人間椅子、ツアーファイナルO-EASTでバンドの真髄を見せつけた夜
人間椅子 | 2018.09.26
「レガシー・オブ・人間椅子」と評したくなる濃厚過ぎるライブだった。自らの足跡を丹念に辿りながら、ふと奥の細道に分け入り、長らく埃を被っていた楽曲に光りを当てることで人間椅子の"真髄"をつまびらかにする。ファン心理の急所を突くような選曲の数々に、満杯に膨れ上がった会場は異様な熱気に包まれた。その意味では今年4月にリリースされた初のミュージックビデオ集『おどろ曼荼羅』に伴うツアーの延長線上に位置する内容と言ってもいいだろう。
「恩讐の彼方~人間椅子 2018年 晩夏のワンマンツアー」と題された全国8公演に及ぶツアー最終日(この日はニコ生でライブの模様が生中継された)。SE「比岸御詠歌」が流れると、和嶋慎治(Vo/G)、ナカジマノブ(Dr/Vo)、鈴木研一(Vo/B)とステージに姿を見せ、記念すべき1stアルバム『人間失格』からリフレインも不穏な「鉄格子黙示録」で本編スタート! それから6thアルバム『無限の住人』から「晒し首」に移行すると、シンプルなリフ、情景がありありと浮かぶ歌詞、キャッチーなコーラス、味わい深いギターソロと人間椅子の旨味をこれでもかと突きつける。「お仕事で疲れている中、集まっていただき、ありがとうございます。「晒し首」は15年ぶりぐらいにやった。今日はいつもはやらないレアな曲をたっぷり用意してます!」と鈴木が言うと、その言葉を受けるようにH・P・ラヴクラフトにインスパイアされた「時間からの影」へ。ディープな世界観に観客をグッと引きずり込み、フィジカルよりもメンタルに訴えかける3人の繊細なアンサンブルに酔いしれる。
「夜間飛行」に入ると、ステージには世界初の電子楽器テルミンが置かれ、和嶋はそれを器用に操作する。LED ZEPPELINの「Whole Lotta Love」でも使われている同楽器は、空間中の手の位置によって音程や音量を調整できる仕組み。その手捌きはさながら魔術師のようで、そこから放たれるスペーシーな音色に観客も大盛り上がり。一転して、和の雰囲気が匂い立つ「品川心中」をプレイ。古典落語をモチーフにした楽曲ゆえに、曲の後半に和嶋が落語を披露するくだりもあり、生で聴くと迫力満点であった。鈴木が和嶋のギターについて「日本でただ一人の津軽三味線ギター、もう1曲聴ける曲がある」と丁寧に説明を加えた後、インディーズ期に発表した5thアルバム『踊る一寸法師』から「どだればち」を披露。全編津軽弁を用いた歌詞を鈴木が歌い上げ、「あら、どしたぁ~♪」の合いの手コーラスも極上のフックとなり、さらに和テイストを含むブルージーなギターも絶品である。人間椅子の土着性が遺憾なく発揮された曲調に多くの人が狂喜乱舞していた。
「酒に溺れていた時代があった。花壇で寝てしまい、死んだと思った。苦しかった時代の曲」と和嶋が切々と語ると、次は「野垂れ死に」へと繋ぐ。重厚なヘヴィ・リフは当時の苦悩が滲み出ているのかと思うと、確かに胸に迫るものがあるではないか。加えて、和嶋が曲中に吹くハーモニカも哀切に響く。そんな感傷に浸る一方、若い男の子二人組が揃ってヘドバンする姿も見かけられ、音楽は悲喜こもごもの感情すべてが強烈なスパイスになることを改めて痛感。
再びH・P・ラヴフラクトの小説を取り上げたシアトリカルな「ダンウィッチの怪」をプレイ。この曲も15年ぶりぐらいに演奏したらしく、中盤過ぎにナカジマが真横を向いてカリンバ(親指ピアノ)を弾くパートも良かった。そして、現時点での最新曲「命売ります」を投下。ヘヴィ、パワフル、キャッチーの三拍子揃った名曲であり、フロアのテンションもグッと上がっていく。その高まった温度を「心の火事」、「黒猫」がしっかりと受け継ぎ、ショウも後半戦に突入だ。そこでナカジマが「レア曲満載の中でみんなと一つになれる曲!」と煽ると、自らリード・ヴォーカルを務めるRAINBOW風味の「悪夢の添乗員」が炸裂。アッパーな曲調でさらに焚き付けると、観客の笑顔は一気に広まっていく。そうなると、場のムードも右肩上がりに上昇するばかり。
