クリープハイプ 4年ぶりの日本武道館で、アルバム&全国ライブハウスツアーも発表!
クリープハイプ | 2018.06.11
「今も理不尽なことに悔しくなって、許せないことがある。この気持ちはどこに行くのかなとずっと考えています。だからこそ、曲が出来る。クリープハイプは、そういうことを歌いたい、歌っています……」
ライブ中盤。「大丈夫」の後のMC。尾崎は、バイト時代の話を始めた。当時、自分からお金を借りてはそれを返さない先輩がいた。返済を切り出せなかった自分がいたと前置きし、その時、どうして借りたヤツの方が強いのか、理不尽だと思った。冒頭で紹介したのは、このエピソードを話した後の尾崎の言葉である。彼は、こう締め括った。
「世の中が無かったことにしている、小さい想いを歌っている。だからクリープハイプは、その想いを全部受け止めます」
この言葉を受け歌われたのは「明日はどっちだ」だった。
5月11日、金曜日。日本武道館。八角形の北側に設置されステージ。セットはじつにシンプル。照明を吊り下げたトラスも、極限まで本数を少なくしている。天井ギリギリの客席からもステージの4人が伺えるセット。日本武道館の席を全部使えば、360°の客席になる。この日はセンターステージでも無いのに、320°くらいまで埋まっていた。それも、2階の最後列までぎっしり。まさに、パンパンだ。超満員の観客を最初に楽しませたのは、6本の短い映像だった。出演しているのはメンバー。女装もありのコミカルな演技、センスあるフレーミングやテンポのよい編集に、大観衆がドッと沸く。中でもドッカーンと日本武道館を大爆笑させたのは、過去、彼らの楽曲が使用されたCM(日焼けどめとか、カップ焼きそばとか……以下、検索してくださいね)に直結するパロディ映像だった。文句なしのレア映像。ライブ以外でお目にかかるのは難しいだろうなと思わせる、いろんな意味でスレスレの挑戦&ビックサプライズに、会場の期待が一気に高まる。暗転する日本武道館。薄闇の中にうっすら浮かぶステージ。メンバーが順番に出てきてスタンバイする。歓声と拍手が、ステージに降り注いでいく。尾崎がマイクをとった。
「ありがとう。(映像では)パロディでCMをやったけど。これから本物のクリープハイプがクリープハイプをやります。今日は何でもないただの日だ。その日を最高にしましょう、よろしくお願いします」
クリープハイプ、4年ぶり、2度目の日本武道館。1曲目を飾ったのは、ミディアムバラード「ねがいり」だった。“前回の日本武道館で最後に歌った曲、あれから4年経って、本当に白髪が増えました”という紹介から「寝癖」。リズム隊の太く筋肉質な音が、曲をぐぃっと底上げしていく。深いブルーに沈むステージの中「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」へ。サビでパッと解放されるメロディーは、深い青のライティングと相まって、メロディーが深海から水面へ飛び出してきたようだった。改めてクリープハイプのサビの瞬発力を目の当たりにしてドキドキした。
尾崎が“今日はクリープハイプのすべてを見せないといけないから、ダラダラしている暇はありません。あの先へ、この先へ”と言って「オレンジ」。2番のサビで巻き舌のニュアンスを出した歌い回しを見せた尾崎。ギターの小川はステージ前、ギリギリに出てきて客を盛り上げる。エンディング間際には、ベースの長谷川カオナシのアクションに合わせ、観客からクラップが起こった。次の曲をイメージさせる言葉で紡いでいくセットリスト。その言葉のセレクトも、じつにお見事。同様の手法をとるアーティストは少なくないが、自分の想いを中心に語るにとどまっている場合も多い。クリープハイプは、自分の想いを伝えながら、歌詞の世界から遠く離れない温度の言葉を選び、ロマンチックにストーリーを紡いでいく。曲を生かすために選択された言葉が、楽曲と一緒に“クリープハイプの実像”を丁寧に、観客に編み込んでいく。しかも綺麗に、時に大胆な模様を描きながら。すごいな、この緻密さ。なのに、そう見せないバンドの気風もいい。メンバー同士が、他の音をしっかり聴いていて、尾崎のボーカルを支える盤石のアンサンブル。ロックのグルーヴとポップスの繊細さの同居。様々なクリープハイプが、多彩な言葉とメロディーでどんどん紡がれていく。ひと縫い、ひと縫い、丁寧に。その様は、まるで、言葉とメロディーを使った、刺繍のようだと思った。
超満員の客席は、1曲、1曲をじっくり聴いている。曲に合わせてクラップする、MCに笑う、映像に爆笑する、尾崎の言葉を噛みしめる……と、じつに忙しい。でもこの忙しさこそ、観客の欲求が解放された証拠ではなかろうか。客はバンドの鏡だという言葉があるけれど、クリープハイプのお客さんは、じつに欲張り。騒ぐだけじゃ満足しないし、いい曲を聴かせるだけでも満足しない。それはクリープハイプもそうだ。欲張り同士が、欲求を共有している。それが、他のバンドにない一体感になって、この日の日本武道館全体を包んでいた。そんな観客とバンドの関係性を象徴したかのような尾崎のMC。
「なんか満たされてしまうような。でも(ライブが)終わったらまたエゴサーチして。書かれたのを読んでまた足りなくなるから、ちょうどいいな(笑)。しゃべりすぎましたね、しゃべりすぎたのは……」
