くるり アルバム『ソングライン』を携え10月8、9日の中野サンプラザ公演
くるり | 2018.10.23
帰路、くるりのこの日のセットリストが頭のどこかに引っかかっていた。
この日はニューアルバム『ソングライン』をアルバム丸々一枚、頭から曲順通りにプレイされ、以降は同作以外の曲たちでライブを締めた。事後、気になったのは『ソングライン』以外の選曲であった。その日プレイされたそれらの曲たちにどこか偏りを感じていたのだ。
ライブ中のMCでメンバーから「たまにはここ最近全然ライブで演ってない曲を演りたくなる。今日はそれを演ります」との注釈はあった。しかし他にも何か意図があるような気がする…。早速帰宅後すぐに彼らの中野サンプラザでのライブの歴史を色々と調べてみた。やはりそうだ!!この日は上述の『ソングライン』のゴージャスな編成でのリプレイのみならず、彼らがサンプラザに立った年毎の作品からの楽曲や初めて立った2002年の際にプレイされた曲たちで構成されていた。これらも踏まえ、この日はレコ発に加え、間もなく姿を消すこの中野サンプラザへのトリビュートも込められた一夜のようにも今の私には映っている。
くるりがアルバム『ソングライン』を携え10月8、9日に中野サンプラザにてワンマンライブを行った。この2日間はメンバーである岸田繁(Vo.&G.)、佐藤征史(B.&Cho.)、ファンファン(Tp&Cho.)の3人に加え、ここ最近のスタイルでもある、2人のギタリスト松本大樹と山本幹宗、ドラム/パーカッションの朝倉真司、キーボードの野崎泰弘、そして今回は更にマニピュレーター、トロンボーン、サックス/フルート、ヴァイオリン、チェロも加わり総勢12人で行われた。以下は2日間のうち8日のレポートだ。
SEが流れると同時にステージ後方の幕が開きスポットライトに照らされた「songline」の巨大立体文字オブジェが現れる。そんななか12人のメンバーがステージに登場。「くるりです。総勢12人でお送りいたします。最後までゆっくりお楽しみください」と岸田の言葉を呼び声に、ニューアルバム同様、「その線は水平線」でライブは動き始めた。夜明けのようにゆっくりとアーシーに闇を切り裂いていくかの如く力強く進んでいく同曲。間に入り込むファンファンのトランペットも雄々しい。その音や歌が徐々に生命力を帯びていき、まるでしみ込むが如く会場中に広がっていく。続いて牧歌的な「landslide」に入るとマンドリンやチェロ、ヴァイオリンの弦楽器のアンサンブルが映え出す。佐藤もウッドベースに持ち替え、朝倉もカホンに切り替え、その牧歌さを更に広げていく。対して「How Can I Do?」ではホーン隊が映え、歌われる♪歩き出せるよ いつかきっと いつかきっと 夢見た場所で♪が、集まった者たちの背中を優しく押してくれた。
ここで一呼吸。「改めましてくるりです。元気?俺はまあまあ元気や」と岸田。「中野サンプラザが解体されるから、これが最後になるかも」と感慨深く佐藤が続ける。「沢山の人に来てくれたので、こちらも沢山のメンバーで立ち向かいたい」とメンバー全員を紹介しライブに戻る。
作品同様、ビールの栓を抜く音から始まった「ソングライン」が場内にブルースフィールを満たしていく。同曲の♪所詮 君は 独りぼっちじゃないでしょう 生きて 死ねば それで終わりじゃないでしょう♪のフレーズはライブでも印象的だ。間奏中は岸田もビートに乗り身体をたゆたわせている。永遠に続いていきそうなアウトロではグングンジワジワとサイケデリックな高揚感が身体を包み、それに比例するようにステージバックの白色ライトも光量を上げステージをホワイトアウト化させていく。
そう、ニューアルバム『ソングライン』はアウトロの長い曲も多く収録されていた。それは=自由でフリーフォームとも捉えられ、そこでは聴く者が余韻を楽しんだり、イマジネーションを膨らませたり、惹き込まれたりと、楽しみ方の自由度を上げていた。そして、続く「Tokyo OP」では、それに輪がかかるように、さらに「どこまでいっちゃうんだよ~」感が増す。アルバム中でも白眉感のあった同曲。今春のツアーでも体感したのだが、今回はホーン隊も強調され、同曲特有のスペクタクルさとどこまで行くんだ感は作品以上のものがあった。
ピンスポの当たった岸田のギターアルペジオから「風は野を越え」に入ると、夢が群青の夜空を駆け回り、野を超え平原を超えた風が会場に吹き込まれ、また、岸田のアコギの歌い出しからの「春を待つ」では、松本、山本のユニゾンツインリードが作品以上の臨場感を味合わせてくれた。
岸田がハンドマイクにて短い小曲「だいじなこと」を歌い、それを経た「忘れないように」ではポップで弾んだ雰囲気が場内に呼び込まれる。また、再びカントリー調のシャッフルさが牧歌性を寄与した「特別な日」では朝倉もカホンに替え、フルートが醸し出す涼しさが楽曲の描く上景観とマッチを魅せる。そして、間にエレガントな野崎によるピアノソロも交えられた「どれくらいの」ではアウトロが半端なく凄く、開場がグイグイ惹き込まれている様を見た。
長い旅を終えるように、このブロックの帰着点は作品同様「News」に行き着いた。色々なものに想いを馳せさせながらも安堵感を与えてくれる同曲。様々な想いを経たが故の長い旅の終わりには、例えようのない温かさが待っていた。
