FINLANDS、満員の渋谷クラブクアトロにツアーの集大成を刻んだ最高の夜
FINLANDS | 2018.10.31
今、この場所にあってこんなにも胸が震えてやまないのは、彼女たちが放つ音楽そのものが震えているからだろうか。細かな感情の機微を音のひと粒ひと粒にまで反映させ、時に細かく、時に大きく、振幅を繰り返して生み出されるうねり。スピーカーから迸るのはエモーショナルなサウンドと塩入冬湖(Vo& Gt)の独特にして奔放自在な歌声、塩入が紡ぎ上げた生々しくも美しい言葉の三位一体だ。押し寄せる波ににただ術もなく揺さぶられ、しかし次第にぴったりと心と体が楽曲にシンクロし始めるその心地好さと言ったら! ニューアルバム『BI』を携えて全国11都市を回った“BI TOUR”、そのファイナルのステージに確信したのは彼女たち、すなわちFINLANDSというバンドの存在の無二と、現在進行形の進化だった。
2018年10月16日、ツアーファイナルの会場となったのは東京・Shibuya CLUB QUATTROだ。FINLANDSの単独公演至上、最大キャパシティとなるが、全11公演中5公演のワンマンライブ“BI TOUR ONEMANLIVE”をすべてソールドアウトさせているだけあって、開演15分前ですでに場内はほとんど立錐の余地もない。みっしりと立ちこめる濃厚な空気。予定時刻を5分ほど回ってスッと客電が落とされるや、期待を孕んださざめきはたちまち盛大な歓声に変わった。ライブにおけるFINLANDSのトレードマーク、あるいは制服と呼んでももはや差し支えないであろうファー付きの厚手のコートに身を包み、コシミズカヨ(B& Cho)と塩入が登場。次の瞬間、その出で立ちとは裏腹の爽やかなイントロがフロアを満たした。1曲目を飾ったのは『BI』のオープニングナンバーでもある「PET」だ。澤井良太(Gt)、鈴木駿介(Dr)をサポートメンバーに迎えた今ツアー、両者共に『BI』の制作にも参加していることもあり、のっけから盤石のバンドアンサンブルで聴かせる。間髪入れずに「カルト」「yellow boost」と畳み掛ければ、オーディエンスも負けじとヒートアップ。フロアいっぱいにザンザンと突き上がる拳が頼もしい。髪が乱れるのもお構いなしに雄々しいまでのパフォーマンスでビートを刻むコシミズ、マイクに向かう塩入の、少し小首を傾げたような文字通り斜に構えた立ち姿も実にアジテーティブで、否応なく観る者を熱狂に誘う。
「改めまして“BI TOUR”ファイナル、渋谷クラブクアトロにお越し下さいましてありがとうございます。去年もツアーファイナルを私たちはこの季節にやったんですけど、そのときは台風が来ていまして」
「Hello tonight」まで序盤を一気に駆け抜けて、やっと人心地ついたかのようにMCを始める塩入。曰く、昨年はライブハウスが浸水するのではないかと気が気じゃなかったそうで、「でも今回は晴れました。誰に感謝したらいいのかわからないけど、本当にありがとうって思ってます。電車が止まるか止まらないか、速報を見ながら開演を待たなくていいだけですごく幸せ」としみじみ。そこでコシミズも「ピクニックみたいな感じかな」と話に乗っかるが、返す刀で「何言ってんの?」とばっさり、演奏中の息を呑む迫力とは正反対の微笑ましいやり取りには思わず顔がほころんでしまった。
アルバムタイトルをそのまま掲げたツアーのファイナルとあって、セットリストの主軸を担うのは『BI』の楽曲たちだが、もちろんそれだけに留まらず、FINLANDSがこれまでにリリースしてきた作品からも万遍なく曲が選りすぐられ、むしろ彼女たちの歩みを包括するようなスケールの大きなメニューになっている印象を覚えた。FINLANDSがミュージック・アンバサダーを務めるアイリッシュ・ウイスキー『ジェムソン』日本限定ボトル発売キャンペーンとのコラボソングである新曲「衛星」や、BALLOND’ORとのスプリットEP『NEW DUBBING』に収録されている「リピート」も披露するなど、幅も彩りも実に豊かなのだ。『BI』のリリース時、当サイトのインタビューにて二人が語ってくれた通り、今作は“転換期”かつ“ちょっと変化した”作品なのだと思う。その理由について塩入は“FINLANDSに対しての安心感が生まれたから”とも分析していたが、それはこの日の演奏にも如実に表われていた。前述した盤石なアンサンブルがバンドの佇まいをいっそう堂々と感じさせてもいただろう。そこがブレないからより自由に伸びやかに、歌にプレイに没頭できる。変化を恐れず、自分たちがいいと思うものを自信を持って発しているから説得力もいや増す。『BI』を通じて培われた姿勢が過去の楽曲たちのポテンシャルをもグンと引き上げ、結果、1曲1曲がこれまで以上のパワーでオーディエンスを揺さぶりにかかるのだから、そりゃなす術もなくなるというものだろう。「バラード」(1stアルバム『PAPER』収録)のやぶれかぶれな狂騒から一転、ベースとドラムの訥々としたリズムが寄る辺なさを増幅させる「sunny by」(『BI』)。ウィスパーボイスが切実に迫る「Hello tonight」(『PAPER』)から疾走感すらやるせない「フライデー」(3rdミニアルバム『LOVE』収録)。まるで感情のジェットコースターに乗っているみたいだ。
