湯木慧、感性と息づかいが感じられるワンマン個展ライブで来年メジャーデビューを発表
湯木慧 | 2018.11.03
作詞・作曲を手がけるシンガーソングライターであると同時に、映像作品、アルバムのジャケット、ライブ会場を彩る舞台装飾、衣装など数多くの作品を生み出してきたクリエイターでもある湯木慧が、ワンマン個展ライブ「残骸の呼吸」を開催した。自身の作品の展示とライブの融合ということで、場内には最新アルバム「蘇生」のアートワークでも使用されている酸素マスクや、本来ならばゴミとして捨てられそうなものに新たな命を見出した作品などをテーマごとに配置。写真家・小嶋文子や彼女自身が撮影した写真なども数多く展示され、センシティブな彼女の感性と息づかいが存分に感じられる空間の中でライブが行われた。
会場に足を踏み入れてみてまず目に止まったのは、あちこちで静かな存在感を放っていた大量のビニールだ。といっても薄い卵膜のようなタイプのもので、彼女の写真や作品を覆ったり、包んだり、あるいは破れていたり、吊り下げられていたりしている。ライブが行われたステージの壁面もその膜で覆われ、空調によって出来る微妙な揺らぎが、無機質な白壁に絶えず表情を与えていた。細部までこだわった”空間”という作品の中で、いよいよライブがスタート。今回はボーカル&ギターの湯木慧、キーボード/ベース/マニピュレーターのベントラーカオル(from koochewsen)、パーカッションのヒロシという編成だ。前半は、アルバム「蘇生」で彼女自身がコラボを熱望した5人のクリエイターとの楽曲を。トラックを同期させているためか、白いイヤフォンをして歌う姿が新鮮だ。「キズグチ」や「キオク」など、音源ではどちらかというと敢えてフラットなボーカルで言葉の熱を伝えているように聴こえていたが、この日は体全体を使ったパフォーマンスや一瞬のブレスなど、ライブならではの要素も加わってより生々しい仕上がりに。鍵盤の音色が美しくも切なく響いてくる「カゲ」は、言葉のひとつひとつを噛みしめるように歌う姿そのものが音楽となって胸に届いてきた1曲だった。フロアタムをティンパニのように響かせながら力強い音世界を作り上げた「ミチシルベ」には、その歌詞にもあるように、くじけそうになる時があっても、この声を届けるべく沢山の出会いを力に変えていくんだという、未来へ向けた気迫のようなものが伝わって来るボーカルが印象的だった。
次のパートでは、3人の音のみのアコースティック編成で3曲。照明による特別演出で大きな彼岸花のシルエットが浮かび上がった「ヒガンバナ」は、たっぷりと情感を込めた生々しい歌い出しから。呼吸だけで間合いを作っていき、バンドインした時の鮮やかさとの対比が素晴らしい。まだまだ荒削りなところはあるけれど、こういった見せ方ひとつとっても、ライブを重ねてきたからこその説得力は間違いなく増している。「金魚」は、とあるアーティストさんの『うそつき、』という作品を見て感化されて作った」ということで、曲の前にそのアーティストから借りてきたという言葉が朗読された。その導入があることで、曲の世界観を深いところから見渡せるような演出になっていたと思う。サビの高音部分がこれまでにない展開で、一度聴いたら忘れられないようなインパクトがあるなと感じた1曲でもあった。不穏なムードのピアノのイントロから始まったのは「万華鏡」。メンバーの大きな影を使った照明効果が、募っていく不安感を上手く表している。音楽を構成するのは言葉とメロディーだけではない。視覚的な表現もまた、湯木慧の作り出す音楽には欠かせない要素だ。
ステージにひとり残って、ここからは弾き語りで3曲披露。まずは、とある舞台のために作った「十愛のうた」という新曲。そして「ハートレス」は、マイクを使わずアコギ1本、客席に向かってアンプラグドな状態で歌い上げた。アコースティックのパートの選曲は前日とは変えており、この「ハートレス」だけは同じなので何かできないかということで、当日の朝このスタイルで弾き語りすることを決めたのだという。彼女らしさが伝わって来る素敵なサプライズに、客席からも温かい拍手が寄せられていた。もう1曲は、今年の夏に訪れていた大分県・阿蘇野を思って書いたという「ふるさと」でこちらも新曲。以前のインタビューでも語ってくれていたが、その旅はアルバム「蘇生」の制作にも大きく関わった、彼女にとっては忘れられない体験でもある。大自然に囲まれて作ったという歌詞とメロディーがどこまでも優しくて切なく、かけがえのない気持ちを伝えていた。