「夏のせい~」と、ワンフレーズ歌い「ラブホテル」へ。ステージを左右後方から照らすように2階席の端に設置された2台のミラーボール、さらにステージ前に埋め込まれるように置かれた大きなミラーボールが、様々な角度からの光に乱反射し、日本武道館に光の破片を散らす。それは跳ねた水滴のようでもあり、海中の泡のようでもあった。
アップチューンを連発しながら、ライブ本編はエンディングへ向かう。キラーチューン「HE IS MINE」では、尾崎の“見ての通り、とても神聖な場所です。汚してはいけません。だから絶対に、絶対に言わないでください”という期待の言葉に見事に観客が応え、大観衆の「セッ○スしよう!」が響いた。その瞬間、メンバー4人が、一斉に笑っていた。観客も全員笑っていた。最新曲の「栞」で本編は幕を閉じた。終わった後、ステージを斜め後方から見下ろしている1階席と2階席を、のぞき込むように見上げながら「見づらかったでしょう?」と声をかけた尾崎世界観。歓声と拍手が起こっている客席をゆっくり見回し、こう口にした。
「本当にこんなに……ありがとう、感謝しています」
やまない拍手、アンコールに応え、再びステージに登場したクリープハイプの4人。カントリーティストの「なぎら」を披露した後、9月にニューアルバムを発売すること、続いて全国23か所のツアーを行うことを発表した。
ダブルアンコールも含め、全部で27曲。ライブに対するスタンス、セットリスト、観客への向き合い方、演奏、映像を含んだ演出と、どれをとってもハイクオリティーで、ライブバンドとしての次のフェーズを感じられる内容だった。しかしながら、やっぱり最後に思ったのは、このバンドの曲の良さ、である。いい曲を聴き手にしっかり届けよう、最高の状態で再現しようというメンバーの気迫(といっても、内に秘めたような熱さなのですが)と、観客を楽しませようというサービス精神は、楽曲に新旧関係ない瑞々しさをもたらしていた。この瑞々しさこそ、今のクリープハイプの状態に直結しているのではあるまいか。MCで尾崎はバンドの状態を「今が1番いい」と言ったが、この言葉をこの日のライブは、鮮烈に表していた。誰もが納得するくらい、鮮やかに。そして力強く。
【取材・文:伊藤亜希】
【撮影: SHINTO TAKESHI】
リリース情報
クリープハイプ × STUTS「NO SWALLOWS, NO LIFE.」
2017年05月31日
ユニバーサルシグマ
M2. 東京音頭 / クリープハイプ
セットリスト
クリープハイプのすべて
2018.05.11@日本武道館
- 01.ねがいり
- 02.寝癖
- 03.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
- 04.オレンジ
- 05.エロ
- 06.左耳
- 07.ABCDC
- 08.火まつり
- 09.鬼
- 10.おばけでいいからはやくきて
- 11.ウワノソラ
- 12.さっきはごめんね、ありがとう
- 13.ボーイズENDガールズ
- 14.大丈夫
- 15.明日はどっちだ
- 16.イノチミジカシコイセヨオトメ
- 17.手と手
- 18.ラブホテル
- 19.かえるの唄
- 20.憂、燦々
- 21.HE IS MINE
- 22.社会の窓
- 23.イト
- 24.栞 【ENCORE】
- En 01.なぎら
- En 02.二十九、三十 【W ENCORE】
- WEn 1.愛の標識
お知らせ
さユり「2マンツアー『月と越境』」
06/16(土)名古屋DIAMOND HALL
京都大作戦2018〜去年は雷雨でごめんな祭〜
07/08(日)京都府立山城総合運動公園 太陽が丘特設野外ステージ
WILD BUNCH FEST. 2018
07/29(日)山口きらら博記念公園
rockin’on presents ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018
08/04(土) @ 国営ひたち海浜公園
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO
08/11(土・祝)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
MONSTER baSH 2018
08/19(日)国営讃岐まんのう公園
RUSH BALL 2018 20th Anniversary
08/25(土)泉大津フェニックス
SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2018
09/02(日)山梨県 山中湖交流プラザ きらら
JA共済 Presents RADIO BERRY ベリテンライブ2018 Special
09/09(日)栃木県井頭公園運動広場
PIA MUSIC COMPLEX 2018
09/29(土)新木場 若洲公園
09/30(日)新木場 若洲公園
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。