サカナクション Zepp Tokyo 『SAKANAQUARIUM2018“魚図鑑ゼミナール”』
サカナクション | 2018.08.10
このバンドが持っている革新的な音楽性と高いポピュラリティ、その楽曲が00年代以降の日本のバンドシーンに与えた影響の大きさを改めて“復習”できる、大充実の“ゼミナール”だった。
サカナクションの全国ライブハウスツアー『SAKANAQUARIUM2018“魚図鑑ゼミナール”』。今回のツアーは、2018年3月にリリースされた初のベストアルバムとリンクする形で行われた。「メジャーデビュー10周年を迎え、新たなフェーズにバンドが向かうためにこれまでの作品を総括する意味合いでリリースします」(サカナクションの公式HPより)という『魚図鑑』は、これまで発表してきた楽曲を改めて整理し、さまざまな深さ(“浅瀬”“中層”“深海”)を用いてまとめた、まさに図鑑と呼ぶしかない仕上がり。このツアーでもサカナクションは、過去10年の楽曲を俯瞰しながら、自らのキャリア総合的に体現してみせた。
会場に入ると、学校のチャイムが聴こえてくる。開演前のアナウンスも「ゼミナールにおこしに受講生のみなさんに、開校前のご注意を…」と完全に“ゼミナール”モード。19時10分頃、ステージに掲げられた“魚”マークのバックドロップがスクリーンに変わり、「Book of fishes」という題名の図鑑が映し出される。その本がめくられるのを合図にライブはスタート。「-深海-」「-中層-」「-浅瀬-」の3部構成によるステージが繰り広げられた。
第1部は「-深海-」。まずは山口一郎(V/G)以外のメンバー、岩寺基晴(G)、草刈愛美(Ba)、岡崎英美(Key)、江島啓一(Dr)が登場し、アンビエントな雰囲気のインストを響かせる。まさに深海にいるような音像が広がるなか山口が姿を現し、大きな歓声とともにライブが起動。“まるでスローモーションだった/まるで君は夜の海月”というフレーズを持つ「mellow」、部屋の風景と深海の情景がつながる「ヌプトゥーヌス」などのディープかつメロウなナンバーが続けざまに披露される。フォーク、エレクトロニカ、アンビエントが混ざり合う、ゆったりと濃密なグルーヴが会場全体を包み込み、観客も気持ち良さそうに体を揺らす。BPMの速さ/遅さに関係なく、すべての楽曲をダンスミュージックとして成立させる――それがこのバンドの大きな特徴であることが改めて伝わってきた。また、オイルアートを使ったおなじみの演出がアップデートされていたのも印象的。楽曲だけではなく、これまでのライブで行ってきた演出が再現されているのも今回のツアーの特徴だろう。
ステージの前に紗幕が下ろされ、第2部の「-中層-」へ。紗幕に幾何学的なビジュアルが映し出され、“SAKANATRIBE”の文字とともにダンス機能を高めたインストナンバーが演奏される。オーディエンスは当然、「ウォー!」という大きな歓声とともに激しく身体を揺らし始める。「-中層-」は、エレクトロ、テクノとロック、フォークを融合した楽曲――まさにサカナクションのベーシックなスタイルだ――を中心に構成されていた。ライブアンセムとして知られる「ネイティブダンサー」が現代的なダンスミュージックへとリアレンジされていたことも印象的だったが、個人的にもっとも心を揺さぶられたのは「白波トップウォーター」だった。2007年にリリースされたミニアルバム「GO TO THE FUTURE」に収録されたこの曲は、初期のサカナクションの代表曲のひとつ。叙情的なメロディと先鋭的なダンスミュージック、生々しいバンドグルーヴが融合した「白波トップウォーター」が2018年の東京で鳴らされ、オーディエンスを踊らせまくっているシーンは、この10年で成し遂げたサカナクションの成果そのものだったと思う。メンバー個々のスキルの向上により、楽曲のポテンシャルがしっかりと引き出されていたことも記しておきたい。
第3部の「-浅瀬-」では、シングル曲、人気曲が惜しげもなく披露された。「アイデンティティ」では冒頭からオーディエンスの大合唱が響き渡り(「歌える?」と観客に呼びかけた山口だが、あまりにもデカいシンガロングに対して「おお!」と驚いていた)、「ミュージック」ではメンバー5人がステージ前方で横並びなりラップトップで演奏するDJスタイルに変身。サカナクションのパブリックイメージを決定づけた楽曲と演出が前面に押し出され、フロアの熱狂も一気にピークに向かう。“緻密に構築されたアレンジと生々しいバンドサウンド”、“テクノ、エレクトロと日本語の響きを活かした歌”そして“オーバーグランドとアンダーグランド”。両極端の要素を結びつけた音楽性によって、日本のシーンに計り知れない影響を与え、新たな潮流を作り出してきたサカナクション。ド派手なレーザー、パーカッション・パフォーマンスなどを交えた「-浅瀬-」のエンターテインメント性は、このバンドの真骨頂と言っていい。
