRIVER」。藤森のギターと歌のみでスタートし、やがて森野と木村の演奏が合流。一気に力強いエネルギーを放ち始めた様は、かつてのこの3人の出会いを表しているようにも感じられて、とてもグッとくるものがあった。藤森が振り回して放り投げた「サカなもん」の人形を大事そうに抱きとめてエンディングを迎えた瞬間、大きな歓声で包まれた会場内。爽やかな余韻が漂う中、ステージを後にしたメンバーたちの姿が凛々しかった。
【取材・文:田中大】
【撮影:Taku Fujii】
リリース情報
・・・
2018年01月17日
TALTO
2.STOPPER STEPPER
3.乙女のKANJOU
4.DAVID
5.SYULOVER
6.凡庸リアライズ
7.テヲフル (・・・MIX)
8.反照
9.ケーキ売りの女の子
10.DAPPI
セットリスト
「SAKANAMON結成10周年『・・・』 リリース記念ワンマンツアー “延々々”」
2018.05.19@ Zepp Tokyo
- 01. DAPPI
- 02. マジックアワー
- 03. 幼気な少女
- 04. アリカナシカ
- 05. 反照
- 06. ぱらぱらり
- 07. 乙女のKANJOU
- 08. 爆弾魔のアクション ~願い~
- 09. DAVID
- 10. ケーキ売りの女の子
- 11. ARTSTAR
- 12. 架空の色彩
- 13. 凡庸リアライズ
- 14. AGEINST
- 15. CATCHY
- 16. UTAGE
- 17. STOPPER STEPPER
- 18. SYULOVER
- 19. クダラナインサイド
- 20. ミュージックプランクトン
- 21. TSUMANNE
- 22. ロックバンド 【ENCORE】
- En-1.テヲフル
- En-2.妄想DRIVER
お知らせ
SAKANAMON10周年対バンツアー”連々々”
09/07(金)千葉LOOK
09/15(土)仙台JUNK BOX
09/17(祝月)札幌DUCE SAPPORO
09/21(金)KYOTO MUSE
10/07(日)名古屋CLUB UPSET
10/8(祝月)岡山IMAGE
10/10(水)高松TOONICE
10/12(金)宮崎SR BOX
10/13(土)福岡INSA
10/31(水)金沢vanvanV4
11/03(土)心斎橋BIGCAT (3マン)
11/11(日)渋谷TSUTAYA O-EAST (3マン)
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。