前へ

次へ

Shout it Outにとって最初で最後となったワンマンツアーセミファイナル公演を完全レポート

Shout it Out | 2018.08.24

 始まりがあれば、終わりも必ずやってくる。それがこの世の理で、バンドもその例外ではない。長く続くことはとても素晴らしいけれど、たった一瞬の煌めきが何より美しいことだってある。始まって終わる、ただそれだけ。そこに正解も間違いもない。Shout it Outが選んだ解散だって、きっとそうだ。それが彼らの必然ならば四の五の言わずに見届けるしかない--などと、なんとか達観に近い気持ちを保って会場に足を運んだわけだが、この日、客電が落ちてから終演のBGMが流れるまで彼らが繰り広げた全力疾走の2時間弱は、こちらの勝手な感傷を根こそぎ覆して痛快な、実にShout it Outらしいステージだった。

 Shout it Outにとって最初で最後となったワンマンツアー“1st ONEMAN TOUR「嗚呼美しき僕らの日々」”、その全10公演中9公演目、すなわちセミファイナルの地となったのは東京・マイナビBLITZ赤坂。ツアー最終日の渋谷duo MUSIC EXCHANGEが早々にソールドアウトとなったため、急遽、その前日に組み込まれた追加公演であり、Shout it Out史上もっともキャパシティの大きい会場だ。解散を目前にしてなお、新たな可能性に挑む姿勢やよし。直撃が心配された台風も奇跡的に逸れ、天候までもがShout it Outのラストスパートを応援しているように思えてしまう。

 開演予定時刻を5分ほど過ぎ、今ツアーを共に旅した鈴木陸生(Gt / ex.赤色のグリッター)、谷川将太朗(Ba / Rocket of the Bulldogs)をサポートメンバーに率いていよいよ姿を現わした彼ら。登場SEがRCサクセション「雨あがりの夜空に」だというのも気が利いているではないか。大歓声の中、細川千弘(Dr)のもとにメンバーが集まり、円陣を組む。直後、ギターのハウリング音が場内をつんざくと同時に、バックドロップに照明が当たって“「嗚呼美しき僕らの日々」”の文字とバンド名が黒地に白く浮かび上がった。そうして迸った1曲目「道を行け」のなんと太くて雄々しいこと! のっけから湿っぽさなど一滴も寄せつけない、タイトルそのまま“我が道を行く”アンサンブルにオーディエンスの拳もザンザンと突き上がる。山内彰馬(Vo & Gt)がサビで朗々と歌い上げる“♪死んでくれるなよ青い春”のフレーズが今日ほど胸に迫ったことはない。彼らは瞬間瞬間、常に青春を生きていて、こうして終わりが迫ろうともまるで色褪せることはなく、むしろいっそう青々しい。一方で、その青さが目に沁みれば沁みるほど、だからこそ終わるのだと思い知らされもする。

「“「嗚呼美しき僕らの日々」”、セミファイナルです。赤坂BLITZ、僕らがワンマン(ライブを)してきた中で飛び抜けてデカいキャパシティに来れました。ありがとう。デカいからって何をするわけじゃないんですけど、さすがにこれだけの人が目の前にいるとテンション上がりますわ。全員で楽しんでいきましょう」

 続けざまに「17歳」「青年の主張」「あなたと、」と序盤をフルスロットルで駆け抜けて、山内はそう客席に告げた。飄々と不敵な口調が却って内に秘めた熱量の高さを物語っているようで面白い。

 「青」や「風を待っている」「花になる」といった昔からの楽曲もあれば、「髪を切って」や「さよならBABY BLUE」といった最新ミニアルバム『また今夜も眠れない僕らは』に収録の楽曲など、新旧織り交ぜて構成されたセットリストはShout it Outの成長を如実に感じさせるのと同時に、どの時代にも共通する曲そのものの良さを改めて聴き手に印象づけるものでもあった。今ツアーが短期間に集中して行なわれたことも功を奏しているのだろうが(細川のMCによればこの日の前日まで出突っ張りで一度も東京に戻らなかったという)、サポートメンバーとのぴったり息の合った演奏もその“良さ”を存分に引き出し、また、“バンド”としてのShout it Outを存分に味わわせてくれたと思う。何より2人がサポートメンバーを信頼し、心からライブを楽しんでいるのが表情ひとつからもよくわかった。コーラスで山内を支えながら、サウンドを牽引する細川のドラムはこれまでにも増してダイナミックかつ盤石にリズムをキープしていたし、アンサンブルにまるで不安がないからこそ山内のパフォーマンスもかつてないほどのキレと爆発力を発揮できたに違いない。おそらくバンドとしての仕上がりは過去最高で、正直なところ、これで終わってしまうのはもったいない、もっともっと観ていたいと願ってしまったほどだ。

