11月14日リリースの新曲も初披露。ハルカトミユキ、バンドツアー初日をレポート
ハルカトミユキ | 2018.09.28
ハルカトミユキの『解体新章』バンド・ツアーが、9月15日に東京・渋谷クラブクアトロで初日を迎えた。春に同じタイトルで2人だけのツアーを行っていたが、いよいよバンドと共に回るツアーだ。その意気込みは、シックな黒のカシュクール・ブラウスを着たハルカと、鮮やかなグリーンのシャツにオレンジのネックレスを合わせたミユキが、バンド・メンバーに続きステージに登場した瞬間から伝わってきた。そしてギターを手にしたハルカが「解体新章へようこそ」と短く挨拶をして「世界」と曲名を告げ、ツアーが幕を開けた。
軽やかに始まった「世界」をオーディエンスは腕を高く上げて受け止め、ハルカが「歌ってください」と声をかけると大きなコーラスが起こった。そんな空気を吸い込んで、バンドの演奏と歌が小気味良い起伏を生み出した「バッドエンドの続きを」、スピード感のある演奏にオーディエンスがハンドクラップで呼応した「DRUG&HUG」と続くうちに、フロアとステージはひとつになっていった。歌い終わるとハルカが言った。
「『解体新章』バンド編初日、渋谷クラブクアトロ、今日は来てくれてありがとうございます。『解体新章』ということで、今日はみなさんの心を解体しにやってまいりました。ハラワタさらけ出して歌います。どうぞ思う存分解体されていってください!」
そう言えば会場の入り口に、トルソー型人体解剖模型がオブジェのように置いてあった。このツアー・タイトルが18世紀に日本で初めて翻訳された医学書「解体新書」に由来していることは言うまでもなく、いわゆる“腹を割った”ところで歌いたい聴いてほしい、という思いがこのタイトルになったのだろう。そんな腹をくくった姿勢はこのライブの幕開けから確かに伝わっていた。だからこそ、オーディエンスとステージが自然とひとつになっていたのだが、これはまだ序の口。ここから本気のハルカトミユキを体験することになる。
落ち着いたテンポで程よいテンションを保った「ドライアイス」は曲が進むほどに広がりを感じさせる歌となり、「Vanilla」は良く通るハルカの歌声がしっかりとシュールな歌詞を伝え、聴かせる力を感じさせた。ミユキの弾くピアノが引き締まった空気を作った「WILL」は、繰り返される“存在”という言葉がイメージを広げ、じわじわと五臓六腑を探ってくる。張り詰めた空気の中でハルカが曲名を告げた「その花の名前は」は年初のツアーで披露されたものだが、アレンジも緻密になり完成度を上げている。ここでバンド・メンバーが静かにステージを降り、ミユキがピアノを弾き始めた。ハルカが歌い出したのは「手紙」。
したためた言葉に込めた思いを淡々と歌いながらハルカは、腕の動きで言葉からはみ出した思いを、感情を描き出す。細やかな表現を見ていると、彼女が舞台女優としても経験を積んでいることと重なって、表現者として深いところを探っているのだと思い知った。それを確信に近づけたのは、続けて披露された、まだタイトルもない曲だ。ミユキのピアノが抑えた音を奏でる中でハルカはポエトリーリーディングを始めた。新宿あたりの情景に思い出を重ね、過去と現在がすれ違う。やがて言葉は歌になり、ピアノも消えて2人の声だけが響く。透き通ったハーモニーは現実とも夢ともつかない。無音となって張り詰めた空気を力強い拍手が切り裂いた。
「ありがとう。もう1曲2人だけでやりたいと思います。『解体新章』2人だけの弾き語りツアーでやった、そのために作った曲です」とハルカが告げて始めた曲は「日々だった」。気にとめることもない日常の、ちょっとしたことの積み重ねが、過ぎ去ってしまえばどれほど大切だったのか、ハルカは細やかに歌っていく。それは昨日別れた人のことのようでもあれば、この世を去った人のことのようでもある。サラダ記念日のように日常を特別に仕立てることもできるが、そんなことをするまでもない日のほうが人生には多いのだ。そしてその積み重ねこそが人生。そんなことを思わせる歌だ。細々した日常を歌にするとこじんまりしがちなものだが、それを凌駕するこうした曲にハルカトミユキの真骨頂はあるのかもしれない。
「それではバンドメンバーを呼びたいと思います」とハルカが声をかけて、ひとりずつステージに呼び込んだ。「ドラム、キッド(城戸紘志)、ベース、スナパン(砂山淳一)、ギター、ヨーイチロー(野村陽一郎)」とニックネームで紹介するあたり、もう何回もステージを共にしている彼らへの信頼があふれている。呼び込まれてアピールしながらポジションにつく彼らからも、ハルカトミユキへの愛情が伝わって来る。ここでミユキが話し始めた。
