おいしくるメロンパン 幻想的で獰猛で生々しい、バンドとしての厚みを増した圧巻のステージ
おいしくるメロンパン | 2018.11.26
バンドの未来にこれほど興奮できるツアーファイナルもそうない。ライブが終わったあと、ここからさらに加速していくであろう“彼ら”の姿に思いを馳せずにはいられない――そんなワンマンライブだった。
2018年7月25日にリリースした3rdミニアルバム『hameln』を携え、全国ワンマンツアーを行ってきた3人組、おいしくるメロンパン。ソールドアウトが続出したそのツアー、その名も『hamelnレコ発ワンマンツアー ~ピーヒョロピッピッピ♫~』が11月14日、満員のマイナビBLITZ赤坂でファイナルを迎えた。ツアータイトルの醸し出す脱力感とは裏腹に、これまでリリースとライブを重ねてきたことによるバンドとしての厚みと筋力、そして何より彼ら自身が知ってか知らずか手に入れていた自信がステージからほとばしる、圧巻の2時間弱だった。
「どうも、おいしくるメロンパンです!」。ナカシマ(Vo&Gt)、峯岸翔雪(Ba)、原駿太郎(Dr)の3人声を揃えての挨拶から始まったライブ。「look at the sea」で軽やかにキックオフすると、続いて2曲目で早くも彼らの代表曲である「色水」を投下する。緩急の落差をのびのびと体現するリズムとギターのストローク、音符がステップを踏むような動きを繰り返すベースライン。スリーピースならではの余白を生かしたアレンジの中で、ナカシマの歌声がちょっとノスタルジックで、でも痛いほどにヒリついた景色を描き出す。
冒頭からどちらかといえば淡々と演奏を繰り出すナカシマと原とは対照的に、ひとりだけステージ上で暴れまわっていたのがベースの峯岸。MCも彼がメインの担当なのだが、「ああ! やるぞ! やるぞ!」とたかぶりまくりである。でもそのたかぶっている感じはきっと残るふたりも同じだったはずで、その証拠に3人の織りなすアンサンブルは曲を追うごとに熱を帯び、ナカシマのボーカルの中に隠れた獰猛さが顔を出し始める。『hameln』からの「命日」で早くも前半のハイライトを見せつけると、バンド結成のきっかけともなった楽曲「桜の木の下には」から「caramel city」「泡と魔女」と、2ndミニアルバム『indoor』からの曲を続けざまに披露する。『indoor』はちょうどデビュー作『thirsty』と対をなす、おいしくるメロンパンのダークサイドを示した作品であるというのが僕の個人的見解だが、死や喪失を濃厚に感じさせる歌詞を綴ったこれらの曲が、その音の密度と歌詞の深みによって、このツアーファイナルという場にふさわしい緊張感と刺激をもたらしていたことが印象的だった。3枚のミニアルバムを完成させ、ようやくおいしくるメロンパンの立体像がステージに立ち上がるようになったとでもいえばいいのだろうか。
とはいえ、実際に音を鳴らしている3人はいたって自分たちのペースである。MCではナカシマが「人が多すぎてビビった。浮かれ気分です」と素直な感想を述べて笑いを取ったり、原がやりたいことがある、とフロアを埋めたオーディエンスに向かって「ブリッツ、盛り上がってるかー!」と絶叫してみせたり。この無邪気さがこのバンドの末恐ろしさである。
『hameln』収録曲の「蜂蜜」ではナカシマがアコギ、峯岸がアコベに持ち替えてアコースティックセットを披露。かと思えば続く「砂と少女」「nazca」では音の洪水にまみれてポストロック的構造美を見せつける。そしてほとんどパンクのような怒涛の展開を見せた「シュガーサーフ」へ。キンキンと鳴らされるシンバルがいちいち弾丸のようにこちらに飛んでくる。たとえば「色水」や「命日」のような空白を生かしたスリーピース・ギターロックと、これらの曲が当たり前に同居しているのがそもそもおいしくるメロンパンのおもしろいところではある。そんなことはわかっていたのだが、それでもライブの最初から聴いてくると、なおさらこのあたりではっとさせられるような構成になっている。峯岸が言っていたとおり、確かによく練られたセットリストである。同じく峯岸はこのツアーのことを「“本物のおいしくるメロンパン”になってから初めてのワンマンツアー」とも表現していた。本人たちも、おいしくるメロンパンが一体何者であるのか、だんだんと掴めてきているということなのかもしれない。
