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飾らない等身大の歌が優しく心に届いた、Saucy Dog初の全国ツアーファイナル

Saucy Dog | 2018.07.27

「もし今日を境に声が出なくなっても悔いが残らないようなライブをして帰ります。よかったらみんなもついてきてください」(石原慎也 / Vo&Gt)。熱い想いを込めた、Saucy Dog初ワンマンツアー「one-one tour 2018」のファイナル公演が渋谷WWWで行なわれた。全公演チケットはソールドアウト。全国8ヵ所をまわって辿り着いたその会場は、2年前のMASH A&Rによるオーディションで、Saucy Dogが優勝を勝ち取った場所でもある。“はじまりの場所”へと満員のお客さんと共に帰ってきたSaucy Dogは、あの時と同じように飾らない素朴な佇まいのまま、あの時よりも確実に成長したバンドの頼もしい姿を見せてくれた。

 口笛とアコースティックギターの牧歌的な絡み合いが心地好い登場SEと共にステージに現れたメンバー。ドラムセットの前で3人が気持ちをひとつにするように拳を合わせて、「煙」からライブがスタートした。その第一声が鳴り響く瞬間をいまかと待つフロアの静寂のなか、ジャーンとギターを掻き鳴らしながら、石原が歌い出した。《「私達ね、もう大人だから好きなだけじゃ一緒にいられないのはもう分かってるよね」》――そんな切ないフレーズに、せとゆいかのコーラスとドラムが重なり、秋澤和貴のベースが重なり、抜けるようなサビのメロディが、その悲しみを振りほどくように加速してゆく。シンプルなスリーピース。それも決して超絶技巧の手数の多いタイプのバンドではない。なのに、なぜだろう。その歌には、登場する男女の心の揺れ動きが、むなしく過ぎてゆく日常が、ありありと表現されていた。

「ロケット」「Wake」という疾走感のあふれる序盤の楽曲を終えて、「ただいま」と、せとが笑顔で挨拶をした。「なんでや、俺が言いたかったやつや(笑)」と、すかさず突っ込んだ石原。大阪出身のSaucy Dogが、ツアーファイナルの東京で「ただいま」を言っているのが、なんだか少し新鮮だ。せとも「東京にも“ただいま”って言える場所ができて嬉しいです」と言う。「後悔しても、“あとの話”でした」。そんなふうに紹介をした、未練を断ち切れない“僕”の後悔を綴った「あとの話」のあと、せとが「みんなで一緒の方向に揺れましょう」とレクチャーをしてから突入したのはミディアムテンポ「曇りのち」。会場に集まったお客さんが優しく身体を動かして、温かい雰囲気に包まれた。

「僕たちが、初めて僕たちのために作った曲を」。石原の曲紹介にのせて、軽快なドラムがリードしたのは「メトロノウム」。ミニアルバム『サラダデイズ』の収録曲のなかでも、とりわけエモーショナルに歌い上げるこの曲は、石原自身が曲作りの葛藤のなかで、初めて誰にも共感されなくてもいい、という覚悟で書いた曲でもある。インタビューでは、「この曲、メンバーみんな大好きなんですよ」と言っていたのも、よく覚えている。衝動的なメロディにのせて、ありのままに焦燥と迷いを綴ったこの曲は、誰にも共感されないどころか、日々、同じように悶々とした悩みを抱える私たちの心に、そっと寄り添う楽曲だった。

 年間100本以上のライブを行っていた時期もあるSaucy Dogの“ツアーバンド”な実体験を綴ったスピーディな楽曲「バンドワゴンに乗って」のあと、MCでは、「いまから当たり前のことを言いますが……今日はワンマンファイナルじゃないですか、今日で最後の日なんですよ(笑)」と名残惜しそうにはにかんだ石原。ツアーの大阪公演で、それまで使っていたバックドロップを紛失して新調したことを明かしたりと、Saucy DogのMCは、まるで親しい友だちとたわいない会話をするようなムードだった。そこからクライマックスにかけては、Saucy Dogの真骨頂とも言えるバラード曲を畳みかけていく。「俺がお母さんからたくさんもらった愛の歌を」と紹介した「真昼の月」、“捨てられない君のコンタクトケース”をモチーフにした別れの曲「コンタクトケース」、そして、ふたりの出会いから終わりまでのエピソードを丹念に描いてゆく悲しい物語「いつか」。2016年バンドの知名度を大きく上げたのは「いつか」1曲だけだったが、いまやすっかり切り札も増えていた。