「このツアー中、僕らはずっと“今がいちばん楽しい”って言いながらやってたんですけど、昨日、改めて振り返ってみたら“楽しい”じゃないなって思ったんです。楽しいは楽しいんだけど、それ以上に“うれしい”。ワンマンツアーを初めてこのバンドでできて、新しいサポートメンバーと回らせてもらって、こうして赤坂BLITZでもやれて。俺は、そんなバンドでドラム叩いてるんだと思ったら、すごくうれしくなりました。このバンドは俺の自慢です」 

 ライブの折り返し地点に来たところで、晴れやかに語る細川。さらに、これまでバンドをバックアップしてくれたすべての人への感謝を口にする。そんな一点の曇りもない笑顔を見せられたら、やっぱりこれでいいんだと納得せざるを得ないじゃないか。その後、山内が「2年前ぐらいに遠くに行った友達がいるんですけど、そいつに向けて書いた曲を、2年経った今、全然違う気持ちで歌います」と言葉を続けて「これからのこと」を披露。山内の弾き語りからスタートしたこの曲の一語一句がもれなく響き、バンドの演奏が合流するや、エモーションが沸騰する。これはShout it Outへの訣別の意志であり、これまでを分かち合ってきた目の前のファンに宛てた慈しみ、そしてこの場にいる全員の未来に送るエールでもあっただろう。きっぱりとこの先に向けられた山内の目、彼の背中をずっと見守り続けた細川も同じく前だけを見ていた。

「雨上がりの赤坂の空にも今夜もまた眠れない夜が訪れて。君は独りじゃないよなんて嘘をつくヤツがいて、俺たちはいつも独りぼっち。独りぼっちがこんなに集まれば赤坂の空の下にこんな夜が作れるんや。なあ、赤坂。今夜もまた僕らの真上に眠れない夜が訪れるならば、独り同士、ここで一緒に朝を待とう」

 柔らかくギターを掻き鳴らしながら、詩を読むように山内が言葉を紡ぐ。嵐の前の静けさか、と思う間もなく演奏は最新ミニアルバムの表題曲「また今夜も眠れない僕らは」になだれ込んだ。火がついたように暴れ倒すフロント3人。谷川は転倒上等な勢いでベースを抱えたままダッシュ、山内も噛みつかんばかりに猛ってはすべてを吐き出さんばかりに歌い叫ぶ。放課後の瑞々しい空気感をめいっぱいはらんだ「アフタースクール」が、青春は終わること、でも胸の中にずっと残って消えないことを教えてくれるかのようだ。気づけば、ふだんのライブハウスの何倍も広い赤坂BLITZのステージがすっかり彼らの身の丈にそぐうものになっている。フロアいっぱいにクラップが轟いた「光の唄」、山内の渾身のシャウトに鈴木のシャープな旋律が興奮をどこまでも吊り上げた。ラストは「鳴り止まない」、『また今夜も眠れない僕らは』の1曲目を飾る曲が本編を締めくくる。「終わりがあるから美しいなんて、そんなバカな話があるかよ。今を死ぬ気でやってるから、こんな素晴らしい日々がある」、タイトルコール前に放った山内の言葉を受け止め、身を以て証明するがごとく全力で腕を振り上げては大合唱するオーディエンス。かけがえなく“美しき今”がここに鳴っていた。

 アンコールの「青春のすべて」も終わって、メンバーがステージを降りても、場内が明るくなっても、音楽が流れ始めても、フロアからは誰ひとり動こうとしなかった。ただ一心に彼らが戻ってくることを願い、止まない手拍子。時間にすれば3、4分ほどだったが、どれだけ長く感じられたことだろう。すると三たびステージに明かりが灯った。出てくるなり、スタンドからマイクを引っ掴む山内。細川がシンバルを打ち鳴らしたのを合図に再びの「また今夜も眠れない僕らは」が堰を切った。ギターなしのハンドマイク状態で歌を吐く山内の、ロックスター然とした身のこなしにオーディエンスが熱狂しないわけがない。そうして、ついに山内は背中から客席にダイブ。たくさんの腕に支えられながら、仰向けのまま歌い続けるその勇姿たるや。

「大阪・堺、Shout it Outでした。また会いましょう!」

 徹頭徹尾、彼らの口から“解散”も“最後”というワードも出てこなかった。純然とワンマンツアーのセミファイナルをやりきって、明日に臨むだけなのだ、きっと。Shout it Outとしての最終日でもある明日は、どんなライブになるのだろう。そして次に会うときは二人がそれぞれ携えているだろう新しい音楽はどんなふうに響くだろう。できるだけ早く、彼らの新しい日々に新しい陽が昇らんことを今は楽しみに待つだけだ。

【取材・文:本間 夕子】
【撮影:佐藤広理 】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル Shout it Out

リリース情報

また今夜も眠れない僕らは

また今夜も眠れない僕らは

2018年07月18日

ポニーキャニオン

1.鳴り止まない
2.アフタースクール
3.髪を切って
4.さよならBABY BLUE
5.また今夜も眠れない僕らは

トップに戻る