全19曲をほぼノンストップでつなげた圧巻のパフォーマンスをやり遂げた後、アンコールで山口は観客に向かってゆっくりと話しかけた。久々にライブハウスツアーを回って、観客との近い距離感で演奏し、ステージとフロアが一体化することの楽しさを再認識したこと。次のホールツアーは「新しいアルバムが出たら、ニューアルバムツアー。出てなかったら“魚図鑑ゼミナールツアー”」になること。いま新しい曲を作っていて「いいメロディ、いい歌詞は大前提で、新しい要素を付加したいと思っていろいろ試している」こと。その言葉からは、ベストアルバムを引っ提げたツアーを経て、サカナクションが新たな表現に向かっていることがはっきりと感じられた。
この後サカナクションは、『FUJI ROCK FESTIVAL』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO』などのフェス出演を挟み、10月から全国21か所・24公演のホールツアーが予定されている。前作『sakanaction』以来、約5年ぶりとなるオリジナルアルバムを待ち望まれているが、この日のライブを体感したことで、その期待値は大きく上がってしまった。この先もサカナクションは、常に革新的なバンドであり続ける。そのことが確信できる素晴らしいライブだったと思う。
【取材・文:森朋之】
【撮影:八木咲】
リリース情報
SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around【完全生産限定プレミアム BLOCK】
2018年07月25日
ビクターエンタテインメント
02.M
03.アルクアラウンド
04.夜の踊り子
05.Aoi
06.シーラカンスと僕
07.壁
08.ユリイカ
09.ボイル
10.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
11.夜の東側
12.三日月サンセット
13.SORATO
14.ミュージック
15.アイデンティティ
16.多分、風。
17.ナイトフィッシングイズグッド
18.サンプル
19.ネイティブダンサー
20.目が明く藍色
(特典映像)
Behind the scenes of SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around
お知らせ
SAKANAQUARIUM2018-2019 魚図鑑ゼミナール
〈2018〉
10/06(土) [茨城]茨城県立県民文化センター 大ホール
10/08(月・祝) [福島]いわき 芸術文化交流館 アリオス 大ホール
10/14(日) [石川]本多の森ホール
10/20(土) [山梨]コラニー文化ホール 大ホール
10/26(金) [新潟]新潟県民会館
11/02(金) [三重]三重県文化会館 大ホール
11/06(火) [栃木]宇都宮市文化会館 大ホール
11/13(火) [埼玉]大宮ソニックシティ 大ホール
11/16(金) [岐阜]長良川国際会議場 メインホール
12/12(水) [和歌山]和歌山市民会館 大ホール
12/13(木) [奈良]なら100年会館 大ホール
12/22(土) [山形]シェルターなんようホール(南陽市文化会館)
12/23(日) [岩手]盛岡市民文化ホール 大ホール
〈2019〉
01/12(土) [北海道]札幌文化芸術劇場hitaru
01/13(日) [北海道]札幌文化芸術劇場hitaru
01/19(土) [島根]島根県民会館 大ホール
01/20(日) [山口]周南市文化会館
01/27(日) [香川]レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
01/31(木) [福岡]福岡サンパレス
02/01(金) [福岡]福岡サンパレス
02/05(火) [神奈川]神奈川県民ホール 大ホール
02/06(水) [神奈川]神奈川県民ホール 大ホール
02/15(金) [佐賀]佐賀市文化会館
02/16(土) [熊本]市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO
08/10(金) [北海道]石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
RUSH BALL 2018 20th Anniversary
8月25日(土) [大阪]泉大津フェニックス
SWEET LOVE SHOWER 2018
9月1日(土) [山梨]山中湖交流プラザ きらら
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。