中田裕二、横浜の海と夜景を背景に「TOUR 18 “Nobody Knows”」締めくくる
中田裕二 | 2018.08.01
5月にスタートした中田裕二の「TOUR 18 “Nobody Knows”」の追加公演が行われた横浜大さん橋ホール。横浜港に浮かぶ国際客船ターミナルにあるこのホールは、ステージ後方の全面ガラス越しに海を臨んで中田の歌を堪能する真夏の夜にふさわしい会場。その期待を裏切らないライブだった。
SEが流れメンバーがステージに現れると満席の観客は立ち上がって彼らを迎え、真夏の夜の夢の始まりを告げるように、アコースティック・ギターを弾きながら中田が歌い始めたのは「Nobody Knows」。ツアータイトルにもなった最新作の幕開けを飾る表題曲だが、オリエンタルなムードの演奏と中田が得意なエキゾチックなメロディが横浜の街にしっくりと響いた。続けてエロティックなMVが話題になった「正体」をソウルフルに歌うと自然とハンドクラップが起こり、曲に合わせて動くオーディエンスとともにウッドフロアが揺れた。 「こんばんは、中田裕二です。TOUR 18 “Nobody Knows”追加公演横浜、ようこそ。こんなに集まってくださってありがとうございます。最後まで楽しくいきましょう」 というMCを挟んでの「ロータス」は、水辺に浮かぶ蓮の葉を思わせる爽やかなグリーンのライティングの中で、伸びやかな歌声が穏やかに空気を高揚させていく。「KILL YOUR SMILE」「髪を指で巻く女」「女神のインテリジェンス」とノリのいい曲を、「横浜~」と呼びかけたりハンドクラップを促しながら歌い続けるうちにバンドとの一体感も高まっていった。
「ついにこの日が来てしまいました」とツアー・ファイナルの夜を惜しむように言うと、どっしりしたバンド・サウンドで聴かせる「BLACK SUGAR」へ。平泉光司(COUCH,benzo)のダイナミックなギターが印象的な演奏に乗り、滑らかな歌声を聴かせる中田にオーディエンスは釘付けだ。続く「静かな朝」では両の手で物語を描きながら歌う中田の”18禁ボイス”が際立った。そしてムード満点のピアノソロを奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)が聴かせて始まった「春雷」は、抑制の効いた歌い出しからドラマチックに広がるサビへと情感豊かな歌で導いていく。「TERMINAL」を歌いだすと、グルーヴィな演奏にオーディエンスの体が揺れた。まさにここ大さん橋は人々が行き交うターミナル。中田の歌が新しいドラマの始まりを告げているようだった。
一息入れて中田が話し出した。連日の猛暑に、このツアーで今日が一番暑いと汗を拭きながら、「全国15ヶ所いろんなところを回ってきまして、追加で横浜。ここ初めて来たけど、すごい景色が良くていい場所ですね。(ツアーファイナルは)1曲1曲、噛み締めてやっている感じです。次はお天気続きにぴったりの、「傘はいらない」を聴いてください」
軽快なキーボードがバート・バカラックを連想させるこの曲は、曲に合わせて左右に体を揺らしながら手拍子をするオーディエンスが楽しそうだ。和んだ空気を一転させたのは、中田が弾くスパニッシュ風ギター。低めの声で「むせかえる夜」と曲のタイトルを告げると歓声が起こった。これもまた、続く熱帯夜にぴったりの曲だ。緊張感のある中田のギターと歌、奥野が弾くアコーディオンがここを見知らぬ港町に変えていく。インタビューで「激しい曲を生楽器でやるのが楽しい」と言っていたこの曲は、ライブで彼が最も楽しんでいる曲かもしれない。最後にバンドと顔を合わせて曲を締めると満足気にギターを置いて、打ち込みのイントロが流れると「この素敵な横浜の夜を、一緒にSLIDEしようぜ!」と呼びかけ、コーラスのカトウタロウと共に踊り始めた。待ちかねたようにオーディエンスも身振り手振りを揃えて踊り出したダンサブルな「CITY SLIDE」で、会場がひとつになって踊るのもライブならでは。その一体感を隅倉弘至(初恋の嵐)のベースが次の「マレダロ」に導いた。シンプルなロックンロールが凄腕バンドの手で思い切り弾けると、オーディエンスのステップにフロアが一段と揺れた。白根賢一(GREAT3)のキレのいいドラムフィルを合図に中田が「愛なんか知らないよ」と歌いだした途端に歓声が起きたのは、椿屋四重奏時代の「いばらのみち」。8年前の曲だが、バンドとひとつになったスウィンギーな歌は、むしろ今の中田のための曲のようでもあった。