 ライブの終わりを告げたのは、「グッバイ」。石原が「いままでの弱かった自分に、最低だった自分に……」と、過去の自分を蹴散らすように語りかけてから、“グッバイバイ”と歌い出したエモーショナルなラストナンバーにのせて、優しいシンガロングを巻き起こして、本編は終了。アンコールでは、せとがキーボード、秋澤はエレキでリードギターを弾き、石原がアコースティックギターで歌うというアコースティック編成で「世界の果て」を披露した。“自分の事で精一杯”な僕ではあるけれど、戦災の絶えないこの世界と対峙しようとする歌は、どこまでも等身大だった。ライブが終わってしまうことを心から惜しみながら、最後に石原が「1本1本のライブを本気でやることの意味があると思っていて。どんどん良いライブを更新していきたいと思ってるので、これからも末永くよろしくお願いします」と言うと、疾走感溢れる「ナイトクロージング」をバンド編成で、この日いちばんの盛り上がりでライブは幕を閉じた。

 いまのSaucy Dogは圧倒的なカリスマ性で聴き手を高みへ導いてゆくヒーローのようなバンドではないかもしれない。だが、その音楽を受けとる“誰か”と同じ目線、同じ歩幅で、もがきながら今日を生きている、そんな佇まいが胸を強く揺さぶるライブだった。

 このツアーを終えて、Saucy Dogは10月から対バンツアー「ワンダフルツアー2018」をスタートする。SHE’S、Ivy to Fraudulent Game、WOMCADOLE、SIX LOUNGEら、いまもっとも勢いのある若手バンドも多数ブッキングする、まさにワンダフルなツアーは、どの公演も想像を超えるほど内容の濃いものになることは間違いないだろう。

【取材・文:秦 理絵】
【撮影:白石達也】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル Saucy Dog

リリース情報

サラダデイズ

サラダデイズ

2018年05月23日

MASH A&R

1.真昼の月
2.あとの話
3.曇りのち
4.コンタクトケース
5.メトロノウム
6.世界の果て
7.バンドワゴンに乗って

セットリスト

全国ワンマンツアー「one-one tour 2018」
2018.07.11@渋谷WWW

  1. 01.煙
  2. 02.ロケット
  3. 03.Wake
  4. 04.あとの話
  5. 05.曇りのち
  6. 06.マザーロード
  7. 07.メトロノウム
  8. 08.ジオラマ
  9. 09.バンドワゴンに乗って
  10. 10.真昼の月
  11. 11.コンタクトケース
  12. 12.いつか
  13. 13.グッバイ
  14.  【ENCORE】
  15. EN 01.世界の果て
  16. EN 02.ナイトクロージング

お知らせ

■ライブ情報

Saucy Dog 「ワンダフルツアー2018」
10/01(月)東京 恵比寿LIQUIDROOM
10/02(火)群馬 高崎FLEEZ
10/04(木)新潟 新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
10/05(金)長野 松本ALECX
10/12(金)京都 京都MUSE
10/13(土)兵庫 神戸VARIT.
10/14(日)静岡 静岡UMBER
10/17(水)宮城 仙台MACANA
10/18(木)福島 郡山#9
10/22(月)香川 高松DIME
10/23(火)岡山 岡山IMAGE
10/25(木)広島 広島セカンド・クラッチ
10/26(金)福岡 福岡BEAT STATION
10/28(日)熊本 熊本Django
10/29(月)山口 周南LIVE rise

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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