最後のパートは再び3人で。「おい、お前ら!」と唐突なMCで会場を沸かし、「昨日、MCのキャラがぶれぶれだって怒られたんだよ(笑)!」と湯木。メンバーから突っ込まれまくりの展開を繰り返しながらも、会場の異様なテンションを味方につけて盛り上がりナンバーの「僕と」へ。みんなのクラップやコーラスが加わって、賑やかな後半戦となった。
「学校を辞めてから全然人と会う機会がなくなって。何も溢れて来なくなって、いくら頑張っても真っ白いキャンバスに何も書けなくなってた。だけど書いては消して、書いては消してを繰り返していた時に使ってたティッシュを広げたらすごく綺麗だった。生み出せなかったからこそ、生み出せたものがあった。残骸に対して目を向けるようになったら、とても美しいことに気がついた。救われたんですよね」
何も生み出せなかった自分も、それこそ残骸のようだったと例えながら今回のワンマン個展ライブに至るまでの気持ちを語ってくれた湯木。ものを作る人間にとって、生み出せないという現実はとてつもない恐怖だ。発想の転換、視点を変えることで新たな呼吸を始めた湯木慧の今を伝える素直な言葉に続き、本編最後、静かな熱を帯びた歌声で「存在証明」が披露された。
アンコールでは、来年いよいよメジャーデビューをすることを報告。
「湯木慧の世界観を、いろんな人と一緒に大きく出来るかな、大きくしてやろうと思っています。きっと、世界はすごく広がる。「蘇生」というCDの中にも、今日の「残骸の呼吸」展にも、未来への伏線がたくさん張られています。これからも湯木慧と一緒に未来探しをしてくれたらなと思っています」
盛大なる祝福の拍手を受け、パーカッシブなイントロで始まる「網状脈」へ。流麗なピアノのメロディーと矢継ぎ早に繰り出される歌詞が、心地よい緊張感を与えてくれる1曲だ。会場の拍手は鳴り止まず、最後にもう一度挨拶に出てきた湯木。「まだ聴きたいと思ってくれるその気持ちがとても嬉しい。その熱で、愛で、これからの湯木慧の創作活動を応援してもらえたら」と満面の笑みで伝えていた。
私たちが知っている<湯木慧>は、まだまだほんの一部分に過ぎないはず。メジャーデビューというひとつの転機を迎える彼女の瞳がどんな景色をとらえ、どんな音色を発していくのか、これからも注目していきたいと思う。
【撮影:小嶋文子】
【取材・文:山田邦子】
<ミュージックビデオ>
湯木慧「カゲ reborn by Yamato Kasai(from Mili)」MV
湯木慧 「キズグチ」MV
リリース情報
蘇生
2018年10月17日
living,dining&kitchen Records
2.ニンゲンサマ reborn by Picon
3.キオク reborn by Sasanomaly
4.カゲ reborn by Yamato Kasai(from Mili)
5.ミチシルべ reborn by Yosuke Sato
6.ソンザイショウメイ - 弾き語り -
7.ヒガンバナ - アコースティック -
8.ナナジュウヨンオクノセカイ - 弾き語り -
9.モウジョウミャク - アコースティック -
10.イチゴイチエ - 弾き語り -
[BONUS TRACK] ハートレス - 路地裏録音 -
セットリスト
アルバム『蘇生』リリース記念ワンマン個展ライブ「残骸の呼吸」』
2018.10.21@四谷三丁目アートコンプレックスホール
- 01.キズグチ
- 02.ニンゲンサマ
- 03.キオク
- 04.カゲ
- 05.ミチシルベ
- 06.ヒガンバナ
- 07.金魚
- 08.万華鏡
- 09.十愛のうた(新曲)
- 10.ハートレス
- 11.ふるさと(新曲)
- 12.僕と
- 13.存在証明 【ENCORE】
- En-1.網状脈
お知らせ
ワンマン個展ライブ「残骸の呼吸〜大阪編〜」
11/24(土)Bodaiju Cafe
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。