「4月に2人編成で回って、実験的に新曲をどんどんやっていったわけです。バンドに負けたくないと思って、いろんな曲をやって、お客さんにどの曲が良かったか訊いたら、どれも良かった、みたいな感じで。その時に、今のハルカトミユキのファンは、何でも受け止めてくれるんだって(観客から笑いが起こる)。だったら、好きにやったほうがいいんだなって、すごい自信になって、曲作りを始めたんです。それでできたのが、最近できた新曲。やりたいことをやるのは、それはそれで大変で結構ヤバかったんだけど、かっこいいのができたので、たくさんの人に聞いてもらいたいと思っています」と長くなりそうなミユキのMCをハルカが受けて「じゃあ8月31日に先行配信になった曲、今日が初めてバンドでやるよね?」とドラムのカウントから入った「朝焼けはエンドロールのように」。ちょっとセツナ系のメロディと、切実に孤独に向かう歌が生む緊迫感はハルカトミユキならでは。終盤のコーラスも秀逸だ。
大きな歓声の中で曲は進み「永遠の手前」に。起伏に富んだ演奏が曲を引き立てる。続く「マネキン」ではミユキがウイッグ売り場にあるようなマネキンの頭部を持ち出して振り回し、ハルカに受け渡し「近眼のゾンビ」に。ハルカは拡声器を持ってラジオボイスで叫び、ギターを肩にかけたミユキはステージ狭しと駆け回る。かと思うと2人は照明用のライトを手にして客席やメンバーを照らしと、好き勝手し放題。このカオスもまたハルカトミユキだ。シニカルな歌詞をスラリと歌うハルカにオーディエンスが盛り上がった「インスタントラブ」はミユキがハンドクラップを煽り、「トーキョーユートピア」はオーディエンスの手拍子が先走る。勝ち組だの負け組だのと振り分ける無意味さを歌う「ニュートンの林檎」はイントロからオイコールが起こり、オーディエンスとひとつになって高揚感が生まれた。
アンコールに応えたハルカトミユキは、早くも12月から1月にかけて、2人でのツアーを行うこと、そして彼女らのデビュー日である11月14日に新しいシングルがリリースされることを発表。そこに収録されるアニメ『色づく世界の明日から』オープニングテーマとして書き下ろした「17才」をハルカは「脚本や絵コンテを見て、“少女はむかし、自分に魔法をかけた。わたしは幸せになってはいけない”というフレーズに、これは私が歌いたい、私が歌える、私のような気がすると、不思議な縁を感じて書きました」と思いの強さを吐露。その直感を綴った歌はストレートに伝わるものになっていた。フィナーレは2人の美しいコーラスから始まる「夜明けの月」。深まっていく夜を照らす月に、2人はなってくれたのだった。
【取材・文:今井智子】
【撮影:山川哲也】
リリース情報
17才
2018年11月14日
SMAR
02. 朝焼けはエンドロールのように
03. タイトル未定
04. 17才(別ver.)
セットリスト
2018 BAND TOUR『解体新章』
2018.09.15@渋谷クラブクアトロ
- 01.世界
- 02.バッドエンドの続きを
- 03.DRUG&HUG
- 04.ドライアイス
- 05.Vanilla
- 06.WILL
- 07.その花の名前は
- 08.手紙
- 09.タイトル未定
- 10.日々だった
- 11.朝焼けはエンドロールのように
- 12.永遠の手前
- 13.マネキン
- 14.近眼のゾンビ
- 15.インスタントラブ
- 16.トーキョーユートピア
- 17.ニュートンの林檎 【ENCORE】
- EN 01.17才
- EN 02.夜明けの月
お知らせ
2018/12/02(日)shibuya 7thFLOOR
2018/12/03(月)shibuya 7thFLOOR
2018/12/07(金)名古屋ハートランド
2018/12/23(日)代官山LOOP (昼/夜公演)
2019/01/05(土)HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
2019/01/13(日)shibuya 7thFLOOR
2019/01/14(月祝)shibuya 7thFLOOR
2019/01/26(土)阿倍野ROCKTOW
2019/01/27(日)京都MOJO
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。