それにしてもなんという熱量だろう。FINLANDSというバンド名やそのライブ衣装から喚起される低体温なイメージなどあっさり覆されてしまうほど。ライブという生身の場ゆえか、「ブームダンス」や「electro」のようなアッパーな曲は言わずもがな、どんなに気怠くどんなにクールな楽曲でも、秘めているはずの熱は彼女たち自身の手によってことごとく暴かれ、それがオーディエンスの肌をヒリヒリと灼く。「私が誰かを想ったという気持ちは私しか持っていない特別なもの。痛々しい気持ちも記録できるから歌というものは素晴らしいものだなと思いました」と告げた塩入の言葉、それに続いた「勝手に思って」の、のっぴきならず行きつく先のない、ただ焦がれるしかない思慕に脆くも涙腺は決壊した。こんなにも重く、掻きむしられるような熱に触れたことがこれまでにあっただろうか。
今回初めて自分たちの好きなバンドを誘っていろんな都市に行ったことで“ああ、これがツアーなんだ”と知ったこと。私たちはバンドであり、ライブハウスでライブをすることがモットーであること。『BI』をリリースして3ヵ月、自分たちの中でも曲が成長しているけれど、ライブ会場でみんなの顔を見ることで“この曲はこういう顔をして聴いてもらえてるんだな”と感じられること。『BI』というアルバムを作ったこの4人でファイナルを迎えられるのが本当に嬉しいこと。そうした想いを口にしながら、1曲1曲を丁寧に届けた後半戦。ラストを前に塩入はつくづくとこう言った。
「私は『BI』というアルバムを作れて本当に良かったと思っています。歌は記録だと思います。記憶はすごく不確かなので、どれだけだって美しくできるけど、記録は汚いものでも間違えてしまったこともすべて残ります。今日来てくれた人が今日を振り返ったときに思い出すことは絶対に人それぞれ。記憶を揃えて生きていくことはできません。でも記録と記憶の二つがあって、私たちの体になって、愛情になって、毎日になっていくんじゃないかなと思います」
最後に演奏されたのは、表題曲「BI」だ。《あなたのことは信じていない/だけど 酷く愛している》の2行が強烈に突き刺さる。“二つの”という意味を持つ『BI』。プラスとマイナス、ネガとポジ、二律背反、どうしようもない矛盾--そういったものを抱えながら、人は生き、人を愛す。FINLANDSもきっとそうした狭間に揺れ、震えながらもまっすぐに未来に向かっていくのだろう。ゆっくりと明るくなっていく照明、目映く漂白されていくステージがとても綺麗だと思った。
アンコールはなかった。塩入の言葉を借りるなら「21曲やったから」。トータル2時間強、間違いなく最長記録だろう。アンコールはやらない代わりに、一緒に写真を撮りませんか? と二人が呼びかけて、会場の全員で記念撮影。両腕(目立ちたくない人は人差し指)を垂直に立ててアルバムジャケットを模した“BIポーズ”をキメるオーディエンスの表情がもれなく笑顔なのがとてもいい。この日、ソールドアウトを記念して11月29日、東京・下北沢BASEMENT BARにてワンマンライブ“BI TOUR FINAL のFINAL”が開催されることも本人たちより告知された。ツーマンなども続々と決まっているようだ。ここからまた新しい何かが始まる。余韻の中にそんな予感をはっきりと感じた。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:小野正博】
リリース情報
BI(読み:バイ)
2018年07月11日
LD&K
02.ガールフレンズ
03.yellow boost
04.sunny by
05.PLANET
06.勝手に思って
07.ハイライト
08.electro
09.ランドエンドビート
10.ブームダンス
11.プリズム
12.BI
セットリスト
FINLANDS "BI TOUR ONEMANLIVE"
2018.10.16@Shibuya CLUB QUATTRO
- 01.PET
- 02.カルト
- 03.yellow boost
- 04.バラード
- 05.sunny by
- 06.恋の前
- 07.Hello tonight
- 08.フライデー
- 09.ブームダンス
- 10.electro
- 11.勝手に思って
- 12.プリズム
- 13.Planet
- 14.衛星
- 15.ULTRA
- 16.リピート
- 17.オーバーナイト
- 18.ガールフレンズ
- 19.ウィークエンド
- 20.クレーター
- 21.BI
お知らせ
マカロニえんぴつ presents.「マカロックツアーvol.6 〜甘すぎた青春の忘レモン編〜」
11/01(木)札幌SOUND CRUE
11/03(土)仙台enn3
BALLOND’OR 赤盤Release GIG『The Strawberry Party〜Special〜』
11/02(金)新代田FEVER
『BI TOUR FINAL のFINAL』
11/29(木)下北沢BASEMENT BAR
下北沢にて’18
12/01(土)下北沢周辺多数ライブハウス
JAPAN’S NEXT 渋谷JACK 2018 WINTER
12/09(日)TSUTAYA O-EAST / TSUTAYA O-WEST / TSUTAYA O-Crest / TSUTAYA O-nest / duo MUSIC EXCHANGE / 渋谷7th FLOOR / clubasia
SAMURAI戦国時代 vol.26
12/16(日)新宿SAMURAI
CLUB ROCK’N’ROLL 26th ANNIVERSARY!!! 「THE CAMP LANDMARK RELEASETOUR」
12/21(金)名古屋CLUB ROCK’N’ROLL
潮騒とエレジー
12/22(土)神戸RAT
THE SUN ALSO RISES vol.71
01/19(土)F.A.D YOKOHAMA
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。