イントロが始まった瞬間にワッと盛り上がった「地獄の球宴」、「雪女」を経て、イブシ銀の英ハードロック・バンドであるBudgieの日本語歌詞カヴァー「針の山」で本編ラストを締め括る。やはりこの曲はメンバーもいちロック・ファンに戻るのだろうか、和嶋はステージ上で子供のごとくピョンピョン飛び跳ね、観客も今日イチの大熱狂ぶりで楽曲を迎え入れていた。
この時点で既に2時間に迫る演奏時間だったが、まだまだ終わらない。むしろここから盛り上がりは加速の一途を辿る。アンコールに応えると、これまたレアな「辻斬り小唄無宿編」を披露、津軽三味線ギターが火を吹く。続く「地獄のヘビーライダー」ではヘッドライトとハンドルだけで構成された改造バイク(?)を鈴木が握りしめるパフォーマンスがあり、また、ナカジマは人間椅子のフラッグを振るなど、視覚的にも楽しませてくれる新たな演出も見られた。これはJUDAS PRIESTのロブ・ハルフォード(Vo)が「Hell Bent For Leather」のライブ時にハーレー・ダヴィッドソンに股がって登場するお約束のシーンがあるのだが、それに対する人間椅子なりのオマージューだろう。鈴木は本公演のライブ後の挨拶の際に同曲が収録されたアルバム『KILLING MACHINE』のジャケTシャツを着ており、筆者はニヤリとした。
最後は和嶋が「ゴッドファーザーのテーマ」のフレーズを弾いて締め括り、これで終わりかと思いきや、Wアンコールで「なまはげ」まで飛び出す大盤振る舞い。約2時間半に及ぶ長尺ライブとなったものの、エンタメ性にますます磨きをかけた内容に時の流れを忘れてしまうほど。
来年、人間椅子はデビュー30周年という大きな節目を迎える。それにあたり、和嶋から「オリジナル・アルバムを作る。かつて聴いたことがない、恐ろしいアルバムを作ります!」という嬉しい発言もあった。今日の素晴しいライブを目の当たりにして、ニュー・アルバムに対する期待は膨らむばかりだ。
【取材・文:荒金良介】
【撮影:堀田芳香】
リリース情報
おどろ曼荼羅~ミュージックビデオ集~
2018年04月04日
徳間ジャパンコミュニケーションズ
02. 夜叉ヶ池(1991)
03. ギリギリ・ハイウェイ(1995)
04. ダイナマイト(1995)
05. 幽霊列車(1999)
06. 怪人二十面相(2000)
07. 見知らぬ世界(2001)
08. 東洋の魔女(2003)
09. 洗礼(2004)
10. 品川心中(2006)
11. 浪漫派宣言(2009)
12. なまはげ(2014)
13. 宇宙からの色(2014)
14. 恐怖の大王(2016)
15. 虚無の声(2017)
16. 命売ります(2018)
セットリスト
『恩讐の彼方~人間椅子2018年晩夏のワンマンツアー』
2018 .9.7 @TSUTAYA O-EAST
■ SET LIST プレイリスト(spotify)
- 1. 鉄格子黙示録
- 2. 晒し首
- 3. 時間からの影
- 4. 夜間飛行
- 5. 品川心中
- 6. どだればち
- 7. 野垂れ死に
- 8. ダンウィッチの怪
- 9. 命売ります
- 10. 心の火事
- 11. 黒猫
- 12. 悪夢の添乗員
- 13. 地獄の球宴
- 14. 雪女
- 15. 針の山 【ENCORE1】
- EN.1-1. 辻斬り小唄無宿編
- EN.1-2. 地獄のヘビーライダー 【ENCORE2】
- EN.2-1. なまはげ
お知らせ
2マンシリーズ2018~炎のねるとん3本勝負~
09/27(木)高円寺HIGH
大冠祭2018
09/30(日)CLUB CITTA
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。