ここで『ソングライン』全曲リプレイのブロックは終わる。とは言えまだまだライブは続いていく。ここからは『ソングライン』以外の楽曲、それも意外性を多分に帯びた曲たちが次々に現れた。「Falling」が松本の力強いギターカッティングと8ビートにて再びライブを走り出させれば、松本とファンファンのフレーズの掛け合いイントロから入った「Liberty&Gravity」では、時折差し込まれる♪ヨイショッ! アーソレ! ガッテンダ! ♪の掛け声が会場を活気づかせる。また、短いながらも多量の情報が詰まった「chili pepper japones」では再びストリングスとホーンズも加勢。盛り上がりの火に油を注ぐ。対して「taurus」では、その持ちまえの前進感が会場の気持ちをわずかながらブレイブされてくれ、その気持ちを保ちながら入った「さよならリグレット」でも、歌われる♪また会う日を 夢見てもう一度 もう一度♪が今となっては、終演に向けてと、間もなく別れを告げるこの中野サンプラザへのレクイエムの2つの意味が含まれていたようにも感じられる。そして本編最後は「また会いましょう」との約束とこれからもみんなの歌をうたい続ける宣言のように、この陣営ならではの急展開部での惹き込みも特徴的だった「ブレーメン」が歌われた。
アンコールは3曲。いま思えば、どれもがこの中野サンプラザに向けてのレクイエムだったようにも思える。岸田、佐藤、ファンファン、朝倉、野崎のみでプレイされた「太陽のブルース」では、どんな想い出も、いつかは途切れ途切れになり、ついには忘れ去られてしまう真理の寂しさを歌いつつも、振り返るな前はこっちだと力強く呼びかければ、6/8の「虹」が、これまた力強く会場いっぱいに、「でもそれでも行くのだ!!」と言わんばかりに会場中に同曲を放った。また、この「虹」ではあえて2人のギタリストを抑え、岸田が渾身の気持ちの込もった長い小節のギターソロも披露された。
「また中野の立ち飲み屋でお会いするかもしれませんが、どこかでお会いしましょう」と岸田。正真正銘のラストは、松本、山本とマニピュレーターの毛利泰士も加わり「ロックンロール」が誇らしげに神々しく放たれる。これからも歩き続ける我々を勇気づけるように背中を押してくれるかのように轟いた同曲。会場中も総立ちの中、ここでもあえてギターソロを任された岸田の雄姿を見た。
『ソングライン』はダイナミズムがありながらも、非常に音の手触りや感触、鳴りや響きにこだわられた作品であった。そして、それを改めて身体全体で実感させてくれたライブであった。そう考えると、今回の作品のリプレイは、やはりこの会場の音響や距離感がぴったりだったと今ふりかえってつくづく思う。と、同時にあえて今回、この場所でのみ、全曲そのまま演られた意味や意義も汲み取ることが出来た。
また、くるりのようなダイナミズムといい音を両立させられるバンドを、このようなホールで観てみたい。と、改めてこのような空間の必要性を痛感した。
くるりはまた、自分たちの音を最適な環境で鳴らせ、響かせ、聴かせ、届かせていくべき「新たな場所」を私たちに用意してくれ、またそこにて「ホームグラウンド」と呼べるぐらい繰り返しライブを行ってくれるに違いない。そう、自分たちの音楽をキチンと最適な環境で伝える。それが彼らのスタイルであり信条なのだから。
【撮影:神藤 剛】
【取材・文:池田スカオ和宏】
リリース情報
ソングライン
2018年09月19日
ビクターエンタテインメント
2. landslide
3. How Can I Do?(Album mix)
4. ソングライン
5. Tokyo OP
6. 風は野を越え
7. 春を待つ
8. だいじなこと(Album mix)
9. 忘れないように(Album mix)
10. 特別な日(Album mix)
11. どれくらいの
12. News
セットリスト
くるりのワンマンライブ2018
2018.10.8@中野サンプラザ
- 1.その線は水平線
- 2.landslide
- 3.How Can I Do?
- 4.ソングライン
- 5.Tokyo OP
- 6.風は野を越え
- 7.春を待つ
- 8.だいじなこと
- 9.忘れないように
- 10.特別な日
- 11.どれくらいの
- 12.News
- 13.falling
- 14.Liberty&Gravity
- 15.chili pepper japones
- 16.taurus
- 17.さよならリグレット
- 18.ブレーメン 【Encore】
- En-1.太陽のブルース
- En-2.虹
- En-3.ロックンロール
お知らせ
タワーレコード新宿店20周年LIVE
〜FUTURE OF BASIC〜
11/03 (土) Zepp DiverCity
モエの生まれた日〜強い女・強いメビ〜(ファンファンDJ出演)
11/06 (火) 六本木VARIT
2018寒梅館コンサート「Our Town, Our News」Homecomings/Guest:岸田繁(くるり)
11/08 (木) 同志社大学寒梅館ハーディーホール
イノトモデビュー20周年ツーマンライブ 京都篇「岸田繁くんとイノトモ」※岸田繁出演
11/16 (金) 京都 恵文社一乗寺店COTTAGE
京響プレミアム 岸田繁交響曲第二番 初演(京都公演)
[2018]
12/02 (日) 京都コンサートホール
12/04 (火) 愛知県芸術劇場コンサートホール
[2019]
03/30 (土) 東京オペラシティコンサートホール
くるりライブツアー2019 05/11 (土) Zepp Osaka Bayside
05/12 (日) Zepp Fukuoka
05/18 (土) Zepp Nagoya
05/23 (木) Zepp Tokyo
05/24 (金) Zepp Tokyo
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。