ここでメンバーを一人ずつ紹介。ギターの平泉光司には何か言いたそうだったがシンプルに「お疲れさまでした」と声をかけ、バッキングボーカル、ギターのカトウタロウは名を呼ばれると腕を上げ挨拶した。「今日もエロスを振りまいてくれました、我らの兄貴」とドラムの白根賢一、「この人がいつもコントロールしてくれる」と安心感を伝えたベースの隅倉弘至、最後に「日本を代表するロック・キーボーディスト」と奥野真哉を紹介すると、「私が中田裕二です」と軽く会釈した。そして「これから作戦会議をしたいと思います。僕が歌いますんで、同じように返してください」と呼びかけると、早速コール&レスポンスとなり、中田が「THE OPERATION!」と叫んだのを合図にバンドが曲へと雪崩れ込んだ。フロアも照明で明るくなり、波のように皆が揺れているのが見える。フィナーレに向けて機が熟してきたようだ。高揚感たっぷりに歌い終えた中田が、ちょっともの寂しそうなオルガンをバックに口を開いた。
「ひとにはそれぞれ受け持っている定位置、ポジションみたいなものがあるともいます。みんな毎日その定位置について、仕事なりをしている。僕の定位置はこのステージ。このツアーがもうすぐ終わりますけど、それぞれメンバー、スタッフもそれぞれの定位置を守り抜いていただきました。感謝の気持ちを込めて、最後に「オールウェイズ」という曲で締めたいと思います。今日はどうもありがとうございました」
拍手の中で中田が、軽やかにアコースティック・ギターを弾きブルースハープを吹くカントリーフォーク調のこの曲は、自分の定位置=生きる場所と歌って最新作でも最後を締める。ここでも本編の最後にふさわしい曲となった。
アンコールに応えステージに戻った中田は、奥野のピアノを合図に「誘惑」を歌いだした。焦らすようにねっとりと歌い始めてバンドのジャジーな演奏とともに情感を高め、後半はシャウトぎみに盛り上げる。見事にコントロールされた歌は最後まで緩まない。間奏で平泉のギターソロがスリリングな空気を高めた「UNDO」は、《見知らぬ朝を迎えては 僕らどこへ帰る》と歌うサビが一晩の終わりを告げているようだった。
ギターを手にした中田が言った。「TOUR 18 “Nobody Knows”最終日、大さん橋ホールにお越しくださいまして誠にありがとうございました」頭を下げた彼が後ろを振り返ると、一面ガラス張りのステージ後方のカーテンが開いており、夜の海を進む大きな客船が見えた。
「見える? ロケーションも含め最終日にふさわしい。一緒に過ごしてくれたメンバーに感謝です。この後はすぐにレコーディング。曲はいっぱい溜まってるんで、期待してください」
新たな旅の始まりを告げて最後に歌ったのは「リバースのカード」。アドリブで「横浜!」と歌い込みながら、ツアーのフィナーレを締めくくった。
【取材・文:今井智子】
【撮影:洲脇理恵】
リリース情報
セットリスト
TOUR 18 “Nobody Knows”
2018.7.18@横浜大さん橋ホール
- 1. Nobody Knows
- 2.正体
- 3.ロータス
- 4.KILL YOUR SMILE
- 5.髪を指で巻く女
- 6.女神のインテリジェンス
- 7.BLACK SUGAR
- 8.静かな朝
- 9.春雷
- 10.TERMINAL
- 11.傘はいらない
- 12.むせかえる夜
- 13.CITY SLIDE
- 14.マレダロ
- 15.いばらのみち(椿屋四重奏)
- 16.THE OPERATION
- 17.オールウェイズ 【ENCORE】
- En-1.誘惑
- En-2.UNDO
- En-3.リバースのカード
お知らせ
《中田裕二の謡うロマン街道》新規公演[2018年 秋]
09/15(土)[高崎]少林山達磨寺大講堂
09/22(土)[新潟]新潟県政記念館
10/07(日)[郡山]THE LAST WALTZ
10/14(日)[水戸]Girl Talk
11/17(土)[盛岡]岩手銀行赤レンガ館
11/18(日)[石巻]La Strada
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。