「紫陽花」からの最終盤は息もつかせぬラストスパートへ。そして最後に辿り着いた「水葬」がまるでそれまでのライブすべてが幻想であったかのように、オーディエンスを暗く激しい意識の深淵へと誘う。すべてを深い黒で塗りつぶしていくようなその曲を聴きながら、「とんでもないものを観ていたんだな」と改めて実感した。
アンコール前には「命日」のミュージックビデオがサプライズ公開され、大歓声のなかステージに戻ってきた3人。ここでできたばかりの新曲が披露される。ギターリフとメロディにこれまで以上の確信が宿る、おいしくるメロンパンの新たな王道のような曲だった。そして、歌い終えたナカシマは音楽に対する思いを熱く語る。バンドを組もうとしたときから、音楽に対する思いは少しも変わっていないこと。好きだと思ったこと以外はやれないし、やりたくないということ。彼はおいしくるメロンパンとは「始まったばかりの長い長い夢のようなもの」だと言った。この「夢」という言葉をどう解釈するかは人それぞれだが、僕はそれを「現実への抵抗」という意味で受け取った。だからその夢は、ときに現実以上に獰猛で、また現実以上に生々しい。
――とか考えていると、ここでいきなり原による少々グダグダのグッズ紹介が始まるのがなんとも彼ららしいのだが、そうやって無意識に受け手を煙に巻きながら、これからもこのバンドは自分の道を進んでくんだろうな。そんなふうに感心しながら、ラストナンバー「5月の呪い」を聴いた。ツアー名もそうだが、そもそもバンド名からして「おいしくるメロンパン」である。そうやって肩の力の抜けたふうを装いながら、その実その手には鋭く研いだナイフを隠し持っているような、つまりちょっとでも気を許せば心をぐっさりヤられるような、そんなバンド。「これからもわがままに、マイペースに音楽をやっていく」とナカシマは宣言していたが、その「わがまま」とか「マイペース」とは、決して3人の間の空気感だけで音楽やりますという意味ではない。シーンも、世の中の空気も関係なく、問答無用で会う人会う人すべてを射抜いていく――なんだか物騒なたとえばかりで申し訳ないが、おいしくるメロンパンとはそういう連中なのである。これまでも、そしておそらく、これからはさらに。
【取材・文:小川智宏】
リリース情報
hameln
2018年07月25日
RO JAPAN RECORDS
2.命日
3.flower
4.蜂蜜
5.nazca
セットリスト
hamelnレコ発ワンマンツアー ~ピーヒョロピッピッピ?~
2018.11.14@マイナビBLITZ赤坂
- 01.look at the sea
- 02.色水
- 03.夕立と魚
- 04.命日
- 05.桜の木の下には
- 06.caramel city
- 07.泡と魔女
- 08.泡と魔女
- 09.蜂蜜
- 10.砂と少女
- 11.nazca
- 12.シュガーサーフ
- 13.紫陽花
- 14.dry flower
- 15.あの秋とスクールデイズ
- 16.水葬 【ENCORE】
- EN-01.新曲
- EN-02.5月の呪い
お知らせ
JAPAN’S NEXT 渋谷JACK 2018 WINTER
12/09(日)[東京] 渋谷各所
見放題が勢いで沖縄までやって来た2018
12/16(日)[沖縄] 那覇Output
COUNTDOWN JAPAN 18/19
12/28(金)[千葉] 幕張メッセ国際展示場1~ホール、イベントホール
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